205回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 16:追憶の森(11)
「マスター今の話本当?」
「ちぃとばかり不味い事になってるみたいだな、ギルドに話は持ち掛けてみるが」
「まぁダメだろうにゃ」
僕らの会話に割り込みながら猫獣人が僕の隣に座って酒を注文する。
「ギルドのメンバーが危険にさらされてるのに?」
「命の対価に金やサービスを提供するのが雇用契約ですから、なんてガットはしれっというだろうなぁ」
「それじゃ僕が助けに行くよ」
「錯乱状態とはいえグレッグを捕まえられるような相手をお前がどうにかできるわけないだろう」
「にゃははは、ざまあないにゃぁ」
急に笑い出した猫獣人を見ると、彼の手にはマタタビの枝の入った酒が握られていた。
「処刑の見物でも行ってみようかにゃ~」
「縁起でもない事いわないでよ、そりゃ森での恨みもあるんだろうけどさ」
「なるほどね、なぁジョッシュ、お前も行って来いよ見物」
「マスターまでなんでそんなこと言うの?」
彼の顔を見ると片眉を上げて意味深に微笑んでいる。
「見物客なら連中も歓迎だろうしにゃ、人間の一人二人紛れ込んでても気にしないかもにゃ」
「それって」
つまり見物客として近づいて、グレッグを救い出すって事が言いたいのか?と僕は気づく。モンスター達のいるこの場所で直接そう言えば確実に邪魔が入る。だから彼は間接的な言い方をしてるのかもしれない。
「僕も連れて行ってほしい、お願いできるかな」
「仮にも命の恩人に薄情な人間だにゃ、仕方ない連れて行ってやるにゃ」
僕は彼に手を差し出す。
「名乗るのが遅れたね、僕はジョシュア」
僕の手を見てあっけにとられた顔をしていた猫獣人は、口元についたマタタビの粉末をぺろりと舐めると笑いながら手を取った。
「俺はリガーにゃ、相棒のトカゲはボーディ、よろしくしてやってくれにゃん」
握手でつながったリガーの手は熱いくらい温かく、肉球がふにふにしていて気持ちよかった。




