202回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 13:追憶の森(8)
何かが風を切る音がして、僕の顔になにかの液体が滴り落ちてきた。最初は焼けつくように熱く、熱を失うと水よりも冷たくなるそれに僕は覚えがあった。血だ。
目を開けるとグレッグの肩に数本の細い銀色の棒が突き刺さり、そこから血が流れだしていた。
「ヒヒヒィッ次は脳天に穴開けて欲しいか、それともそのどでっぱらに開いた穴からはらわた引きずり出してやろうかァ」
声のした方を見るとそこにはナイフを舐めているリザードマンと、なにかを肩に担いだ猫獣人の姿があった。グレッグに刺さったナイフはリザードマンが投げた物のようだ。
リザードマンがそういって追加で投げたナイフがグレッグに突き刺さり、彼は突然うめき声をあげ、地面に頭を突っ伏して叫んだ。
「おお~ナイフに塗ったものが効いてるにゃぁ」
猫獣人が感嘆の声をあげた。僕は自分の顔の横で苦しむグレッグを見た。苦しそうに目を閉じていた彼が瞼を開けると、その目には光が戻っていた。僕はグレッグの名を呼ぶが、声がかすれてうまく出ない。僕の首を絞める自分の手を見てグレッグは狼狽え戸惑っていた。
「俺はいったい、なにを」
リザードマンのナイフがさらにグレッグの背中に数本突き刺さり、彼は体をのけ反らせ苦痛に呻く。
「さぁ次は急所を狙うぞ、早く逃げたほうが得策にゃん」
待って、やめてくれ。そう叫ぼうとしても叶わず、呼吸の苦しさに僕は顔を歪める。そんな僕の顔を見てグレッグは首を横に振り、動揺しているようだった。
「俺、そんなつもりじゃ。頼む、俺をそんな目で見ないでくれ」
ああ、不味い。彼を行かせちゃいけない。止めるための言葉も出せず、引き留めるために体を動かそうにももう指一本も動かせない。
「許してくれジョッシュ」
そう言い残してグレッグは走り去っていってしまった。体が心が遠ざかって行ってしまう。途方に暮れている僕に猫獣人が近づき、僕の口に大量の草をねじ込んだ。
「毒消し草だにゃ」
彼はそういって指をさし、その方向を見ると斑模様の妙な花が大量に咲いていた。
「幻覚花だにゃん、この森に元々生息してる蔦植物。あれの香りを嗅ぐと、頭の中の記憶を泥でもこねるみたいにぐちゃぐちゃにされて、現実と区別がつかなくさせるんだにゃ」
「麻薬を作る時にもよく使うぜェ、ヒヒィッ」
グレッグの様子がおかしかったのは幻覚花のせいだったらしい。
すぐに傷を負ったグレッグを追いかけようという僕を、猫獣人とリザードマンは半ば誘拐のような形で街へと連れ帰った。その道中僕は思った。あんな思いをさせたまま友達と別れるなんて僕にはできない。
僕は街についたらグレッグの行き先の手掛かりを掴むため、ギルド酒場のマスターに相談してみる事にした。




