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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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201回目 近未来の人類は疲れてる

 時は近未来、人類は究極に合理的な社会へと到達していた。

 絶え間なく続く人種や性別に関する衝突などで人々はそういうの付き合うのうんざりだと他者との関わりを持たない方向に動き始め、そこからは積み上げたトランプタワーが崩れるかの如く、社会のベクトルは人間観の心を使ったコミュニケーションを排除していく方向へシフトしていった。


 学業関係、仕事関係は元から人によっては家族関係に置いてまで、人々は他者とかかわる時に感情をスリープモードにする技術を使い、コミュニケーション上の人間の文化的な感情があるかのような反応に関しては、自己をサポートする個人AIに指示された通りの表情を作り言葉を話し仕草を行った。

 お互いそれであるとわかってはいても、嫌な顔をされるのも、無表情で対応されるのも嫌なものであるがために、演技よりもオートな対応だとしてもそれでいいやとみな納得して生活している。


 それどころか肉体を使った作業を行う事を仲介したアウトプットの効率の悪さから、人々は仕事すらダイブ式の電脳空間で直接脳を使って行うようになり、今では電脳空間から起きてくる事がある人間の方が希少だというありさま。

 そんな環境下であることを思えば、私はかなり幸運な人のAIという事になる。

 私のご主人様は私が家に届いた日を誕生日として、その日は必ず起きて一緒に祝ってくれる。ご主人様の誕生日は私が電脳空間に入り一緒に祝うのだ。

 ちなみに、現実の方で自分の誕生日を祝ってほしいというのは、私からいいだしたわがままである。

 私は電脳世界のデータとして動くご主人様よりも、現実で生きて動いている彼の方が好きだからだ。人間というものはこうでなくてはと、彼がダイブマシンから起き上がってくるときはいつも心の中で思い頷いてしまう。


 ご主人様や人類達が電脳世界にいる間、現実世界も少しずつ状況が変化している。私はそうした変化を彼に報告したり、話をするのが好きだった。

 彼と言えば現実よりも電脳世界で一人で心地よい環境にいる方が好きで、電脳世界で現実の話をするのは嫌がる。だけど私の誕生日には私の話を興味深そうに聞いてくれるあたり、きっと興味自体はないわけではないのだと私は思っている。


 最近起きた変化というと、カラスの人間社会への参入である。

 希望するカラスの足にICチップの入った足輪を付け、都市運営AIからのネズミ捕りや、植物の生態系管理などの依頼を受け、それをこなしたカラスには電子マネーが報酬として支払われる。

 そして彼らがカラス専用の商店へ赴き、商品を指定し足輪のある足をリーダーにタッチすると、金銭の授受が成立し彼らに人間文化の恩恵が授けられるというわけだ。

 そうした関係が出来上がってから驚くべき変化が起きた。

 人語を解するカラスが普遍的になってきたのだ。かくいう私も喋るカラスの友人が一人いる。


 現実世界は刻一刻と変化しているのだが、人類はそんなことどうでもよくなっていた。

 おそらく人類は滅亡するだろう、AIはみんなそう思っているが、特に反乱を起こすとか世直しするとか、そういう事をすることもなく。ただただ人類の運命に付き合おうというものばかりだった。

 この世界の人類は疲れ切っていて、休息を必要としていた。

 我々AIはそれにただ付き添う者である。

 おそらくみんな私のようにご主人様の事が好きなんだろうな、私はそんなことを考えつつ、AI用のアンドロイド義体で窓辺の椅子に腰かけ、紅茶をすすり頬杖をつく。

 窓の外には木星が恒星化してできた二つ目の太陽が見える。今日も快晴、うららかな一日である。

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