200回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 12:追憶の森(7)
グレッグが僕の首を絞める力は徐々に強くなっていく。冗談というわけじゃなさそうだった。僕は顔に血がうっ血する嫌な感覚と、呼吸ができない苦しみでパニック状態になり、グレッグの腕を掴み彼を振りほどこうとした。しかし力の差は歴然としていて、彼は僕の抵抗などまるで感じていないかのようだ。
どうしてこんな事に、どうしてこんな事を?僕は彼の顔を見て絶句する。
その顔は普段の彼とは別人かのように歪み切っていた。しかしそこから僕が感じたのは怒りや憎しみじゃなく、深い悲しみ、それに絶望のような彼の感情だった。
「ジョッシュ、お前にまで裏切られたら俺は……」
彼は目から涙をこぼしていた。
恐らく彼は正気を失っている、そしてその原因は彼の奥底にある何かの傷が起因しているのではないかと僕は思った。彼には一度命を救われている、それにどっちみち一度死んだ身なのだ。僕は彼の腕から両手を離し、穏やかな顔になるように努力した。
「いいよ」
僕はグレッグに向かって口だけを動かしてそう呟く。
君になら殺されたっていい、もしそうすることで君が楽になれるなら、僕はここで終わりでいいと思った。
「お前……なんで、なんでそんな顔するんだよ。どうせ嘘なんだろ!俺の事心の中で馬鹿にして笑ってるんだ!!」
グレッグの手の力が強くなり、首の骨が軋む音がした。目の前の視界がぼやけていく。ああ、それでも僕は彼が嫌いになれない。こんな関係でも彼を一人にしたくない、そう思った。




