199回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 11:追憶の森(6)
森の中を僕はひた走る。僕を救うために危険を冒し、深手を負ったグレッグの元へ。
木々のざわめきが僕に声なき声で何かを訴えかけてくる。
「そっちにグレッグがいるのか?」
なぜわかるのか自分でもわからない、しかし僕は無意識にベルトに差した琥珀のダガーを触れていた。祈るような気持ちでどうかその予感がたしかであって欲しいと願いながら
僕は森の中を走り続けた。
無数に立ち並ぶ木々の群れが視界に現れては消えていく。その様子を注意を払いながら見ていると、見慣れた大柄な獣人の姿が目に飛び込んできた。
「いた、グレッグ!」
僕は息を切らし、木の根を飛び越え、枝をかき分けて彼に駆け寄る。
「しっかりして!すぐに助けるから」
彼は腹部を木の枝に貫かれ、全身を蔦で絡め取られる形で宙づり状態で意識を失っていた。僕は琥珀のダガーを掴みグレッグを貫いている枝の根元を狙って刃を振り下ろす。するとダガーの刃が触れた瞬間、枝だけが急速に干涸らび枯れ果て朽ちていき、支えを失った事で蔦がグレッグの体重を支えきれなくなり、次々に引きちぎれて彼は音を立てて地面に倒れ込んだ。
僕は意識のない彼を揺さぶり起こそうかと思った自分を制止し、深呼吸した。大怪我を負った対象の救護はまず傷の状態を見る事から、以前講習でそう習ったのを思い出す。
グレッグの腹部の傷からの出血は幸いな事に少なく、血の色も赤い。つまり動脈や内臓の損傷の可能性は低い。
次に僕はグレッグの首もとに指を当てて彼の脈を測った、人間と同じやり方で脈が取れるか不安はあったが、彼の脈拍も取ることが出来た。
ほっと一安心した、その時。グレッグは突然目を見開き、僕を凝視した。
「わ、ビックリした。意識戻ったんだねグレッグ」
よかった、そう言おうとした僕の口からその言葉は出ず、代わりに圧迫された気道から漏れる微かな呼吸音がした。
咄嗟の事で僕は何が起きているのか理解出来ずに困惑する事しかできなかった。
目を覚ましたグレッグは、僕の首を絞め殺そうとしていたのだ。




