198回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 10:追憶の森(5)
「君は不思議な人だね、ここに来た誰とも違う」
水の中なのに声が聞こえた。幼い男の子のような声だ。
「人間なのにモンスターが好きなんて、変わってるね」
その声は感覚器官を通してではなく、直接僕の意識に響いているようだった。
「この世界に来て初めてできた友達なんだ」
妄想や幻聴かと思いながらも、僕はその声に答える。
「へぇ、そうなの」
無邪気な笑い声がした、明るくて子供らしい木漏れ日のような声。
「会いたい?」
その言葉に僕は胸の奥に触れられた気がした。思いが湧き出してくる。グレッグに会いたい、もう一度彼に会いたい。
「うん、会いたい」
静寂、もう水の音も聞こえない、全身の感覚もなかった。ただ宙を漂っているような感覚の中で、僕は彼の返答を待つ。
「じゃあ僕も連れて行って、そうしたら会わせてあげる。君の友達に」
唐突に体の感覚が戻ったかと思うと、次の瞬間僕は濁流から放り出され地面に転がった。せき込みながら呼吸をして立ち上がるとそこには奇妙な光景が広がっていた。
森の中にまるで透明な壁があるかのように大量の水がせき止められている。それは左右に真っすぐ続いていて何かの仕切りのようにも見えた。
「もしかしてこれがグレッグの言っていた境界?」
その幻想的な様子に僕は水と空気の境目を触れてみる。ミスリルプレートが強烈な光を放ち思わず僕は目を閉じた。再び視界を取り戻した時、境界を触れていた僕の手の中に、一本の琥珀でできたダガーが握られていた。




