194回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 6:追憶の森(1)
依頼された森にたどり着くと、僕はグレッグの指示で彼の後ろをついて歩いていた。
「怖いか?」
「森に入るなんて初めてで、ちょっと緊張するかも」
僕のその言葉にグレッグがどんだけ生ぬるい環境で育ってるんだ?というような目をするのを見て、僕は思わずしょんぼりしてしまう。現代の日本では整備されたエリア以外で生活することはほぼない、そういう意味でもグレッグがついてきてくれて本当に良かったと僕は思った。
「でっかい背中だなぁ」
僕がそういうとグレッグは照れくさそうに頭をかいた。そんな彼の様子に昔飼っていた犬を重ね、僕は彼が少し可愛いなと思った。
「おっと、ここで一旦停止だ。あれを見てみろ」
グレッグが片腕で僕を制止し、指さした場所を見ると、奇妙なものがあった。
「樹木に動物の骨が飲み込まれてる?」
「人間だよ、人骨だ」
その言葉に僕は思わず息をのむ。丁度そこに通りかかった鳥を、木の枝が鞭のようにしなり叩き落す。僕らの目の前に落ちた鳥は潰れて赤いペースト状になっていた。
「ここは普通の森に思えるがカオスオブジェクトによる異界化が起きてるんだ。木々の中にクリーチャーが混ざっている。知らずに歩いたらこの通りってわけだ」
しかしまぁ、そう言いながらグレッグは歩き始める。
「ガットの野郎ここを処刑場代わりに便利に使ってたらしいな」
その言葉の後から木々を見ると、木々のそこかしこに骨や腐って溶けた肉などが巻き込まれいびつに歪んだ木がいくつもあった。
「おかげで目安はつきやすいか、離れるなよジョッシュ」
「出来ればゆっくり目に歩いてくれると助かる」
わかったわかった、そういってグレッグは笑う。僕は子供扱いされてるみたいで少し恥ずかしい気持ちになった。
それにしてもこの森、人間の骨だけじゃなくてモンスターのような、見るからに異形のなにかの骨もそこかしこにある。グレッグは恐ろしくはないんだろうか。
そんな僕の気持ちとは裏腹に彼は迷わず進んでいく。親切で優しくて勇気があって頼もしい、僕はこの世界で最初に出会ったのが彼でよかったと心から思った。




