193回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 5:闇の底から来たりし者
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「もう善人ぶるのはウンザリだ」
勇者がそう叫ぶと、社交界にいた貴族達がみなサイコロ状の肉片に変わった。
その場にいたボクはそれをただ見ているしかできなかった。
魔王ヴァールダントを討伐した勇者とボクを含むその仲間達は狂っていた。
七つの兆しの後、世界は混沌に飲まれて崩壊する。
魔王が今際の際に残したその言葉、魔王を倒してしまった事でこの世界が滅びる。
それを知っているのはボクらだけだったから。
今迄に現れた兆しは三つ、辛くも退けてきたが、そのたびに払う代償の大きさからみんなが壊れていくのを感じた。
もうボクにできることは一つしかない。
城の憲兵が集まり勇者を取り囲む。
「雑魚共が俺に勝てると思ってるのか?」
彼はいつものように剣を構え、空間を歪め、あまたのモンスターを一瞬にして葬ってきた力を憲兵達に振るおうとした。
「は?」
次の瞬間、勇者がみたのは自分の腹部に深々と突き刺さった憲兵の剣だった。
猛獣を仕留めるように、憲兵は次々と勇者に飛びかかり、彼の体を無造作に残忍に剣で突き立て切り裂き引きちぎった。勇者の光を失っていく目がボクを見ていた。
ボクは狂ってしまった仲間達から身体の自由を奪い、その末路を見届けていった。
ボクは意志を持たないはずのクリーチャーが何故か意志を持った存在。
モンスターですらないただの化け物、それがボクの正体だ。
ネズミ獣人の醜い体、モンスター達からすらさげずまれ居場所のなかったボクに、冒険者の彼らは手を差し伸べてくれた。
彼らと夢を見たいと、心からそう思った。それだけだったはずなのに。
仲間の最期を見届け、あてもなく彷徨い、気がつくとボクは深い森の中を歩いていた。
この世界を救うために、できることはおそらく一つしかない。
それは特殊な混沌構成物であるボクにしかできない事だ。
必要なのは契約者だ、混沌に強い耐性を持ち、強い意思を持つ者が良い。
この世界の最期に際して、世界を守るために、人間達を全て殺す必要がある事。
それを受け入れ実行できる、ボクの共犯者が必要だった。




