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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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192回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 4:ようこそ!混沌世界へ(4)

 この世界にはもともと人間はおらず、この大地を生み出したヴァールダントと彼の眷属の世界であった。人間達はある日を境に、自然発生したとしか言いようの無い形で現れ、ヴァールダントは守護しなければ死んでしまうほど弱かった彼らも庇護の対象とし、そしていつしか人間たちは集合体を作り、国家を形成するまでに至った。

 この世界の守護者にして混沌の渦を制御する力を持っていたヴァールダントに対して、人間達は一方的に自分達を支配する悪の魔王と呼び、眷属達をモンスターと呼称し始め、そしてヴァールダントに使用を禁じられたカオスオブジェクトの力を使い、この世界のバランスを崩壊させていった。

 バランスの崩壊により天変地異や飢饉が起こり疫病が蔓延し、人間達はいつしか世界のバランスの崩壊の原因をヴァールダントであると主張し、モンスター達が確保し封じていたカオスオブジェクトを狙った襲撃が相次ぐようになった。

 それでも人間共を許し和解を求め続けたヴァールダントと、彼に従ったモンスター達は、結局人間共による攻撃を受け、ヴァールダントは死に、モンスターの大多数がなぶり殺しにされた。


 そこまで話を聞いた僕は率直な感想を口にした。

「僕ってもしかしてここにいると命が危ないのでは?」

 ガットは肩をすくめて心から呆れたというような表情で答える。

「当然その通り、しかしマスターがギルドへの立ち入りを許可した者を直接殺すわけにもいきませんから。一応は安心して良いですよ」

「マスターって酒場の?あの人も僕と同じ人間じゃ無いの?」

「ほう」

 ガットはその言葉に目を細めた。

「なるほどあの方はそう見えましたか、興味深い」

 そういうと彼は笑った、他人の不幸を愉快と思うような冷たい顔で。

「それで僕はなにをすれば?」

「プレートに記載しておきました、ここを出たら確認するといいでしょう。間違いを犯す同胞がいないとも限りませんから、早々の退去をお勧めしますよ」

 言葉の内容とは裏腹にガットは野良猫でも扱うように追い払う仕草をして見せた。


 酒場に戻ってくるとマスターにじっと見つめられ、カウンターの席に座るように促される。彼が指示した場所にはグレッグが座っていた。

「アイツが他人を気にいるなんてお前なにしたんだ?」

 その言葉の意味を理解できず首を傾げ、僕はグレッグの隣に座った。

「よう」

 そういってグレッグは僕の肩に手を置いて、僕は彼の顔を見上げる。

「仕事受けてきただろ、プレートちょっとかしてみろ」

 言われるまま僕はグレッグにプレートを手渡すと、グレッグは慣れた様子でスマホのフリック操作みたいにプレートを操作した。表示される文字が次々に切り替わっていく。すげえな魔法銀、わぁ便利なんて事を僕が思いながら見ていると、グレッグがふと手を止めた。

「なんだこのスキル、ブラザーフッド?まぁいいやこれだこれ」

 僕にガットが依頼したらしいクエストの指定されたエリアを見て、グレッグはやっぱりなと言いながら首を横に振る。

「これお前一人で行ったら死ぬぞ、完全に殺す気だアイツ」

「え、でもマスターが通行を許可したものは殺さないって言ってたよ?」

「直接は、とか言ってなかったか?」

 僕が少し考え、そういえば言ってたと頷くとグレッグは大げさにため息をつく。

「説明は聞いただろ、モンスターで人間に好意持ってる奴なんて一人もいねえんだ。特にアイツはヴァールダント様の元で働いてた側近だったからなぁ」

 仕方ねえ、そういってグレッグは自分のプレートと僕のプレートをぶつけて連動させた。

「お前が独り立ちできるまでは俺が一緒にやってやるよ」

 グレッグの思いがけない好意に嬉しくなった僕は目を輝かせて本当に!?と彼につめよった。

「あ、でも大丈夫なの?モンスターって人間が嫌いなんでしょ?」

 まぁそりゃお前、あれだ。とマスターが苦笑いして言いかけたのを塞ぐようにグレッグが少し大きな声で言う。

「勘違いするなよ、少しだけ責任感じてるだけだからな。お前がのたれ死んだら少し気分が悪くなっから、別にお前が気に入ったとかじゃないんだ」

 ちらっちらっ、そう言いながらグレッグが何かを期待するような目をして僕を見た。

「別にお礼とか言わなくてもいいんだからな?」

 ははぁ、なるほどなと僕は心の中で笑う。

「ありがとうグレッグ、君は凄く優しくていい人なんだね」

 にんまぁ、と文字が浮かびそうなほどの笑顔になったグレッグ。その尻尾の振り具合が棍棒を振り回すそれのようになり、通りかかったモンスターを数人吹き飛ばしてしまった。

「ははぁ、なるほどねぇ」

 マスターがコップを吹きながら頷くと、グレッグは顔を赤らめながら彼に文句を言いたげな顔をする。

「なんだよ」

「なんでもねぇよ、お前もちょっとばかしは可愛いところがあったんだなと思っただけさ」

 グレッグの全身の毛が逆立ち、彼が掴んだカウンターテーブルの一部が粉砕された。

「ふざっ……」

 立ち上がろうとしたグレッグの肩が僕にあたり、僕がよろけると彼はふっと冷静さを取り戻した。

「まぁいい、酒だ酒、お前はミルクにしとくか?」

 グレッグがそういうと同時にマスターがグレッグの前には酒、僕の前にはミルクの入った木製ジョッキを置いた。

「今日の飲み代はおごりにしといてやるよ」

 そう言ったマスターに余計な事しやがってと悪態をつくグレッグに僕はつい笑ってしまう。

「飲んだら装備とか見繕いに行くぞ」

「うん、これからよろしく!」

「いいねぇ、威勢よくいこうか!」

 僕とグレッグは互いのジョッキをぶつけ合い、僕らはそれを一息に飲み干しカウンターに叩きつけた。

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