190回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 2:ようこそ!混沌世界へ(2)
そんなこんなで僕は今犬獣人の男と一緒に街へとやってきた。角の生えた犬獣人の大男はグレッグと名乗り、僕はキャラクター名であるジョシュアと名乗った。僕が根無し草であることを話すと、彼は僕をギルドに案内すると言って今に至る。
「立派な建物だなぁ」
ゲームで遊んでいた通りの地形であったためギルドの場所もすぐにわかった。街の中心部にある教会に隣接している場所、そこが冒険者ギルドである。
「実際に目にしてみると案外印象違うもんだな」
馬車や冒険者達がギルドへ向かっていく様子、屋台から漂う香ばしく焼けた肉の匂いや甘いお菓子の香りがあるのが特に現実味を帯びさせる。
「おいジョッシュ、どこ行こうとしてるこっちだぞ」
グレッグの声に振り向くと彼は寂れた裏路地に入ろうとしていた。
「え、でも冒険者ギルドでしょ?」
僕の問いに答えないまま進んでいってしまう彼を人波をかき分け追いかけていく。
裏路地は表通りとは全く違う雰囲気だった。暗くじめじめしていて、ゴミが散乱し、荒んだ眼をした男と野良犬が何かを取り合っている。ゲームだと見えない壁があって入ることができなかったエリア、知ることのなかったこの街のもう一つの顔がそこにあった。
裏路地の先に一軒の酒場の看板があり、ウェスタンドアを開いてグレッグは中に入っていく。その後に続いて店の中に入るとむせ返るような酒の匂いと喧騒が広がっていた。そしてなにより異質だったのは、そこにいる客のほぼ全員がグレッグと同じく異形の姿をした存在だった事だ。
そもそもグレッグのような獣人のNPCなど見たこともなかった、敵のモンスターとかにはいた気がするけれど。と見まわしてみると、明らかに戦ったことのあるモンスターの姿をした客もいて僕は震えあがり、グレッグの姿を探した。
彼はバーのカウンターでマスターと話をしているようで、僕は彼の元に駆け寄っていった。
「人間の小僧を一人ギルドに入れてぇんだ、話通してもらえるか」
そういったグレッグにマスターは渋い顔をし、僕をちらりと見た。マスターは壮年に入りかけの普通の人間だったが、酒場のマスターというより歴戦の戦士の雰囲気を漂わせている。
「グレッグ、お前シラフだよな?ここがどういう場所か忘れたわけじゃないだろ」
「こいつには妙な天賦があるらしくてな、これの効き目がねえみたいなんだ」
そういってグレッグがカウンターに置いた金属製のエンブレムのようなものを見てマスターの目の色が僅かに変わった。
「おい、小僧。少し聞きたいことがある。お前この酒場にいる連中が”何に”見える?」
「何って」
僕は言葉に困ったが、グレッグの促すような目を見て見たままの事を正直に話すことにした。
「グレッグと同じ、モンスター?」
それを聞いたとたんマスターは大きなため息をついた。
「やばいだろ?」
「ああ、たしかにこいつは不味い。うちで身元を預からないといけねえな」
「えっと一体なんの話をしてるんだ?」
状況が飲み込めず二人に問いかけるとマスターが少し脅すような口調で僕に言った。
「お前この街にモンスターがうろついてるなんて話まだ誰にも言ってないよな?」
「あーそこらへんは大丈夫だ、訳ありみたいで記憶が混乱してるらしい。人里につく前に俺と行動してたから問題ねえよ」
その言葉を聞くと同時にマスターはカウンターの下を大きな音をさせて蹴りつけた。
「え?なに?俺なんか怒らせることした?」
僕の頭をグレッグが乱暴に撫で、肩を掴んでカウンターの中へ押し込む。カウンター内の床が開いて地下に繋がる階段があった。
グレッグが降りていく後ろからついていく。思いのほか長い階段だ、地下シェルターにでも潜り込んでいるような気分になった、空間は広く、階段の両端の溝に流れる油についた火が明るく照らしている。
階段の終わりに大きな扉があり、グレッグが先ほどカウンターに置いていたエンブレムのようなものをかざすと、鍵が開くような音がした後扉が左右に開かれた。
「ここはなんなの?」
扉の先はまるでモンスター達のためのギルドのような光景が広がっていた。
「この街の闇ギルドだ、これからお前が働く場所さ」
そういってグレッグは毛むくじゃらな手で僕の肩を叩いた。




