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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
小説家志望のおじさんは異世界へ渡った
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188回目 小説家志望のおじさんは異世界へ渡った 終

キョウカの所属する調停者とはヴァリスの国家が生まれてから自然発生的に生まれた民間の地下組織であり、獣人化した人の人権を確保するために魔獣化の兆しのある人間を秘密裏に暗殺する組織だった。

文芸部の部長が持ってきた古文書はレイスとなった人々が最後にたどり着く死都の王ラハブの玉座へと至る手段の書かれたラジエルの書と呼ばれる存在であり、それを部長に渡した老人は調停者のメンバーの一人だった。

老人を殺したのは魔獣ではなく社会不安を植え付けられたシャムシール民族が生み出したスキュラであり、それを誘導し老人からラジエルの書を奪おうとしたのはシャムシール側の実験部隊に所属するオルランドだった。


古文書を読み解くためにはゲマトリアと呼ばれる特殊な魔法が必要で、早急にそれを見つけ出して古文書の謎を解き明かして封印しないと、次はウィル達が殺されてしまうかもしれないとキョウカは言う。


文芸部員達が手分けしてゲマトリアを探す中、マークはニコルとの約束の日彼女に心当たりがないか尋ねてみる。彼女はマークに舞台劇のチケットを渡しそこで会ったら教えてあげると言い残して去っていく。


劇場の席で遭遇するウィルとレミアとマーク。

始まった舞台の内容にマークは顔をしかめる。

兄が台本を書いているはずのその劇でマークの父がどれだけ不誠実な卑怯者だったかという内容を役者たちがおどけながら演じ始めたからだ。

しかしそこに現れた歌姫の演技とセリフにウィルとマークが反応する。彼女だけがマークの書いた物語を演じていたからだ、そして彼女の顔を見たマークは彼女がニコルであることに気づき驚く。

マークの描いた父の汚名を晴らすための物語と、コーディの描いた父を否定するための物語が奇妙な形で噛み合い、その舞台の雰囲気にいつしか観衆は引き込まれていた。


幕間の時間にコーディに問い詰められるニコル、彼女はコーディにこれが貴方にとって弟さんに許される最後の機会になると言う。

許すという事は期待することでもまして義務として要求できることでもない。許す側にとって受け入れることの出来る信頼の証があって初めて許される可能性が生まれる、そのうえで相手の選択に全てを委ね、その結果を受け入れる。そういうものだとニコルは言う。

自分にどうすればいいというのかと尋ねるコーディにニコルは、あなたが今すべきなのは私のしている事も全て自分が意図してやったと堂々と歩み出る事だと彼女は言った。

ニコルを止めにやってきた興行主にコーディが立ちふさがり、彼女は舞台へと駆け戻っていく。そしてクライマックス、マークの母の役を行っていたニコルは亡き夫の事を想いこの都市の失われた歌を歌い始めた。

舞台の予定にない歌のメロディに演奏は止まり、会場にはただニコルの歌だけが響き渡る。

彼女の歌が終わり、舞台の幕が下りると万雷の拍手が起こった。


そしてカーテンコール、再び幕が上がり、舞台の中心にはニコルと、そしてコーディの姿があった。俯いていたコーディはニコルに肘でつかれ、顔を上げてマークを見た。マークは満面の笑みでコーディに拍手を送っていた。その顔に幼い頃コーディはマークのその嬉しそうな顔が見たくて、あれこれ趣向を凝らして一緒に遊んだりプレゼントを贈った記憶を思い出す。

幸せそうな顔しやがって。そう呟くコーディ。ニコルが彼の顔をさりげなく見ると、コーディは優しい顔で微笑んでいた。ニコルは満足げに客席に向き直り大きく一礼をし、演者全員がそれに習って礼をした。

会場は割れんばかりの拍手に包まれ、舞台は観客達の惜しみない歓声の中で幕を下ろした。



ニコルの歌った歌がゲマトリアであり、ウィルはラジエルの書を解読することができるようになっていた。

それに書かれた場所に定められた時期に行くことで死都の王に会う事ができるとわかる。

彼に会うことができれば不安定なこの世界を変えることができるかもしれない。


学校に二人の転校生が現れる。

一人はオルランドという青年、そしてもう一人はシアという少女、牛男に襲われたときに見た彼女をウィルは警戒する。

しかしオルランドやシアと文芸部の仲間たちで親交を深めてしまい、なし崩し的にウィルも彼らに気を許し始めてしまう。オルランドの目がエドワルドに似ていた事も少しだけ起因していた。


そんな生活のさなか、ノエルとアケローンが行動を起こす。

針金のような寄生虫を対象の体内に張り巡らせて操るアケローン、彼の肉体も実はもう抜け殻になっているものを彼の本隊が寄生虫を用いて操っていた。そして彼の正体は保険医のリエッタの生き別れの弟であった。

アケローンの本体は街の隣の大河に潜んでいて、そこから無数の卵を川に放ち続けていて街の住民のほとんど全員がいつでも彼の操り人形になる状況だとわかる。

ウィルとオルランドは共闘して大河にいる巨大水棲生物であるアケローンの本体を引きずり出す。

そこでオルランドの取り出した魔剣「デュランダル」に封入されたシャムシールの四聖人の亡骸を媒体に彼はシャムシールの守護獣である四神竜の一体「マルフィーザ」を呼び出す。


オルランド、シア、そして牛男のオーガはシャムシール側の実験部隊に所属する人間だった。シアは全身の血液を液体化された魔石に置換され、オーガはシャムシールの魂の在処の検証と実験のために獣人化したヴァリス人の体に脳を移植されたシャムシール人だった。そしてオルランド、彼はヴァリス人であり、かつて戦争を止めるためにヴァリスとシャムシール両国の秘密組織がトレードを行ったヴァリス側の王子であることが彼の口から明かされる。


そしてレミア、ノエル、アケローン彼らはヴァリス側の実験体であり。ヴァリスのある不都合な真実を覆すための実験の被験体であると。

ヴァリスの民はそもそも人間ですらなく、この世界に存在を許されない種族。悪魔が生存するために人間の姿を模して人間に紛れ込んだものであるという事。


本来ならヴァリスには絶対にシャムシールに勝つことはできず、その原因はウィルの血筋だけが使えるヴァリスの民族を皆殺しにするための魔法ディアドラにあるという事。


彼らは皆シャムシールとヴァリスの混血であり、魔獣化の恣意的な姿や能力の発現の実験のためのアケローン、ヴァリスが悪魔であることを証明してしまう結果となったノエル、そして唯一全てを覆す可能性を持つものとして完成したレミア。

ノエルがレミアに執着する原因は彼女たちが昔は親友であったこと、そして実験のさなかレミアから人格が喪失され、彼女が器としての機能を持った瞬間彼女に人格が現れ始めたことから昔の関係を取り戻そうとしている事が原因であるという。

しかしレミアの人格は彼女の中に取り込まれたある人物のレイスをベースにして構築された模擬的なものであり、ノエルの求めるものではなかった。

レミアはシャムシールから王家の秘宝であるレムリアの火を簒奪するための器であり、レムリアの火を自らの魂を使い保持したアンジェラは、彼女の中に入れることのできる形にするために殺されたという事が明かされる。


発狂したノエルが実験体ローゼンベルクとしての能力を暴走させ始める。

彼女の能力は魔獣の女王としての能力。他者を魔獣化して自由に操ることができる。

ノエルが噴霧した彼女の蜜を吸ったヴァリス民族の体に、彼女が求めるレミアの姿をした異形の魔人が生え始め、生身と意識を残された人々が助けを叫びながら襲ってくる地獄と抜けてノエルが拠点にしているビルへと向かうウィルとオルランド。

ビルの内部はノエルと一体化し肉の壁となった人達の残骸で埋め尽くされ蠢いていた。

最上階で寝そべりながら魔人の頭が爆ぜて撒き散らされたものを吸い込んでいるノエルを見つけるウィル。その時ビルの肉壁から金色の重騎士のような魔獣と無限発生する魔人の群れに襲われ始める。

ウィルはヒートのマイクロ波を発生させるメカニズムを途中段階で止めて発生した磁界によりクオンタムレビテーションを疑似的に発生させ、それによるピン止め効果を使い重騎士の動きを止め。オルランドの四神竜「アーデルハイト」の力で魔人ごと重騎士を丸焦げにすると、重騎士はアイアンメイデンのような形状となり、ノエルを飲み込み、隙間からこぼれるノエルの血に肉壁が集まり巨大な化け物の姿を構成し始めた。

ウィルとオルランドに同行していたレミアは二人の前に立ち、自らの指輪を外すとそれにかつてアンジェラがウィルのペンダントにしたように息を吹きかける。

指輪が展開し天球儀のようになり中心にレムリアの火が灯る。

レミアは天球儀の輪の一つに指をかけ、弓を引くように引き絞り、光の矢をかつてノエルだったものに放った。

ノエルは周囲の空間ごとレムリアの火の力で存在を消滅させられてしまう。



レミアがレムリアの火を扱えるようになったのを確認するとオルランドが豹変する。

アンジェラを手に入れるために、すべてはオルランドが仕組んだことだった。

戦争が起きたのも、戦争を止めるためにウィルとオルランドが入れ替えられたことも。

そしてアンジェラをその手にかけたのもオルランドだった。


オルランドの笑顔が素敵なのはみんなが素敵な笑顔だけを彼に求めたから、他者にとって都合のいい優しさを彼に求め続けた結果。だから彼が笑顔を向けるのは何も期待していない相手だけだとシアは言う。


神の如き才覚を持つオルランドに周囲は優しくあれ万人を守れる存在であれと育て、優しくある以外をオルランドは許されることがなかった。周囲が彼を恐れているのだと彼本人が気づくのにそう時間がかかる事ではなかった。恐怖と疑念の折の中で虚実の餌を与えられ、オルランドは他者に一切興味を抱かない人間になっていった。

ある日彼は自身がどれくらい他者に興味がないのかという事を試そうと思い立ち、親友ともいえる関係になったアンジェラの心臓を抉り出した。その時彼は何も感じることはなかったが、彼女がオルランドを憐れむような目で見ていて、気が付いたとき彼は彼女の亡骸を強く抱きしめ、恋を知った。

オルランドは死んだものにしか情愛を抱かないと知った。

彼は言う。

世界を救いたい、人々を人の悪意から護りたい。美しい世界にしよう、見渡す限りの死が広がる優しい世界に。




かつてヴァリスの先祖である悪魔が人の姿となりシャムシールの民に紛れたとき、シャムシールの三王家の一つであるヴィーブルはラムトンの持つディアドラを用いて彼らを皆殺しにするべきだと主張した。しかし死都の王の自我を司るラムトン、超自我を司るメリュジーヌはそれを否定し、強行しようとするヴィーブルから死都の王の力を奪い去ってしまった。


それからヴィーブルはシャムシール側にエンプレス、ヴァリス側にアドラメレクという秘密結社を組織し、いつしか死都の王を殺し、ヴィーブルによる世界浄化を目的として暗躍し始めた。

ブロワはヴィーブルの主であり、オルランドの姦計により道を誤ってしまった存在であった。




レミアを奪われ死都の王の力を手に入れたオルランドに対抗するためウィルはペンを執る。ずっとしたため続けてきたアンジェラのための物語、彼女へのラブレターを羽ペンで書きあげる。

もし死んでしまってレイスになったとしても、届くかもしれない。そう信じて彼はずっと書き続けてきた。その思いにアンジェラは答える。


死都の王ラハブの正体は実はウィル本人だった。太郎が最初に転生したのは何もない世界だった。そこで太郎は一人物語を描き続けた、幾百幾千幾万の物語。そしていつしかそれは世界を形作り始めた。数多の人の人生という物語を描く世界という媒体が創世された。

そして太郎はラムトンの頭首として何度も何度も、その記憶を失いながらも転生を繰り返し、その人生を死都の王は見守り続けていた。


死都の王としての力、そしてその眷属ヴァルドラゴを率いたウィルとオルランドと彼のデモニックレイスと化した四竜神との壮絶な戦いの果てウィルは勝利を収め、世界と、アンジェラの魂を守る事に成功した。


そして数年後、ウィルはシャムシールの王としての務めを行いながら、いまだに小説を書いていた。そんな彼を見守る仲間たちとともに、彼はプロデビューを目指してひたむきに走り続けるのだった。







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