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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
小説家志望のおじさんは異世界へ渡った
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186回目 25:聖櫃の少女(2)

 病院の中でレミアは老紳士に付き添い、ウィルは自身の怪我を診てもらうために、病院の待合で卵を地面に落とし、その都度跳ね返るそれをキャッチしていた。

 バウンドの効果を確認しながら、ウィルはこの世界の魔法が実は物理現象に則っているんじゃないかという考えが浮かんでいた。

 今使える魔法を一つづつ卵にかけ、最後に練習中の魔法試した瞬間看護師に声をかけられ驚いたウィルは卵を破裂させてしまう。魔法の使用は控えてくださいねと注意されながらウィルは一つの確信を得る。

 診察室に向かったウィルは自身の骨折が気が付いたら治っていた事は伏せながら、この世界に骨折を治癒させる魔法があるのか尋ねる。医者は回復魔法なんてデタラメな魔法はないと言う。物理的な現象を起こすのが魔法であるならたしかにそれは頷ける結果だった、しかし実際こうやって治っている事についてはどう判断するべきか。

 爆発音がして騒ぎが起きる、触手を持つ魔獣が病院に現れた。警備員たちの銃撃は通用しない、その事から打撃は通じない事がわかった、声や物音にも反応がない。熱源を感知しているようだ。

 ウィルは水道の配管にバウンドをかけて引っ張り、魔法を解除して敵の攻撃を弾きながら配管を破壊し周囲を水浸しにすると魔法で温度を下げ自身に魔獣の意識が集中するよう仕向けた。


 騒動の最中何食わぬ顔でノエルが通り過ぎる。

 彼女の視線の先にはレミアがいた。


 ウィルは魔獣を病院から引き離し路地裏の袋小路まで誘導すると、そこにはウィルが展開していたレイスで魔獣を取り囲む壁、魔獣を封じ込めたのを確認すると全方位からヒートを発動する。魔獣の肉体が沸騰し弾け飛び、触手が数本炭化して火を噴いた。

 ヒートは物を温める魔法で本来はカップの中の飲み物を温める程度のものだが、物理的には電子レンジと同じで、レンジと同じ条件と高出力を用意すれば攻撃として利用できると踏んだ。

 しかしその魔物を殺しきるには威力が足りない、魔物はウィルに何本かの触手を槍のように打ち出し、ウィルはそれを交わしながら周囲のガスボンベを見る。

「命がけだけど手段は選んでいられない」

 そう言ってウィルは指を鳴らし周囲のガスボンベを爆破させ爆圧の壁で魔獣を押しつぶした。

 ウィルの周囲を爆風が避け、ウィルは熱波を掌から放つ冷気魔法で和らげ事なきを得ていた。

 彼は爆破の瞬間自らに押し寄せる火炎にヒートをかけ、火炎の粒子に電荷を与える事でその流れを操作したのだった。

 地面に落ちた魔獣は痙攣しながら全身から血を吹き出していた。

「やった、のか?」

 刹那魔獣が地面に忍ばせた触手に気づかず背後から貫かれそうになるウィル。

「ツメが甘いですよ」

 そう言いながら黒い人影が飛び込み、ウィルに迫った触手を斬りはらいその勢いで袈裟斬りに魔獣を真っ二つにした。息もつかさぬその姿、振り向いた彼女にウィルは唖然とする。

 艶めく黒髪のツインテールをいたずらに弾ませ、手にした太刀とは裏腹に彼女はにこやかに、いつものようにぷるんとした唇で甘えたようにウィルに声をかける。

「もう、戻ってくるのが遅いから心配しちゃったんですからね?でもキョウカが来たからもう安心です、先輩」

 そう言ったキョウカの頭には狼の耳、スカートの下からは尻尾が伸びてゆっくりと振られていた。


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