179回目 18:願いの対価(1)
ウィルが女の子を連れて家に入ると、そこにはエプロン姿で皿を抱えたデミィの姿があった。
「お帰りウィル、今日は遅くなっ」
そう言いかけたデミィはウィルの隣の女の子を見ると手にしていた皿を全て落とした。
「ウィ……ウィリアム君?ととと、隣の女性は?彼女?」
「直球だな父さん、違うんだ彼女は」
「彼女!?」
そう叫びながらデミィは後ろに大きく飛び跳ね椅子と本棚を粉砕し妙な構えをとった。
「あっそういう意味じゃなくて……」
「そ……そそ、そうかぁ、年頃だもんね……ウィルに恋人……少し早かったなぁ……気持ちの準備できてなかったなぁ……」
弁明をするウィルの言葉が届いているのかいないのかデミィはぶつぶつと独り言を呟きながら部屋をうろうろしはじめ、キッチンのキノコシチューと焼きたてのパンを見て動きを止めた。
「父さん?いい?聞いてくれる?」
次の瞬間猛烈な勢いで自室に飛び込んだデミィは新品の鉈と縄を手にしてドアを開けた。
「グレートジェノサイドボア狩ってくる」
「あの山みたいにデカい化け物!?それに今からって無茶だよ!!」
「お祝いだしね!!」
満面の笑みでサムズアップさせてみせるデミィの目は明らかに正気を失っていた。
「いいから!落ち着いて!!」
その時誰かが強く息を吹く音がして、デミィの体が弛緩した。
「う~ん」
そういうとデミィの顔は締りをなくした顔をして、そのまま床に崩れ落ちて眠り始めてしまった。首元には吹き矢が刺さっている。
「さすがに牛十頭が眠る威力の魔法が込められた吹き矢なら寝るか、よし」
そういったのはいつの間にやらかそこにいたブロワだった。得意げな表情をしてガッツポーズをしている彼にウィルは思わず叫ぶ。
「よしじゃないよ、いたなら普通に言葉でたしなめてあげて!?」
「丸く収めたんだからいいだろこれで」
ちぇっと子供っぽく言いながらブロワは舌を出す。
「それで今日はなんの用なの?」
そういいながらウィルはデミィにブランケットを掛ける。
「おっわかる?」
大げさに喜んで見せるブロワを尻目にウィルは床に散らばった皿の破片を箒で塵取りに掃き集めた。
「そりゃおじさんが来るときは決まって俺か父さんになにかある時だからさ」
塵取りの中身をゴミ箱に捨てるウィルを見ながらブロワはタバコを咥えると指を鳴らして先端に魔法で火をつけ、紫煙をくゆらせながらいった。
「不詳の弟子がちゃんと教えたことを生かしてるのか気になってね」




