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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
小説家志望のおじさんは異世界へ渡った
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175回目 14:それぞれの選んだ道へ

 エドはデミィとウィルを見つめていた。

 寂しげな笑顔を浮かべる彼の傍らにオルウェンが歩み寄ると膝をつく。


「迎えが遅れてしまい申し訳ありません、エドワルド王子」

「畏まる必要はありませんよ、今のうちにこの場を離れましょう」

 迷うことなく踵を返した彼の歩き方の変化を見てオルウェンは目を細める。

「王子はこの結末でよろしかったのですか?」

 エドは服を一枚一枚脱ぎ捨て、道すがら兵士に渡された服を身にまとっていく。

「自らの立場で判断を変えるのは卑劣なことです、ボクは友に恥じない者でありたい」

「友……彼のことですか」

 エドは身に着けた服の襟を正し髪を整える。

「貴方方は彼をこれからどうするつもりですか?」

 エドの真剣な目を見てオルウェンは微笑む。

「ご心配無用です、彼はシャムシール側の地下組織エンプレスの管轄。我々にはそもそも手が出せない契約ですから」

 兵士がエドにマントを纏わせ、彼の前の大扉を広げる。

 扉をくぐり眼前に開かれた光景を目にしたエドは足を止めた。

「彼を見ていて気づかされることがありました」

 怒りや悲しみや不安、様々な感情を抱いた大勢の人々の姿がそこにあった。

「他者を救うことができる力と立場のあるものはその役割から逃れてはならない」

「正しく生きるということは苦難を招きます、憎悪の対象ともなりかねない」

 オルウェンは一瞬脳裏にグラックスの姿が浮かび顔をゆがめる。

「それでもやるのですか?」

「ボクはヴァリス王家としての役割を果たさなければ、貴方の力を貸してくださいオルウェン大佐」

 エドが振り返るとオルウェンは穏やかな表情で彼にお辞儀をする。

「さよならウィリアム、僕の初めての友達」

 エドは優しい顔を浮かべてそういうと、最後に毅然とした態度に着替え大聖堂をあとにした。


 デミィとウィルは武装警察の突入を掻い潜り、デミィの昔のつてを頼りにいくつかの迂回ルートを経て帰路についた。

 その間ずっとウィルが無理に明るく振舞っているような様子をデミィは気にかけていた。


 家についたころには深夜を回っていた。

「疲れたから寝るね」

 ウィルはデミィに優しい顔でそういうと部屋に入る。

 デミィがあれから忙しく動き回ったため食事をずっと抜きにしていたことを思い出し、ウィルに夕食をどうするか聞こうと部屋の前にたった。

 部屋から泣き声が聞こえてデミィは扉に背中をつけて目を閉じる。

「触れてやるなよ、自分でカタをつけなきゃならない問題だ。親が首を突っ込むべきじゃない」

 いつのまに家の中にいたのか、声のした方を見るとブロワが酒を飲んでいた。

 デミィは彼の向かいに座りグラスに酒を注ぐ。

「何も聞かないのか」

 ブロワはデミィの顔を見ながらそう言った。

「君がこうしてきてくれただけで十分だよ。付き合ってくれるんだろ?」

 その返事に驚きながらもブロワは顔を横に振り含みのある表情を浮かべる。

「喜んで」

 そういうと彼はグラスの酒を飲み干した。


「おはようウィル」

 翌日起きてきたウィルにデミィはエプロン姿でそういった。

「良い匂い、おお……朝にしては豪勢だね」

 テーブルに並んだ御馳走を前にウィルは目を丸くした。

「あれから何も食べてなかったでしょう?父さんおなかすいちゃってつい、ね」

 その言葉と同時にウィルの腹の虫もなり、二人は笑う。

「いつも仲がいいねぇ君らは」

 そういいながらブロワはデミィとウィルを見つめていた。


「帰ってきてから今までの間によくこんな食材手に入ったね、店ももう閉まってたでしょ?」

 特大のウィンナーをかじりながらウィルはふと思った疑問を口にした。

「ブロワが酒のつまみにって宴会しても余るくらいの食べ物持ってきててね、余った分を使ったんだ」

「できる大人に感謝しろよウィリアム」

「ダメな大人の間違いでしょ、二人で何本飲んだのさ」

 床に大量に転がる酒瓶と部屋に漂う酒の匂いに心底あきれたという顔をするウィル。

「飲みきれないくらいの酒持ってきてたんだがな、そいつには酒樽持ってこないと足りないって事がわかったよ」

 その言葉にウィルがデミィを見ると、デミィは照れくさそうな顔で頭をかく。まるっきりシラフに見える彼に驚くウィル。



 食事も終わり片付けが終わるとウィルは外でアンジェラと出会った街を眺めていた。

「書きたいものは見つかったかよ」

 ブロワがウィルにそう問いかけ、ウィルは首にかけた割れたペンダントを見つめる。

「見つかったよ」

 ウィルの曇りのない表情にブロワは静かに微笑む。

「そりゃよかった」

 物語を描くことは人の心の中の不定形の感情に形を与え、それに向き合う力をくれる。喜びも悲しみも迷いや希望も、描くことで見えてくるという事をウィルは知った。どう生きていけばいいのか、その答えを探すことが物語で描く浪漫という道の先にあるのかもしれないと彼はその時そう感じていた。

「描きたい浪漫には貴賎はない、それに才能がないやつは才能以外を天才より大切にしなきゃならないんだ」

「家族とか?」

「それに友達、思い出とかな」

 ウィルはアンジェラやエドの事を思い出してまた少し涙ぐみそうになるのを堪え、

「うん、そうだね。その通りだ」

 そう言うと強がって笑った。

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