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164回目 空の騎士 3:孤独な痛み

 中庭におりてきた騎士に少女は気づいてか気づかずか、ただ黙って木イチゴを摘み続けていた。

 彼女は小さな鳴き声をあげて舞い降りてきた小鳥をじーっと見つめる。

 無表情で凍ったような顔にほのかに赤みがさし、口元を少し緩ませて小鳥に手を伸ばす。

 小鳥はちらっと彼女の指を見つめる、しかし小鳥は飛び立ち、少女は「あっ」と冷たい氷に触れたように指をひっこめ一瞬その表情に悲しげな色を見せた。


 さぁっと風が吹き彼女の髪が揺れ、その触れれば壊れてしまいそうなガラスのような輪郭があらわになる。少女のまとった不思議な魅力に騎士はいつしか見とれていた。


 ふわりと風が穏やかになり草花のざわめく音だけになる、彼女が髪に触れたとき彼に気づくと、静かにその顔を上げた。


 騎士が彼女に事情を話すと、少女は騎士にありのままを答えた。

 彼女の話では城はすでに魔物に襲われてしまい、みんな石にされてしまったのだと言った。城にあるたくさんの石像はみんな元は人間だったのだ。少女は城の中の秘密部屋に隠れていたから難を逃れたのだという。淡々と話す少女の様子に、騎士は深い心の痛みを見た。

 語ることで思い出しかける記憶を押し込めるとき人は機械のようにその事柄だけを文章的に表現する。

 今の彼女の語り口は彼の知るそれに酷似していた。


 騎士はそんな少女を見ていてつくづく自分の無力さに嫌気がさした。

 魔物の家族を皆殺しにして、人の気持ちも考えず好き放題する村人の相手をしている暇にもしもっと早くここに来られていれば・・・。

 絶対にとは言い切れない、でももう少し彼女の負担を減らしてやれただろうに。


 いくら悔やんでも悔やみきれない気持ちに動かされ、騎士はこの少女だけは魔物の手から守り通そうと心に誓った。

 それから彼女の了承を得て、騎士は城に滞在することになった。


 少女に彼の寝泊まりのための部屋に案内されると本部にも鳩でその旨を伝えた。

 一般的にもう魔物が襲って来ないとされる安全期間に入っていたこともあり代わりの傭兵達が来るなりの事がない限りそのままこの城に留まることになる。


 騎士は少女に客間へ案内された。

 彼女は騎士の様子から察したのかベッドのシーツを敷き直すと、好きに使ってくださいねと屈託のない笑顔で言い、部屋を出て行く。


 魔物退治から不眠不休で3日間歩きっぱなしだった騎士はその言葉に甘えて鎧と剣を地面にほうりだし、ベットにドカッと横になると、どっとあふれ出し全身をつつむ疲れにまかせまどろみのなか朝焼けの温もりを感じながら深く眠りについた。

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