162回目 空の騎士 1:汚れた英雄
2007年くらいにMIXIで書いてたお話ジオシティーズにまとめてたんですが、ジオシティーズが消えたのでこっちにアップします。
一人の騎士が血まみれの剣を持って立っている。
血の温い温度が剣にそれを吸われあっという間に冷たく変わっていく。ずっしりとその手に感じる重みは剣の物なのか、その血による物なのか、彼には判断ができなかった。
彼は魔物退治を生業とするスレイヤーと称される部類の騎士だ。仕事に忠実な彼は今日も魔物を倒した。一匹だけではない、村人の要請もあり魔物の家族全て皆殺しだ。親の手にすがるように絶命した子供の亡骸が痛々しかった。たとえ成長したすれば人を喰らうようになる化け物だとしても、それが生き物を殺して食う人間と本質的になんの違いがあるというのか。
度重なる戦いのなかで、騎士の中には自分の仕事に対する疑問が生まれ始めていた。
できるだけたくさんの人、どこかの誰かの幸せを理不尽な力から守りたくて血のにじむような思いをして勝ち取ったスレイヤーの称号だ。
彼はその仕事に誇りを持っているし、いろいろなしがらみはどうしても生じる物だと言うことも理解しているつもりだった。
これが仕事だ仕方がないのだと、またいつものように意味のない自己弁護を繰り返し、彼は村へと歩を進める。
村人達は魔物達が死んだ報告を受けてとても喜んだが、騎士が村に戻り、その血まみれの姿を見て態度を一変させた。
みんな彼を作り笑いでもてなしながら心の中で彼を残忍な権力の走狗だと貶して、しだいに誰が言い出したのかあること無いこと村中で噂が言いふらされる有様になっても彼は義務的にほとほと苦笑いで愛想を振りまくしかなかった。
そういった立場なのだ、現実のヒーローの勤めはドブさらいとあまりかわらない。
騎士はホテルの一室で本部に仕事の完了報告の手紙を書くと、鳩の足につけられた銅の筒に丸めてしまう。鳩は開け放たれた窓から小気味よい羽の音を鳴らしながら、風に乗って羽ばたいていった。
これから返答があるまで数日かかるだろうが多少の居心地の悪さも野宿よりはまだましだろうと、軽くため息をつきながら彼は窓を閉めようと手をかけた。
そのとき、一匹の黒い鳩が彼の横をかすめて飛び込んできた。
彼らスレイヤーに与えられる伝令には重要度が存在し、その見分けはおもに鳩の足につけられた筒の素材で決められている。
銅は一般兵でも数人がかりならできる雑務のような物、銀はスレイヤーでなければ多少やっかいな仕事、金は言わずもがな、スレイヤーでも生命の危険が及ぶ重大事件だ。
今さっき報告書を送ったところにすぐさま返答が来るわけがない。明らかに現在の仕事が終わっていようがいまいが、こちらを優先しろと言う類の暗喩だろう。
その黒鳩の足に取り付けられた筒は、金色に怪しく輝いていた。




