16回目 正義の味方
「あなたは今生きているのか死んでいるのか、どちらだと思う」
儚げな横顔で彼女は僕を見ながらそう言った。
凍てついた夜風が彼女の柔らかな銀髪を揺らし、
月の光は氷の輪郭をなぞるように彼女の双眸の中にある。
「人間の体を構成する物質は生きてる人間も死んでいる死体も同じ、
つまり人は産まれながらにしてすでに死んでいるの。
ただ機能しているかしていないかだけの違いが境目なだけで」
そう言うと彼女は傍らの骸骨の頬を愛おしそうに撫でる。
この洞窟の中でその慈しみ深い様子は異常な物だ、
だけど僕はそんな彼女に惹かれ始めていた。
彼女はそんな僕の気持ちを察するかのように、
眼鏡をかけなおし問いかけるように視線を向ける。
そして自らの胸に手を当てた。
「私はこの生きてるって特別扱いが嫌い、だからみんな死ねばいいと思うの」
そういうと彼女はまるでどこか楽しい場所に友達を誘うような笑顔をする。
「ねぇ君、この世界を滅ぼすつもりはない?」
僕はそう言った彼女のエゴを美しいと思った。
彼女は明確に誰かのために誰かの味方として動ける人間であり、
いわば正義の味方ともいえる。
彼女自身の属すると認識する存在が死体であるというだけで。
洞窟の中で眠る白骨死体に囲まれながら、
血と肉と皮を持った僕らは手を取り合って一つの約束をした。
お互いをけして裏切らない事を。
その日、奇しくも僕の人生は産声を上げたのだった。




