146回目 狼男と風の歌
むかしむかし森の奥深くに周囲の人間達には魔物と恐れられる狼男がおりました
そんな狼男と小さな女の子が見晴らしの良い丘の上で二人きり
かわいそうな女の子は食べられてしまうのでしょうか
いいえ、それは違います
なぜなら二人は秘密のお友達だったからです
「がるるぅ」
「あんっもう動かないでよう」
「ぐるう」
狼男は女の子(5さい)におこられて耳をぱたんと倒し
もぞもぞとくすぐったそうにしながらも大人しくなりました
女の子の名前はルビィ、ルビィはとっても元気な女の子
男の子に負けないくらい冒険心いっぱいな彼女は
狼男がどんな怪物なのかみてきてやるー!
と一息に森の中へ飛び込んで彼と出会ったのでした
ルビィが彼女のお気に入りのくしで狼男の毛皮を
丁寧になでなでしてやると、
そのたびに生え替わった古い毛が風に舞って飛んでいきます
「♪」
慣れてきた狼男は尻尾もぱたぱたご機嫌な様子
「はっくちんっ、毛がおはなにむずむずする~。でも負けないんだから!」
「ぐるう?」
「えいやえいやえいやぁー!」
「ぐるっわふわふわふっわおーーん」
くすぐったそうに身もだえする狼男に
ルビィは容赦なくくしで全身をなで回します
気がつくとあたり一面狼男の抜け落ちた毛でいっぱい
さすがのルビィも狼男に出会ったときは恐ろしくて腰が抜けてしまいました
だけどこうしてふれあってみると彼はすごくいい子で、
ルビィが彼と仲良しになるのもあっという間だったのです
「こんなものかしらー?」
ルビィがくしを布でぬぐいながら彼の姿を眺めると、
彼の毛皮が風になびいてさらさらと金色に輝きました
「くしを通す前はただの茶色の毛の固まりだったのにねー」
こうしてみると気品にあふれるどこかの神様のようだとルビィは思いました
狼男は彼の周りをうれしそうにぐるぐる回りながら眺める
ルビィに首をかしげます
そんな彼の姿にきゅんとなりルビィは勢いよく彼に飛びつき
ふっかふかもふもふの毛皮に全身をうずめながら抱きしめました
「わぁ~ふかふかぁあったかぁ~い、ずっとこうしたかったのー」
不思議そうな顔でルビィを見つめる狼男は
自分を押し倒して抱きしめているルビィの匂いをくんくんかぐと
彼女の髪からほのかに香る花の香りに驚き、目を輝かせました
「うぉんっ!」
「きゃっ」
狼男はルビィの顔をうれしそうにぺろぺろと舐めはじめました
尻尾はぷりぷり耳はぴこぴこ全身で喜びを表していました
「えっへへ、喜んでくれたのかな。がんばったかいがあったってものだわ」
狼男はルビィを抱きしめると大きな声で遠吠えしました
それはまるで仲間に自慢するみたいでした
「やだもう喜びすぎよ、照れちゃうじゃない」
ルビィは自分でもなぜこんなに顔が熱くなるのかわからないまま
彼の背中に手を伸ばして抱きしめかえします
二人は見つめ合うと顔を赤くしながらにんまり笑い
遠くから狼の遠吠えがいくつも聞こえてきました
それに狼男が応えるように遠吠えを初め、
ルビィも彼にならって
「うおーーーーーーん!!!」
と遠吠えのマネをするのでした
狼男は結婚するときに雌が花の香りをつけて
雄に嗅がせるっていうのがある
遠吠えは実は「よめっこさもらったどー!」という報告
狼さんは土地神みたいな存在だったりします




