135回目 幼き姫騎士と呪われた王様
中世暗黒時代
魔女と悪魔と十字軍に支配された世界
暴力と精神の支配に惑う人々を救う少女たちがいた。
「ボクたちに任せて逃げて!!」
彼女たちは魔法少女、人々の自由と尊厳のために立ち上がった子供たち。
獅子の姿の王ドルガディスのもとに集った魔法の力を自在に使う戦士たちだ。
魔法少女たちが集う場所は暗闇峠の最深部、黒石で作られた巨大なアスモフィア城にあった。
魔法少女の一人、焔輝のラナルーはドルガディスの前にいた。
「今日はリグレッタが逝ったか、もう三人だけになってしまったな」
ドルガディスは玉座にその巨躯をおさめたまま中空を眺め瞼を閉じる。
「済まない、私に封じられる前の完全な力さえあれば」
「王様のせいじゃないよ、リグレッタちゃんもきっと王様を憎んでなんていなかったと思う」
魔法の力で身体能力を増幅させるとはいえ、十字軍の騎士の鋼の鎧を素手で肉体ごと引きちぎり、
魔女に触れただけで内臓を焼き尽くす恐るべき力を秘めた少女も、
ただの女学生の姿でいるときは、その華奢な体繊細なまなざしに微塵も戦う力など感じさせない。
「ボク達決めたんだ、王様との約束果たすまで逃げないって。
だからリグレッタちゃんがいなくなった事も全部受け入れる」
ラナルーがそういって髪を撫でながら手を振ると、その手には焔のように紅く輝く剣があった。
ラナルーはそれを眼前にかざすと目を閉じ祈るように額を剣にあてると、
まっすぐな瞳でドルガディスを見つめた。
「みんなの願いを現実にするために、この剣に誓ったんだもの」
「その瞳・・・思えば私がお前を選んだのは、その素質を見込んだ以上にお前に惹かれたからかもしれない」
ドルガディスは胸を掴むと苦しそうな顔をする。
「お前と少しでも長くともにいたい、お前と関わりたい。
そう思うあまりお前をこの地獄に巻き込んだだけかもしれない、私は・・・最低な男だ」
彼のたてがみに触れる小さな手が、ゆっくりとその毛並みを撫で彼の首もとに回る。
震えるドルガディスの体をラナルーの小さな体が抱きしめた。
少女の可憐な香りが彼の鼻孔をくすぐり、愛しさと切なさがこみあげドルガディスは葛藤の中唸り声を上げる。
「ねぇ王様、内緒の話教えてあげる」
ドルガディスが顔を上げてラナルーの顔を見ると、彼女はほのかに頬を赤らめ彼の眼を見つめた。
「好きだよ王様、世界のだれよりも。ボク王様の事大切な人だって思ってる」
「ラナルー」
ドルガディスの目に涙が浮かぶ、ラナルーの唇が彼の涙を受け止めた。
ドルガディスの丸太のような腕と鋭い爪ががラナルーの細い体を傷つけないように、
彼は優しく彼女を抱きしめる。
二人は頬と頬を寄せ合い、互いのぬくもりと香りを確かめた。
ラナルーの鼻がゆっくりとなぞるようにドルガディスの顔をすべり、
彼の鼻と触れ合う。
「王様・・・今日は、許してくれるよね」
ラナルーの潤んだ瞳がドルガディスを甘えるように見つめる。
「ラナルー、小さな魔女よ。今だけはお前が私の主だ。この心、魂。すべてをお前に捧げよう」
ラナルーの唇が一度ドルガディスのマズルをキスすると、
次はその口に唇が触れ、舌をからませ合う。
「んっおうさま・・・ボクの、うけいれて・・・」
くちゅくちゅとラナルーの舌がドルガディスの口の中に入り込む。
彼はそれをためらいながら自らの舌で受け止め、絡ませる。
どれだけ長い時間そうしていただろう、
キスが終わりドルガディスにまたがった彼女はその恍惚とした顔を離すと少し泣き声を上げた。
「どうした、なにかまずかったか?」
慌てるドルガディスの頬を優しく撫でるラナルーは、小さく首を横に振った。
「ボク嬉しくて、王様がボクの事好きでいてくれるのが、ほんとに嬉しくて。
そう思ったら泣けてきちゃったんだ」
「ラナルー。ああ、私のラナルー・・・」
ドルガディスは再び彼女を抱きしめる。
二度と離したくない、このまま彼女の全てを自分のものにしたいという欲求がこみあげてくる。
そんな汚らわしい一匹の獣を、少女はただ静かに見守るようにその愛という器で受け入れていた。
他の魔法少女には見せられない不埒な姿だと彼は自覚していた。
しかしもうこの気持ちを抑えられるすべを彼は知らない、
もう彼女なしには彼は自分を自分と呼べるかすらも定かではなくなっていた。




