130回目 植民地惑星ジュダス
獣人が先住民として暮らしていた植民地惑星ジュダス。
街中に原住民の獣人が潜み人間を襲うため、捕獲・繁殖交配・調教ペット化された獣人を連れて人間が生活している世界。
ジュダスで暮らす5さいの少女テティスを守るために重傷を負い、
ようやく病院から帰ってきた白い犬獣人のロブ。
久々にみる彼の姿にテティスは目を細め、
ロブは身に付けた兵士の服に似合いの軍隊式の直立姿勢をしながら、横目でテティスを見た。
テティスの母親がその場を後にすると、とたんにしっぽをぱたぱたさせてテティスに飛びつくロブ。
「テティス!テティス!!はぁ~あんまりかわってないですね!?
ちいさい、かわいい!!ボクのご主人さま!!」
石鹸の香りのするやわらかな毛皮、そして彼の温もり、そして顔をペロペロ舐めすぎるこの癖。
懐かしくて笑顔いっぱいになるテティス。
「もうーくすぐったいよう。あんな危ない事二度としないで、本当に心配だったんだよ?」
そういってロブの頭をカリカリと掻いてやると、彼は恍惚とした表情で上を向く。
「えいっ!すきありー!!」
無防備になったクビにテティスは顔をぐりぐりと押し付ける。
「はう!はううう!!」
ロブは興奮してテティスを抱きしめぐるぐると回転すると、彼女の体のあちこちに鼻を押し付けて匂いを嗅いだ。
突然ロブの動きが止まる。
ゆっくりと降ろされ、不思議そうな顔で彼を見上げるテティス。
「どうしたの?」
ロブは家の中を探るように鼻をひくひくと動かす。
「ボクのいない間ここに代わりの獣人がきましたよね」
ギク。テティスはロブから無意識に視線をずらす、その顔には大量の冷や汗が。
「う、うん」
「その獣人と寝ましたか?」
違うと言ってほしそうな嘆願するような目でじっとテティスを見るロブ。
「そ、そんなことしないわよ?」
といいながらつい彼の顔からすーっと眼を放してしまうテティス。
「寝たんですね・・・」
眉を八の字に耳を伏せ涙目になるロブ。
「ばれたか」
小声で呟くテティス。
「ひどいです!ボクだってまだ一緒に寝た事ないのにぃ」
とテティスの胸に顔を押し付けてめそめそ泣くロブをあやしながら、彼のいまだに嬉しそうにパタパタと振られるしっぽに微笑む。
テティスはうずうずしてきていた、ちょうどいい機会かもしれない。
「ごめんごめん、今夜一緒に寝よ。それでいいかな?」
がばっとテティスの両肩を掴みながら飛び起きるロブ、その瞳は銀河のようにきらきらと輝いている。
「ほんとに!?やったー!!」
ぎゅーっとロブはテティスを抱きしめその顔にほおずりする。
相変わらずの馬鹿犬である、そんな彼に安心しながらテティスはやれやれと笑い彼の頭を撫でる。
兵士だった死んだ父の服の似合う失敗作として破棄されかけていた獣人ロブ。
彼がテティスの事を異常とも言えるほど愛している事を彼女は自覚している、
そして彼の事をテティスも同じくらい愛している事も。
今夜は何度泣かせてやろうかと邪悪な笑みをうかべるテティス。
床に下ろされ、ロブは彼女に背中を向け、しっぽと尻を振りながらふんふん♪と鼻歌交じりに何かを咥えて振り返る。
その口には彼の愛用の首輪があった。
「テティス!さんぽさんぽ!ボク散歩行きたいです。また二人で一緒に!」
とふがふがよだれを垂らしながら興奮気味に言うロブ。
こんな彼が実はこの惑星でも二人といないであろう特急ネイティブ能力を秘めているなんて、
一度それを目の当たりにしたテティスですら信じられない。
ふと彼の留守中テティスを守ってくれたあの男の言葉を思い出す。
ロブに首輪をしながら
「好きだよロブ」
と真剣な声で話す彼女に真顔で
「え?」
とつぶやくロブ。
彼がテティスの表情をうかがう前に彼女はロブの唇を奪い舌をからめる。
「ん・・・はぁ」
舌と舌が離れふたりをつなぐ橋のような滴が伸びてちぎれる。
顔を真っ赤にして恍惚としているロブの尻を叩いて満面の笑みで振り返るテティス。
「ほら!行くよロブ!」
「はっはい!ご主人様!!」
外には朗らかな世界、二人でいるときだけ見えるこの世界は、やっぱりテティスには宝物のように思えた。
大切にしていこう、ロブもこの世界も。あの男とも約束したように。




