124回目 亡国へのレクイエム
ある国の将軍だったが祖国を守れず、家族も友人も全てを失い死に場所を求めて旅をする
乾いた瞳のキツネ獣人の男ホーク
彼は旅先の廃墟と化した王国で一人の少女エリス(5さい)と出会う
「じろじろ見るな俗物!」
とミニチュアハマーン様な彼女のわがままに振り回されながらも、
久しぶりに感じる人のぬくもりに少しほどかれるホーク
エリスに旅の理由を聞かれ、ウソで「運命を変えてくれるなにかを探してる」と答えるホーク
彼女はそれを聞いて自分も行くといって聞かなくなる
ずっと暮らしていたのにいいのか、家族と待ち合わせをしてるとかじゃないのかと聞くが、
エリスは「違う理由で留まるしかなかっただけだ」と言うだけ
困ったことになったと思いながら、ホークは彼女の同行を認める
旅の途中横になって悪夢にうなされ目を覚ましたホークは、
自分の傍らに座ったままなにか深刻な顔つきのエリスを見る
そして旅の間一度も食事をとらない彼女を不審に思い、
ときどき一人で出かけるエリスの後をつける
その先で見たものは、彼女が槍で貫いた動物の血を飲んでいる姿だった
夜中焚火を囲みながらエリスに自分の血を飲めと切り出すホーク
エリスは自分がバンピールである事がばれたと気づきうつむく
仮にも将軍を務めるまでいったホークはバンピールが動物の血だけで生きていける生物ではないと知っていたのだ
身の上の話を始めるエリス。
実はエリスのいた王国は悪魔と契約して繁栄していた国で、
その生贄にするためバンピールを生み出し国が飼育していた。自分たちは家畜だったのだと、自嘲気味に彼女は言った
人の血がなければ生きられないから人間には逆らえない、
多少の魔力があったとしても所詮はオリジナルの吸血鬼には程遠い半吸血鬼のバンピール
王国は疫病で滅び、少女はバンピール達が蓄えていた血液を託され一人で生きていたのだという
バンピール族最後の一人として、生きるために
ホークのような旅人を待っていたのだと
それでも遠慮する彼女に自らの腕を斬り裂き血を見せるホーク
我慢が出来なくなりそれにむしゃぶりつくエリスは、泣き声交じりに血を吸い上げる
優しく自分の頭を撫でるホークの顔を見上げながら、
エリスはその時の彼の瞳にあるかすかな闇を見る
いつか救ってやろう、それで借りはなしだ
心の中でそう決めるエリスだった
悪魔と契約できる魂が持つ魔力でエリスが魔法を使い、本来の戦い方をしはじめる
その力を借りながら、道中助けた馬に懐かれそれに乗り
広大な荒野の世界を旅していく二人
いつのまにかエリスはホークのいない生活なんて想像もできない気持ちを抱き始める
ホークも彼女をかけがえのない存在として認識し始めていた
しかし悪夢はいまだ彼の心臓を掴んで離さない
幸せを感じれば感じるほど罪悪感と自己嫌悪に襲われる日々が続き、
彼自身自覚のないままその戦い方もより死に近い捨て身なものに変わっていった
そんな彼を心配するエリス
しかし変化は突然訪れる
ある日大物のコカトリスを倒し傷を負い疲れ果てたホークの首をエリスが締め、
彼女に殺されかけるホーク
バンピールとは本能的に人間を殺すことに快感を覚える生き物であったのだ
そんな彼女に仕方がないと許すホークだったが、
エリスは初めて自分の身に起こったおぞましい現象に戸惑い、失意に襲われていた
「お前の首を絞めて、苦しみ死に近づくお前の顔を見ているとたまらなく気持ちよくなった
今でもお前を殺したい、そしてその死体を切り刻み血をすすりなぶりつくしたいと欲してしまうのだ」
と自己嫌悪するエリス
自分から一滴も血を飲まなくなり、目に見えてやせ細ってきた彼女を心配したホークが
彼女を慰めるため精いっぱいの笑顔で大丈夫、一緒に何とかしよう。と言うが
「やめろ!その顔を私に向けるな、私に優しくするな。これ以上一緒にいたいと思わせないでくれ」
そう言って走り去ってしまうエリス
エリスを必死で探すホークは、その地方の有力者の息子連中が彼女を捕まえ、
吸血鬼の国があったと言われる島で彼女をいけにえに悪魔の力を手に入れようとしている事を知る
そしてその地方を中心に世界の歪みが始まっている事も知ることになる
周りの世界を救いたいという希望や目的や野望を利用して、
ただ一人の少女を救うために彼は悪魔の島に渡る
悪魔の島に起こっている異変、それはエリスのいた王国に起因する現象だった
王国が悪魔との契約をシステム化して、定期的に生贄をささげ儀式をおこなうことで
円滑に行われていたサーキット
しかし王国が滅んだ今それは破綻し、
王国に溢れかえっていた死霊が時間をかけて島の悪魔に流れ込み、
世界を破滅させる悪魔が復活しようとしていた
悪魔に利用され魔法の力を得て襲いかかってくる有力者の兵士やチンピラ仲間達を倒し、
島の最深部に向かうホーク
すでに蘇りかかっていた悪魔が有力者の仲間の体を使い赤ん坊として生まれてくる
赤ん坊に教会でもらった聖水や十字架と嫁の好きだった聖書の一句で対抗、
ホークがエリスを終生愛する!俺の妻になれ!!と叫びその言葉で正気に戻った
エリスの協力もあって具現化した悪魔の影を倒すことに成功するが
チンピラの一人が封印のかなめになっている錠を破壊して、
残りの死霊を一気に悪魔の腹の中に流し込んでしまう
悪魔の力の放出に耐えられなくなり空は嵐島は砕け散り、無限の闇が広がり始める
「こうなった以上手の打ちようがない、行こうエリス!」
そういうホークの手を離し立ち止る少女
「できる、悪いが、まだ手は打てるぞ」
エリスは生贄の儀式を行えばいいのだと言いだす、
そして悪魔の封印をそこで望めば復活にたる死霊の力で悪魔を永遠に封じる事が理論上は出来るという
引きとめようとするホークを島の崩壊が阻む
岩礁の祭壇に向かい歩いていくエリス
必死で涙を流しながらエリスの名を叫ぶホークを彼女は穏やかな表情で一度振り返る
そして彼女は儀式の歌を歌い始めた
歌い手の命を奪う呪われた悪魔召喚の歌のはずなのに、それはとても温かい子守唄のようだった
いくつもある岩礁の上に何人もの人影が現れ、
輪唱のように歌が紡がれていく
その歌は嵐や波の騒音の中、いつまでもいつまでもはっきりとホークの耳に聞こえていた
浜辺で目覚めたホークの手の中にはいつのまにか少女のしていた首飾りがあった
彼は自分を探しに来た馬を撫でると自分の決意を馬に語りかける
世界の良いところをたくさん見つけて、
彼女が救ったのはこんなに素晴らしい場所なんだと伝えるために旅を続ける事を決めた
それを聞いてわかってかわからずか馬が彼の顔を舐める
彼は生きていく、一人の少女が守ったその世界で
心にあの歌を刻みながら
中島愛さんのアイモにはまってた時期に書きました。




