123回目 風のルルー
天空の雲を稲妻を纏い引き裂く神の姿がある、
獣の姿の格闘家ロッドは決意のまなざしでそれを睨みつけていた。
龍殺し、神を殺せる武術を継承する最後の一人に会いに行ったらそれは一人の少女ルルーだった。
しかも彼女はまだ5さい、一発殴られたり痛い目にあうと一気に戦意を喪失して戦えなくなってしまうようなありさま。
そんな彼女がひとりぼっちでいきられるはずもなく、
彼女の傍らには自称マネージャーを名乗るサングラスをした胡散臭いチビ魔物ボゴがいた。
このままでは暴れる龍によって村が全滅してしまう、
自分と一緒に戦ってほしいと彼が嘆願するが。
「生き物殺すのなんて嫌だし、怖いからやーよ」と言いながら彼女はずっと演武を繰り返すばかり。
風の武術であるその拳法の極意は風そのものになる事、
いくら繰り返しても彼女の求める形にできないのをボゴと話し合いながら一生懸命練習するルルー、
そんな彼女の姿や生活をただ見つめているロッド。
諦めてロッドが帰ろうとしたとき事件が起きる。
山賊が襲った商人たちを助けたら勘違いで以前から山の魔物と恐れられていたルルー達のせいにされてしまったのだ。
ルルーやボゴではなんともできず、見かねたロッドは汽車がでるまで手伝ってやるという。
解決方法とはいたってシンプル、山賊のねぐらに向かってぶっ潰すこと。
腕利きの用心棒でもあるロッドはその手の事件にも知識があり、
その地方で山賊に奪われたものを片っ端から調べ上げ、
それと一緒に自分たちが奪ったと言われている物を返す作戦。
ロッドは奇妙なことに時間の指定をして行くぞという。
その原因は突入後すぐに判明することとなった、
どうも商人たちはルルーのせいにすることで彼女たちをかばう人たちから金を巻き上げているらしく、
最初から山賊たちとグルになった計画だったのだ。
まるっとお見通しだ!と山賊たちと商人をふんじばって街にほおり投げるロッド。
自分たちを助けてくれたロッドに興味心身になるルルー、やきもちを焼くボゴ。
もうちょっとだけ時間もあるし謝礼の金もでたし、お前たち金の使い方知らないんだろ?
と街の中で買い物したりおいしいもの食べたりする三人。
汽車に乗る間際ロッドがルルーにうまくいかない原因は、
お前の動きが自分を人間の形だという先入観で縛られてるからだという。
ロッドが去っていったあと、ボゴの言葉も聞こえないほど集中して瞑想するルルー。
瞑想の中でおじいちゃんから聞いたヒントを思い出していく、
風の音の中に真の姿を見つける、風は一つじゃない無数の風があわさって流れを生み出している。
その中の一つになるのだ、テンポを合わせて・・・。
ビクッとするボゴ、
偶然か必然か地響きがし始め風が嵐のように吹きすさびルルーの髪が荒々しく吹き乱される。
ゆっくりと動きをとるルルー、しかしそこにはすでに彼女の存在がない事を
歴代の使い手を見てきたボゴは気付いていた。
彼女は今風そのものになっている。
ルルーが岩の柱に向かい拳を前につきだすと天を割ったように空の雲が地平線まで左右にわかれ、
彼女が踵を返し構えをとる動きに合わせ巨大な岩の柱が真っ二つに割れて倒れる。
ルルーの深呼吸にあわせて風が収まっていく。
「おい大丈夫か?」
というボゴの声にいつものぽやんとした彼女の顔に戻りあたりの様子を見ると
「できた」
と目を丸くして驚くルルー。
やったーやったー!とボゴと手を取り合い喜ぶ彼女は、岩の中から出てきた免許皆伝の巻物を握りしめ、
胸に手をあてて「ありがとうございますロッドさん」とつぶやく。
少し複雑な表情をするボゴ、でもすぐしかたない許してやるよとつぶやいて笑う。
村の人間たちの用意した神衣を纏い、幼馴染の少女から化粧をうけるロッド。
「やっぱり無茶だわ、いくらあなたが強いって言ったって相手は神様なのよ」
「時間稼ぎくらいはしてみせる、不肖の弟子だが拳聖として名をはせた師匠の名誉にかけてね」
パシッと拳をうつロッド、彼の心はすでに決まっていた。
まったく勝算がないわけではない。今は一縷の望みにかけるしかないのだから。
不思議とロッドは故郷へ戻ってからずっとルルーの事ばかり考えていた。
ここにもしルルーがいたら、なんて事を毎度毎度考えてしまう。
暗闇の山道を歩きながらこんな道怖がりな彼女じゃ登れないだろう、
間違いでも連れてくることにならなくてよかった、今では彼はそう思っていた。
ランタンの光を唯一の道連れに、少しだけ死を覚悟してる自分をらしくないと自嘲しながら彼は山を上り詰める。
彼の目の前にあったのは奇妙な研究室だった。
中にはいろんな魔物や村で行方不明になった獣人たちのなれの果て、あらゆる死体があった。
黒いフードをかぶった男が闇の中から現れロッドを出迎える。
その姿を見るや即座に殴りかかるロッド、
ロッドに闇の中から数人の男が飛び出し襲いかかる。
「私は非力なのでね、お相手は助手がつとめさせていただくよ」
男たちを倒すと、フードの男へ向かうロッド。
フードの男はロッドを手も触れず吹き飛ばす。
がれきの中から立ち上がりながら笑うロッド。
「やはりそうだ、神なる龍の正体。それはお前だ、わが師オードゥルスト侯爵」
ロッドがルルーの技からみて盗んだ技術を加えた我流拳法で師匠を圧倒しはじめると、
彼は自らを神となす拳法の極意を行い破滅の雷神竜に姿を変える。
その力の源は獣人の魂、力を手に入れるために村人を襲う邪悪な存在、不完全な形の極み。
「邪道に落ちたあなたの姿、できれば見たくなかった、信じたくはなかった!!」
「お前がいけないのだロッド、お前はあまりにも才能がありすぎた。
弟子に超えられる師匠の末路を知っているかね、そのことごとく破滅だ」
その言葉が全ての答えだといわんばかりに最後の変身を終えて人の言葉も失う侯爵。
人を超えた存在、ロッドはなんとか攻撃をしのぐが攻めに転じる事が出来ない。
なんとかすきを見つけそこに拳を打ち込もうと飛び込むが、
にやりと笑う龍の顔に罠だと気付く。身をかわそうにももう手遅れ。
次の瞬間全身を打ちぬく衝撃にロッドの意識が飛んだ。
気がつくとそこに見えたのはルルーとボゴの姿だった。
何度も攻撃をくらいあざをつくっても、震える体を押し殺しにじむ涙をぬぐって雷神龍に立ち向かう少女。
ロッドが逃げろと言ってルルーを守るために無茶を繰り返す、
それをみてルルーは髪を切り落として顔つきを変える。
「ほんきだもん、私本気でロッドさんのお手伝いがしたいんだ!!」
「わかったよ、ごうじょっぱりなお嬢さんだ」
極みに近づいたものの依然未熟なルルーの集中のためロッドとボゴが時間を稼ぎ、
その時間で生み出された風神拳を雷神龍に喰らわせて追い詰めていく。
しかし雷神龍は体内にため込んでいた魂を全て使いバリアを展開、攻撃が一切通じなくなる。
こうなったら自分も風神龍になるしか・・・というルルーに提案するロッド。
ルルーとロッドが呼吸をあわせてダブルパンチ、
雷神拳の力をアースのように利用してバリアを破壊しながらルルーの風神拳が貫いていく。
「これが・・・武術、そうかロッド、お前は」
元の姿に戻りながら微笑む侯爵。
うなづくロッド、ルルーが不思議そうな顔をする。
彼女の肩を抱き顔を近づける。
顔を赤らめ驚きながら目を閉じるルルー。
光の中でキスする二人。
村でのパーティも終わり、三人が集まっている。
ロッドはこの地方を守らなければならず、
ルルーも彼女の暮らす地方を守らなければならない。
それが神なる拳を継承するものの務めだから。
だけどまた必ず会おうと約束する二人。
誓いにおそろいの指輪を指にはめて別れる。
汽車に乗って手を振るルルーとボゴをいつまでも見送るロッド。
二人の戦いは今始まったばかりなのだ。




