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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
5歳の女の子と獣人さんのお話
115/873

115回目 小さな魔女と王者の剣

時は中世暗黒時代

とある王国にある日突然魔女がやってきて彼女の技術によって

機械に魔法を織り交ぜた超物理兵器を所有し、

その圧倒的な性能と威力で徐々に勢力を拡大しつつあった。その国の名をヘルデ魔法国。と言った。


ある時から王が発狂し、

王子が暫定の王としてヘルデの王剣を携えるようになった。

事実上の即位の日に行われる記念の祭りに来るために、

毎日こつこつとお金をため、その少女リティス(5さい)はついに王都へとやってきた。

空には色とりどりの花火、街の中は魔法や科学を使った煌びやかな照明と音楽で溢れ、

歩くのも難しいくらい祭りは人と活気でごったがえしていた。


リティスは祭りの中一人の黒いフードを被った獣人の青年が

裏路地の方へとふらふらと歩いていくのを目にした。

彼の歩いた後に残った血痕が気になり、リティスは後を追って裏路地の闇の中へ身を沈めていった。




路地裏でゴロツキに絡まれ、売り飛ばされそうになった所を

先ほどの黒フードの獣人が助けてくれる。

その時使った剣にリティスは見覚えがあった。


荒い息をつき血をぼたぼたと滴らせながらしゃがみ込む獣人の青年、

彼は自分に関わるなとリティスを突っぱねる。

「命の恩人をほっておけるわけないわ、それにあなた王子様ね?

 ヘルデ王剣の意匠には少しだけ造詣があるの」


正体を言い当てられてもリティスを拒もうとする王子、

しかしもうそれをする力すら彼には残されていなかった。

リティスが急いで彼の体の傷を見ると、

それは魔法結界が強い呪力の力でねじ曲げ割られて傷に食い込み、

怪我は呪いで焼かれたよく今生きてるなと感心してしまうほどの酷い状態。

一級の大聖堂でようやく呪いを解くのが精一杯、もはや間違いなく彼は死ぬ事が明白だった。




体をぴくりとも動かす事ができないはずの彼の体が、

突然雷に打たれたように飛びはね王子は獣のようなうめき声をあげ始める。

彼の眼球に魔法陣のような物が浸食して、それは全身に蛇が這うように伝染していった。

彼の死を引き金にした術式が作動しようとしている、

このままでは王子は魂を奪われてしまう。


なんとかしなければ、とリティスは必死になった。

毒草を食べた腹痛を治せる程度の弱い薬草だが無いよりマシと王子に飲ませようとするが、

飲み込む力がない王子に彼女は思い切った手段にでた。

あまりに必死なあまりその時自分の中にあったかすかな変化に気付かないまま、

リティスと王子の口が触れ合った時、奇跡が起きた。




リティスの起こした奇跡によって体がまるで生まれたての赤ちゃんのように

綺麗に治った王子は、リティスの秘密の友達になった。


リティスの兄は世界的にも有名な魂描鍛冶師で、

生み出した剣に人が持つ魂的な意味を持たせられる腕を持っていた。

彼の秘書的な仕事を行っていたリティスも必然鍛冶や、

魂描に深く関わりを持つ魔法の知識がある程度身に付いていたのだ。


ヘルデ王剣は古くからヘルデの王国の持つ魔力を自在に操る事の出来る、

現存する形のある伝説の一つでもあった。


王国の中で王のような権力を持つ魔女は、リティスの起こした奇跡、

その魔法がこの世に唯一の「否定されざる魔法」である事を見抜き彼女に興味を持ち始める。




魔女が国中に放った黒い石版の力によって、亜空間の迷宮に迷い込んだリティス。

その中で出会った魔女に「否定されざる魔法」を使った事で、

王子とリティスは結ばれている。という言葉を受ける。

王子もその魔法も世界を救うために必要な力、

だから私に預けなさいとリティスの唇を奪おうとする魔女。


ヘルデ王剣の力で亜空間を切り裂き迷宮の壁を打ち壊しながら王子が乱入、

魔女と対峙する。


魔女は実は魔王、人間の国を利用して内部からじわじわと勢力を手に入れて

人間の世界を支配しようとしていた。

王子をたぶらかすために彼の母が死んだ日の夜、

母と全く同じ姿でやってきたのだ。




彼女はヘルデ王国に秘められた魔力を長い月日をかけて魔王としての力に作り替え、

肉体の魔王としての魔女は人間の前に、

魔力の魔王としては地下で密かにその時を待っていた。

「お前達二人がそろうのをまっていたのだ!!」

そう叫ぶと魔女ヒルデガードは迷宮を無数の魔力生命体に作り替えリティス達に襲いかからせた。


王子に敵の刃が迫り、リティスが彼を助けて!!と祈った瞬間

まばゆい光が壁となり敵の攻撃を退けた。

その力は王子とリティスが近くにいればいるほど強まるようだった。

二人は手を取り合い、互いの顔を見ると少し顔を赤らめ、敵を見据える。


肉体のヒルデガードを倒し、亜空間に虫食いのように開いた穴から元の世界へ出てきた二人が見た物は、

暴走したヘルデ王国の魔力、それに取り憑いた魔女の怨念の姿であった。




魔力に飲み込まれ悲鳴をあげる魔女の魂

「王子様私自分の持つ魔法がなんなのかわかった気がする、

 きっとこれは救う力なんだ。そしてその相手はたぶん……」

魔女を見上げるとリティスは泣き出しそうな顔をする。

「悲しい人、自分しか愛せないのね」


魔女は強すぎる魔力に自分が飲み込まれないために、

リティスの魔法の力で自分自身を守り、

王子の持つ王家の血と王剣を使いヘルデの魔力を完全に操ろうとしていたのだった。





「倒すのはやめようリティス、彼女を助けてやるんだ。僕ら二人でならそれができる」

そう呟きリティスの顔を見ると頬をふくらませる王子。

「なに笑ってるんだい?」

「あなたにしては人が良い事言うんだなと思って」

「ただ単に倒すんじゃあの図太い魔女のプライドは傷つかないだろ?」

「良かった、あなたやっぱり最低ね」

「お褒め頂き光栄ですプリンセス。さぁ、いこうか」

「ええ」


王子を守るリティス、魔王を倒す最強の剣を持つ王子、

そして応援に駆けつけた魔法科学兵団達。

みんなの力で巨大な影となった魔女はまばゆい光に包まれ消滅していった。


後に残ったのは崩壊した王国の姿と、それでも勝利にわき上がる国民達、

そして新しい王と王妃の姿であった。




しかし即位件結婚式に二人は現れなかった。


強い風の吹く荒野の中で、

体をマントに包み佇む黒い長髪の少女(5さい)が空を見つめている。

「ごめんね、待った?」

走ってきたリティスにその少女は黙って首を横に振る。


遙かに続く地平線の果て、光の最果てを見つめる二人。

「見つかるといいね」

そういうリティスの手を少女は静かにぎゅっと握りしめる。

「大丈夫」

二人の後ろから現れた馬に乗った少し大きな影、獣の姿の王は笑う。


「見つけてみせるさ、この先できっと俺達を待ってる」


三人は馬に乗り、遙か彼方を目指し旅を続けていく。

そしていつか見つけるのだ、その旅の意味を希望に満ちた未来の光の中で。

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