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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
5歳の女の子と獣人さんのお話
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112回目 君の笑顔に抱かれて

ある錬金術師の館

そこはホムンクルス達ばかりの異形の館であった

館の主にこき使われ、どやされてばかりのセントバーナード獣人のサード

そして錬金術師の娘ウノはその館の住人だった


他のホムンクルス達は仲良しで、互いに夢を語り合ったり励まし合っていたが、

奴隷待遇でカリカリしているサードをみんな嫌い、

姿を見るのすらいやがっていた


サードはいつも笑って楽しそうで、簡単に何でもできて

おもしろおかしく暮らして見えるウノに嫉妬して、

「人間はいいよな!?」と時々辛く当たってしまう

それでも自分に唯一優しく話しかけてくれるウノの事が気になってしまうサード




ある日サードは外の人間が持ち込んだ15年前の写真に、

今と変わらない姿で映っているウノの姿を見てしまう


そしてある夜、その事が気になりこっそり彼女に聞き出そうとしたサードは

館の主からの性交渉を虚空を見上げながら受け入れている彼女を見つけてしまう


なんだかいたたまれない気持ちになったサードは、

彼女になにもいわず、彼女の仕事を手伝う事にした

実際にやってみるとその内容はとても繊細にしてハード、

一分一秒刻みでスケジュールを立てながら汗だくでようやく間に合う仕事だとわかる


そう、ウノは楽しくやっているように見せていただけだったのだ

凄まじく不毛で大変な毎日の中、ホムンクルス達の長女として勤めて明るくしていた、

それが彼女の真実だった




自分が全部知っているとうちあけ、

彼女の重荷を少しでも手伝えないかと悩んでいたサードに「どうしたの?」

と優しい微笑みで彼女は話しかける


「私お父さんが幸せならそれでいいんだ。私の事もう必要ないから廃棄するって、

 そういうならそれでもいいの。だけどその前に君に気付いて欲しくて」

「なにをだよ」


ウノは少し首をかたむけサードをその包容力のある瞳で見つめる


「君お父さんに愛されてるよ、きっと私達の誰よりも。

 みんなそれが少しうらやましいだけなんだ、きみがどれだけがんばってるかみんな知ってるよ」

立ち上がりサードに振り向く彼女は、日の光を浴びて清らかな雰囲気を放っていた

「だから安心して、いつかわかりあえるから」

ウノのその姉のような笑顔の意味を、その時サードはなんとなく理解したような気がした




異端審判で父が財産の差し押さえと精神病院へ送られる事になり、

ホムンクルス達は館に結界で封じられ、館に火が放たれてしまう


こんな時のために主がホムンクルスの長であるウノの服に仕掛けた錬金術で、

人間側の罠や術をかいくぐりホムンクルス達を逃がすウノとサード


最後に二人で脱出しようとした時、

サードはウノに「生きろ」といった

突然の事にウノは少し固まり、嬉しくて泣きそうな顔でサードを見上げる


錬金術の一つが上から落ちてくる何かを感知、

センサーが動作と結果を二種類ウノの耳に知らせた

それはウノだけが助かるか、それとも




とんっと突然背中を押されて家を出るサード

彼が振り返るとウノが「ごめんね」とまたあの笑顔をする

次の瞬間天井が全てを潰してしまった


サードはずっと気になっていた

ウノを見ると胸が苦しくなるその理由、伝えたかった何かの正体、それを確かめる手段はもう無い


館の火事から月日が流れ、彼はなにも食べす動かず、

生きた屍のように毎日ただ流れゆく河を見つめていた


いろんな人が彼に話しかけたがなにも反応をしめさず、

かれは少しずつ衰弱していった




いつからか頭痛と吐き気が酷くなり、

体の中を毒虫が蠢くような苦痛で起きあがる事も出来なくなったサードは、

乾いた小さな声で笑い始めた「もうすぐまた会えるな、楽しみだ」


「お兄ぃさん」

20才前後の女性の声だろうか、どうやらサードに声をかけているようだ

「こらこら無視すんな!」

むにーっとほっぺを引っ張ってくるので、彼はそれをはらう

「なんのようだ」


女性はサードの横に腰をかけるとほおづえをついて彼を見る

「今から人に会いに行くんだけど、人と話すのひさしぶりでね

 お兄さん暇そうだし、ちょっと会話の練習がてら私の昔話につきあってくれない?」

「好きにしろ」

横になりながら投げやりに言う彼に「ありがと」と言うと彼女は話し始めた




彼女は難病で15年間ずっと眠り続けていた事

その間見たのかとても悲しい夢を見て、

その中でサードみたいな姿の獣人と出会い心が少し救われるようになった事


自分が目覚めたら今度は父親が入院して、その見舞いにいく途中だという事

昔母親に習ったビスケットが上手に焼けた事などを話すと、

彼女はサードにあなたも一緒にお見舞いにきてよ!と言い始める


「俺は見ての通りの人造生命だから錬金術師なら興味くらいは持つだろうが……」

「なんとなくだけどあなたも来た方がお父さん喜ぶと思うんだ

 夢の中でお父さんあなたみたいな獣人さんが息子みたいでかわいいって、よく言ってたもの」

「夢の中の話で赤の他人を巻き込むなよ」

「そーいわないでよ、正直一人じゃ不安なんだってば」

一生懸命頼み込む彼女を見てサードは吹き出し笑いをする




「わかったわかった、行けば良いんだろお嬢さん」

サードはさっきまであんなに苦しかった体が、

多少体を動かす程度なら平気なくらいに回復しているのを不思議に思いながら起きあがる

「やったぁ!じゃあ善は急げッだよね!」

「おいおい、ちょっと待てよ」


「おい、ウノ」


「ん?」

振り向いた彼女は空を見ておっかしいなぁという顔をしてあごをかくと、

照れ笑いをしながら舌を出した


「腹減った、そのビスケット食って良い?」

「だーめ、お父さんに会ってから。三人で食べた方がおいしいでしょ」

「へーへー、姉ちゃんにはかなわねぇや」


それは晴れ渡った空と心地よい風の吹く、ある夏の日の出来事だった

Elton JohnのYour song聞きながら書きました。エリトンジョンいい…。

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