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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
5歳の女の子と獣人さんのお話
111/873

111回目 シリンダーの中の世界

月と地球の間のライブスポットと呼ばれる宙域に、

工場一つ分はいるだけの小規模の宇宙コロニーが当たり前に存在するようになった近未来。


科学で魔法を再現した異端の物理学者ケイブ。

彼の作ったコロニー内部には魔術で作られていた特殊な力場が複合した形で詰め込まれていて、

彼はその中で王として君臨し、悪魔を次々に生み出し世界征服を企んでいた。

そんないわくのある墜落したコロニーが河の中心に島のように存在する片田舎のお話。


その田舎で暮らす少年達は伝説を確かめるために、

立ち入り禁止となっているそのコロニーに忍び込もうとした。

先発で向かったケビン達の入った道が崩れて入れなくなり、

別の入り口を探して残りのコフィ達も中に入っていく。



ケビン達は廃コロニーの中で無数の化け物達と

自称悪魔の左手に二つの目のある熊獣人と出会い、

コフィ達はおばさんというと笑顔でコブラツイストをかけてくる

レィニィという女性と共に行動する事になった。


内部は廃工場の様相もあれば一部植物プラントもあり、

さながら古代の遺跡のような雰囲気がある場所だった。


熊獣人は自分の事を悪魔というが非常に紳士的で、武器も普通の斧だけ。

どちらかというと左手の目玉が悪魔的な性格と魔力を持っていて、

ホーミングレーザーやビットやボムや波動砲を勝手に放つ。

それを獣人はひたすら斧と体力で勝負して、敵を食べて体力と消耗した魔力を補充していく。


熊獣人は記憶が全くなく、全て知っている風の左手は何も語りたがらずうすら笑っているばかり。

熊はこの世界の主に会わなければならないと言う。

会った事はないが、主を思うと胸が苦しくて寂しくてでもどこか嬉しいような、

よくわからない気持ちになるから。その正体を主に会って確かめたいのだという。


ケビン達も主がケイブなんじゃないかと考え、

自分たちの目的にもあうからと彼と一緒に進んでいく。



一方コフィ達は廃コロニーの内部を知り尽くした風のレンジャー姿のレィニィと、

危なげなく崩れていく部分などを通り抜けて先に進んでいく。

彼女の目的はこのコロニー内部に起きている人工魔界を『鍵』によって消滅させる事。


一緒に進んでいく中コフィの天才的な頭脳も手助けして、

コロニー内部に起きている現象が

人の夢に似た混沌によって世界の存在がかき回されているために起きているという事と、

そして敵の正体もうっすらと判明し、

彼らの動きから指令を出している存在が居る場所も突き止める。


そしてレィニィの案内で『ホーリーグロウ』という夢により生じた混沌を正常化する、

平たく言うと聖なる力、非常停止スイッチを手に入れる。

コフィ達の向かう先、それはケビン達の向かうコロニーの主の待つ巨大な城にも似た

中央制御ユニットだった。



ケイブの正体は実は氷状に固まったナノマシン集積体の中で眠り続ける女性だった。

二百年もの間、あるたった一つの目的のために

自分の夢を媒介にコロニー内部の不安定な空間に魔法と召喚を発生させ続けていた。


いつしか生み出された生態系の中で王が生まれた。

それは本能で主の存在を感じ取りケイブの目の前に玉座を置き、

いつか目覚める后を待ち続けていた。



ケイブの目覚めのために王につくケビン達と、

全てを終わらせに来たコフィ達。奇しくも目的が正反対での再会となってしまう。


なんだかんだで互いに制御ユニットの中で悪魔達に負われるハメになる二組。


レィニィの知識でユニットを操作し、

熊獣人とみんなの力で王に戦いを挑む子供達。

熊獣人のピンチにレィニィは聞き慣れない名前で熊獣人に危機を知らせると、

彼はその名前に即座に反応してカウンターで王を倒し、

レィニィの顔を見ると目を丸くして彼女を見つめ続けていた。


舌打ちしてつまんねーのという左手、

なんで見つめ合って固まってるのか?マークいっぱいの子供達。

レィニィだけは訳知り顔で嬉しそうに「おかえり」と言うと、

ホーリーグロウを掲げてケイブの封印を解き放つ。



押し寄せていた悪魔達が静まり散っていく、

落ちてくるレィニィそっくりのケイブを抱きしめる熊獣人。

子供達がレィニィに振り返ると、彼女は黒い翼のボディコンな悪魔になって

妖艶に微笑むと投げキッスをして霧のように消えていった。


「おい、起きろ。レィニィ、目を開けてくれ」

熊獣人は必死にケイブを揺さぶりながら彼女をレィニィと呼ぶ。

彼女の手がゆっくりと動き、熊獣人の体を確かめるように撫でていく。

「私がいなくなっても正常に人間社会が成り立つのは腹が立つわねぇ」

「俺なんかのために、無茶しやがって・・・」

大粒の涙をこぼしながら熊獣人は彼女を力一杯抱きしめる。


「ちょ、ちょっと苦しいってば。

 もーおっぱい大きくなってるんだから、子供の時みたいにしないでよね」

「お前は出会ってからずっとそうだ、かわりゃしねぇ。だからこれでいいんだ」

「あんたも勝手なのはあいかわらずねぇルノフ。ふふっ、でもその方がらしくていいのかな」



ケイブ改めレィニィが言うには異世界の情報として分解吸収されてしまったルノフを回収するため、

同じような特性を持つ悪魔をランダムに呼び出し続けて、

あたりを引くまで待つしかなかったのだという。


それまで何年かかるかわからないし、コロニー自体の機能が停止すればもちろん

レィニィは二度と目覚める事ができない可能性もあった。

でも彼を明確にイメージし呼び続ける事が出来るのは彼女だけだったため、

文字通り全てを投げ打って愛する人のために賭けたのだという。


子供達はコロニーの中が魔界で魔法で満ちていた事を知る事はできたけど、

もう魔法は存在しないためそれを発表しても

ただの変わった実験施設で終わってしまう事を残念がるが、

この冒険を経て仲間達の絆が深まり、

このまま学校を卒業してもずっと友達でいられる確信を持ち帰る事が出来た。



レィニィとルノフはとりあえず田舎のホテルで宿を取ると、

子供達のおすすめの夜景の綺麗な場所で二人きりになる。


「なんでお前は俺にここまでしてくれるんだ、俺はただの消えゆく者だったのに」

「言ったでしょ、世界があんたを否定するなら、私も世界を否定するって」

「それでも200年も世界と根比べするなんて、まともじゃないぜ?」

「あははっきっとお互い強情なんじゃない?でも今日だけは許してあげるつもりなの」

そう言うとレィニィは目を細めて夜景を眺める。

その横顔の細いライン、そして大人びた雰囲気にルノフは言葉に出来ない感情を抱いた。


「今の世界はあなたを否定してない、だから今二人でいられるんだもの」

ルノフを見上げると底抜けにポジティブな太陽のような笑顔を見せるレィニィ。

「笑顔が似合うようになったな、レィニィ」

「人は成長するものよ?ルノフ。なんなら成長した私をもっと教えてあげるわ」


ゆっくりと服を脱ぐと二人は重なり合い、熱い接吻を交わし始める。


影でその様子を見ていた子供達はまさかエッチにまで発展するとは思っておらずわたふた。

ケビンはコフィの手を握ってドキドキしながら彼女の顔を見ると、

コフィは照れくさそうににこっと笑い、

他のみんなにばれないようにチュッと小さくキスをした。



この惑星の片隅で起きた小さな出来事は幕を下ろし、

朝焼けと共に迎える未来は、光に満ちて静かに近づいていた。

3つ目のお話です。

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