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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
5歳の女の子と獣人さんのお話
110/873

110回目 ゲノマジェノ最終計画

近未来、世界は『敵』の出現により滅亡の危機に瀕していた。

『敵』はありとあらゆる物理現象の干渉を受けない、

つまり目視もあらゆるレーダーも通用しない存在。

そしてそれは人間の精神に干渉し、大人達から闘争する勇気を物理的に消滅させた。

それの出現から先戦場に出るのは子供達だけになった。


人類は人間の胎児が持つテレパス能力のような何かが

『敵』を捉える事が出来る事を発見する。


胎児をコアにした『戦闘機ゲノマジェノ計画』

それは理論上では無人運用も可能だったが、肝心の策敵が機能せず計画は暗礁に乗り上げかける。

母親としての個体を乗せる事で赤ん坊としてのコアのシステムが成立する事を

急ピッチで繰り返される実験の末発見、

少女をパイロットとする事でそれは日の目を見る事になった。


ゲノマジェノの搭乗者は機体に乗っていると自己認識が破壊され、

機体と一体化を望み発狂する傾向を示した。

彼女たちを現実に引き留めるため

機関は彼女たちの理想の対象を脳をスキャンし空想のアニムスを人工的に現実とした。


「いなくなったあなたをずっと捜していたの」

そう呟くと少女は獣のような毛皮に包まれた男の腕を抱く、

あの時と同じ温もりに彼女の心は溶けそうになった。

「あなたと会えるなら何もかも失ってもよかった」


その言葉に熊の顔をした男は目を伏せ、小さな声で話す。

「すまない、それでも俺には君を思い出す事ができない」


少女は笑った。感情を一片も感じさせないその声と表情にルノフはかすかに恐れを抱く。

「あなたはそれでいいの、あなたが私を嫌いだったのも知ってるから。

 だから好きでいられる、あなたを信じられる」


「お前、最低だな」


「ん、そうなんだ。昔からね」

乾いた笑顔のまま彼女はルノフの腕にほおずりをして、安堵のため息を一つついた。




ゲノマジェノの戦果は著しく、

戦うたびに敵の戦力が疲弊していく事は

定期的な敵攻撃による被害が減少していく事から明らかだった。


少女はルノフを愛していた。

彼が望む時も望まない時も、彼が彼女を愛す時もそうでない時も、

彼女はルノフをけして見ずに一方的に彼に溺愛し続けていた。


しかしそれでもゲノマジェノのシステムは彼女を蝕んでいく。

それは彼女の側に最も長くいるルノフだけが気付いた、些細な変化だった。




戦いが続くにつれてゲノマジェノ内部のコアから、

敵の詳細な情報が伝えられるようになり、

いよいよ敵の巣の中枢に近づいているという報告に人類は湧いた。

つかの間の時間人類は長い戦いの終わりに向けて、

戦いの終わりを成功させるための祈りをこめた世界を上げたパーティを行った。

しかしそこにはたった一人だけ姿を現さない男がいた。




敵の最終防衛ラインを突破。

その先にあったのは敵のブレインという個体ではなく、敵の発生原因という現象だった。

現象はゲノマジェノの姿をしてそこにあって、

その先には白が黒に変わった鏡写しの世界があった。


少女の通信が一才無い状況が続き、

一人コアを搭載していないプロトタイプのゲノマジェノに乗り込んだルノフは彼女に呼びかける。


それをあざ笑うような電子の声、その主をルノフは知っていた。

「お前、お前か。そのふざけた機体でそいつを苦しめるガキは!」


少女の乗るゲノマジェノのコアは敵の正体は

人類の次なる進化のための大いなる意志が起こした現象だと語り始める。

続いてきた進化の歴史、生命は進化のために生まれて死ぬ、

そして生まれいでた新しき生命に古き者は淘汰される。


少女とゲノマジェノ、そして自分が融合する事で人類は新しい存在へ進化する。

それは彼女が望んできた事で、

人類がその可能性を持つ彼女を拒み続けてきた罰なのだと。




こちらの世界のゲノマジェノと鏡写しの世界の中の機体が融合する。

「進化だなんざ関係ないんだ、そいつはまだ答えを出してねぇ。テメェの勝手に巻き込むな」


「嫌ってるんでしょう?彼女の事を。

 彼女をこんなにも愛してる僕に、君は何も言う資格はないはずだ」


「ああ嫌いだよ、全部覚えてるのに何もしてやれなかった俺自身も。

 俺が大好きで大好きでしょうがないそいつを、自分で最低だって決めつけるそいつも大嫌いだ」


「愚かだなぁ、醜いだけだよ人間の精神性なんて。

 もう必要ないんだ、前時代の遺物を保持するために世界がその存在を我慢する必要もない。

 消えると良い、この宇宙の意志のままに」




この世界の物理法則自体を味方につけたかのような奇妙な動きをする敵に、

ルノフは気持ち一つで必死に立ち向かい、

ゲノマジェノに関わり死んでいった者達の声を白い闇の世界の中で聞きその力を借りて、

敵の攻撃を利用した捨て身の一撃で敵のコアを打ち抜く。

「ばかな、宇宙の決めたシナリオが書き変わるなんて。ありえない!!」

「定められてるから世界が変わるんじゃない、人の意志が世界を変えるんだ」

「それでも彼女は連れて行く・・・ッ!!」

「悪いがお前と相乗りするのは俺だけだ」




『救難信号に反応あり、応答連絡を待機しています』

機械的な音声になったゲノマジェノの中で目を覚ます少女。

「生きてるんだ・・・、なんだか拍子抜けだな」


膝を抱えて彼女が深呼吸すると、いつもと少し違う事に気付く。

ルノフの匂いがする、コクピットの作りも少し違う。

そして肩には知らない間に彼の赤いポンチョがあった。


少女は驚きで目を覚まし、宇宙の光の中必死に何かを探し始める。

救難信号を聞いた人類の通信が入ってもしばらく彼女は気付かなかった。


「応答をお願いします、無事なら応答を!」

「ええ、無事です。私・・・」

少女の目が優しい光を宿し、瞳にためた涙が無重力で小さな玉になって散らばっていく。

「私、生きてます」


少女が光の中になにを見たのか誰もようとして知れない。

ただその日を境に彼女の生き方が少しだけ変わったと、

そう彼女を知るものは後に語った。

2つめのお話、アンジェラアキさんのアゲイン聞きながら書きました。

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