106回目 青い空のオフェリア
オフェリアは体が弱くいつも日傘を差していた。
華奢な体躯に白い日傘とワンピース、朱色の繊細にたなびく髪が太陽の光によく似合う少女(5さい)だ。
彼女は生まれつき魂に普通の人間には見えない翼を持っていて、それに人外魔道を宿す事ができる。
本来なら世界中の光と奇跡を集め光り輝く翼になるはずのそれは、
暗く澱んで彼女の背中に重荷のように揺らいで在った。
しかし彼女はいつも彼女に会いに来た俺にかわらない太陽のような笑顔を見せる。
「おはようカイル!今日も来てくれたんだ!」
「おはようオフェリア、調子はどうだい」
彼女は照れくさそうに首をかしげ髪を少しいじると流し目でこちらを見た。
「気付かなかったんだ?わたしカイルと会える日はいつだって元気だよ」
「そうか」
俺は無意識に彼女を抱きしめ髪を撫で、その香りに心をたゆたわせていた。
日傘ではカバーしきれない日光を悪魔の翼で遮り、
今だけは神も人間も誰も彼女を見つけないよう祈りながら、俺は自前の毛皮で彼女を守るのだ。
人類が神をこの世界に召喚しようとした業から数年、
地上に現れた有象無象の悪魔と聖霊の類を封じるゴミ捨て場としてオフェリアは利用されていた。
彼女は翼に閉じこめた存在を武器として召喚し使用する事ができたため、
その力を見込まれ悪魔狩りの実行部隊員としても利用されていた。
「おなかすいたすいたすいたすいたぁー」
「仕事終わってから!ったくもうお前は俺といる時だけ甘えん坊になる」
「だってぇ、ほんとにお腹空いちゃったんだもん」
彼女は指をちょんちょんと目の前でつけながらおねだりするように下から俺を見上げる。
「ったくしょうがねぇなぁ」
俺は隠し持っていたチョコレートを一切れ彼女に放り投げた、甘やかしすぎだとは自覚してる。
「わはぁいおいしー、あひがほー」
「食いながら話すな!ほれ武器出せ、周囲警戒しろ、もう敵のテリトリーだぞ」
「んくっ、はーい」
そういうと彼女は翼を目の前に展開しそこから一本のアサルトライフルと短剣を取り出した。
そんなこんなで二人で悪魔狩りをするようになってもう数ヶ月がたとうとしていた。
敵を倒し封じるたびにオフェリアの翼は黒く染まっていく。
教会が全ての悪魔を封じたあと彼女をどうする気なのか、少なくともいい予感はしない。
また一人倒れた悪魔が彼女の翼に包まれて消えた。
悪魔王の命で彼女の体に悪魔を封じる手助けをしながら、
王の考えが少なくとも人間よりは彼女に救いのある結果である事を祈るしか俺には出来ない。
「ねーカイル、オフェリア今日もがんばったでしょ?」
「あぁ良い子だ」
頭を撫でてやると嬉しそうに目を細める、どう見たってどこにでもいるただの子供だ。
「ご褒美、お願いしてもいい?」
そう言い出す時の彼女の望みはたった一つ、そして俺が彼女に出来るたった一つの事でもあった。
俺はちょこっと胸を張り威張りながら人差し指を立て、片目で彼女を見ながらえへんと咳をした。
「今日は眠るまで側にいてやるよ、実は新しいお話も用意してあるんだなぁ」
「ほんと!?やったー!やったーっ!!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるオフェリアと手をつないで、
俺達はかすかな星明かりの下、できるだけゆっくりと今を噛みしめるように家路についた。




