表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
5歳の女の子と獣人さんのお話
105/873

105回目 双竜導師

山のような巨躯を誇る虎獣人と格闘する仙女見習いメイシェン(5さい)

圧倒的な力の差は獣人の攻撃の一つ一つが岩を砕き、

竹藪を横ナギに切り裂く所から明らかであったが

彼女はひるむ事なくその攻撃を空を舞う羽のようなカンフーで交わし、

筋肉の薄い脇腹や延髄を狙った蹴りの応酬を仕掛ける

しかし着地位置の選択を誤ったメイシェンは姿勢を崩し、

一瞬止まった彼女に虎獣人の巨腕が襲いかかる

「うぐぅっ!!」


獣人は彼女を空に浮かせそのまま次の攻撃に移ろうとしていた

「させるもんかぁ!」

メイシェンは左右の袖に両手を差し込み素早くお札を取り出し、

それを銃弾のように虎獣人にお見舞いする

ババババンッと虎獣人の体で破裂するお札は彼の動きを止め、

その隙にひらりと着地して姿勢を整えるメイシェン。虎獣人の顔が怒りで燃え、目が蛇の目に変わる



虎獣人が轟音を響かせながら地面に足を構えると、

全身の毛が逆立ち燐光を纏い、その黒い爪が凶暴に伸びてかすかに炎を宿した。


「ちょちょちょちょっと、それはやばいんじゃないかナ?」

冷や汗たらたらで挙動不審な動きを見せるメイシェン。

「問答、むぅよぉおおうぅ!!」

巨腕を振りかぶる虎獣人、瞬時に札を出し防御結界を展開するメイシェン。


「ぎゃぁああああ!!」


次の瞬間悲鳴をあげたのは両者だった。

「ジジイ!!」

師匠シーフーッ!!」

二人ともが股間を押さえて前屈みになっている。

師匠と呼ばれた老人はヒョヒョヒョと笑いながら二人のパンツを持って二人の間に立っていた



メイシェンのパンツをもぐもぐと食べている師匠を本気で殴り飛ばすメイシェン

「やれやれ女の子はおしとやかにと教えたじゃろー?」

「できるかたわけぇ!!」


どさくさに紛れてパンツを履く虎獣人のラオフー、

彼はメイシェンと同じ師匠に指示を受ける彼女の兄弟弟子であった

「えーっとさジジイ、今回は俺は合格だよな?」


師匠はパンツを履こうとするメイシェンのケツをいやらしく見つめながら

「両者失格!今日は晩飯抜きじゃ」と大きな声で言った

「えー」

と二人そろって声をあげて互いの顔を見ると不機嫌そうにふんっと顔を背けるメイシェンとラオフー


「仙術は禁止と言ったじゃろ、進歩のない奴らじゃて

 それにワシが止めにはいらなんだらワシのかわいいメイシェンが挽肉になってたじゃろうが!」



師匠の指さす先には振り抜かれたラオフーの仙術で切り裂かれた三個の山が崩れ去る姿があった

「ちょっとラオフーあんなの食らったらさすがに危ないでしょ!」

「だって殺す気だったんだもん」

「なっなんですってぇ?」

にひーと意地悪く笑うラオフーの子供っぽい顔を見て何も言う気をなくすメイシェン


そんな二人を見てやれやれと両手をあげて頭を振る師匠は

こっそりと隠し持った本物のメイシェンの脱ぎたてパンツを手に

意気揚々とヒョッヒョッヒョーとその場を去っていった


「ラオフー」

「おう」

そんなジジイの後頭部にほのかに光を宿したラオフーの仙術パンチが炸裂

「ギャーーー」

と叫びながら師匠は遙か下の雲海の底へと落ちていった



そんなこんなでどたばたと毎日を暮らすメイシェンとラオフー


その世界では仙人になる子供は産まれた時側に獣人の赤ん坊も現れる事で判明する

仙人と獣人は常に対で生まれる陰と陽とされ、

仙人が生まれると親は皆子を仙花水滸と呼ばれる山脈へ狼煙と共に棄て、

棄てられた赤ん坊は山脈の仙人達の手によって手厚く育てられるのだ


メイシェンとラオフーは生まれた時からずっと一緒、

たった一人の肉親であった


ある日なんだかもじもじソワソワするメイシェンに気付いたラオフーが彼女の後をつけると、

彼女は山の見晴らしの良い場所に出て

雲海が裂けそこから覗く下界の街を見てはふぅとため息をついていた



ぽいっと突然投げられた桃を見て驚くメイシェン

「食えよ、かっぱらってきた」

「またぁ悪い事だけは達者だねラオフーってば」

にんまり笑いながら桃をほおばるメイシェンの隣に座るラオフー

「下界が見える場所なんてあったんだなぁ」

「ん、この間みっけたの」


ラオフーの顔も見ずに街をずっと見ているメイシェン、

なんだかいつも見た事の無いような色っぽいような女の子してる顔にちょっとドキッとするラオフー

「降りたいのか」

「ごほっげふっげふっ、いきなりなに言うのよ!」

「行ってみたいんじゃないのか、あそこ」

「そりゃー、まぁ、ね?興味くらいなくはないわよ。

 いろんな服見てみたいしパンツも予備のが買えるし、あっ知ってる知ってる?

 獅子舞ってすごいんだって!人が獅子の格好して踊るんだよ、どんなのだろー」



いつもの勝ち気で小憎らしいばっかりのメイシェンとはあんまりにも違うので

思わず吹き出しそうになるラオフー

ラオフーは師匠の隠していた仙術の一つをメイシェンに渡す

時空転移の仙術、これなら師匠にばれずに行って帰ってこれると言う

基本は真面目なメイシェンは少し気がとがめたが街に行きたい気持ちが遙かに勝っていて

二人はさっそくその術を使って街に降りる


ラオフーは虎猫に化けてメイシェンの肩に乗っかり、二人は街の中を見物する

やたらテンション高く「うわーっ」「おおーーっ!」と声をあげるメイシェンを

はずかしいなぁと思いながらも、嬉しそうな彼女に自分まで嬉しくなってくるラオフー


ちょうど祭りが始まり爆竹が弾け、獅子舞が来たよ!という声に走っていくメイシェン

「はわわわわ~すごい、すごいよラオフー、来たかいあったよねっ」

と初めて見る獅子舞を人並みの中必死にぴょんぴょん飛んで見ながら興奮するメイシェン

そんな二人を怪しい少年がじっと遠くから見つめていた



「この付近にクァンという男の人の家はありませんか?」

「え?」

獅子舞も終わり余韻にほけーっとしていたら突然少年に話しかけられどぎまぎするメイシェン

「どうしようラオフー、私この街の事なんて全然知らないよ」

「旅人ですとでもいっとけ」

「えーとごめんなさい、私旅の途中で今日初めてこの街へ来たばっかりなの」

「そうなんですか!奇遇だなぁ僕もなんですよ

 よろしかったらご一緒していただけませんか一人では不安なもので」

「えっえ、えーと、はい」

「(おいーなにハイとか言っちゃってるんだよ)」

「しょうがないじゃない困ってるみたいだし、一緒に探してあげるくらいいいでしょ?」

「なにか?」

「いいえ、行きましょ」

メイシェンはラオフーの口をむぎゅっと塞いで黙らせると少年と並んで歩き始めた

水をさされうらめしい顔で少年を睨むラオフー



街の人にくまなく聞き回ってもクァンという人は街には住んでいないと言われてしまう

「なるほど僕がいない世界ってわけだ、長老め考えたな」

ぼそっと呟く少年を不思議そうな顔で見るメイシェンに彼は

クァンというのは彼の叔父で彼を頼って来たがあてが外れてしまったのだと笑いながら話す


夜が近づき街の提灯に灯が灯り始め、少年と別れてメイシェンとラオフーは山へと帰った

「なーんかうさんくさいんだよなぁ」

「んーなんのこと?」

布団の中で今日手に入れてきた戦利品、

主にウサギ柄のかわいいパンツを手ににまにましているメイシェン

「あのガキだよ、いけすかねぇ奴なんか隠してやがる」

「別にいーじゃないもう関係ないんだし、早く寝よ明日も早いよ」

「あー」

ぶすーっとした声をあげてラオフーは布団の中なぜこんなにあの少年が気になるのか考えていた

嫉妬にしては妙に嫌な予感がする、師匠に相談するべきなのかどうか、答えを出すのに朝までかかった



翌朝帰ってきた師匠はすぐに二人を自分の部屋へ呼び出した

二人は勝手に下界へ降りたのがばれたのかと冷や冷やしながら師匠の前に行ったが、

彼の口から出たのはそれよりももっと深く入り組んだ話であった


この世界には『幻の霧』と呼ばれる存在がある事、

仙人の力の元もそれでありそれは町中や森の中場所を選ばず

白昼夢のように見える樹から流れ出るわき水などの幻の存在


それが見えるのは仙道かかなり霊感の強い人間だけ、

そしてそれを使えばその『幻の霧』と引き替えにとても強力な道具が手にはいるのだという


仙花水滸の仙人達は千年ほど昔街を妖怪の類から守るために

その地方にあった四つの強大な『幻の霧』を元にした結界を作ったのだが

どうも最近その『幻の霧』を狙った外法の輩がやってきたのだという

二人にも気をつけるように言う師匠の真剣な顔に、ただごとじゃない事を理解し息を飲む二人



師匠はラオフーだけを呼び止め彼にさらなる真実を告げる

実はメイシェンのような仙人は元々生まれていない存在、

つまり人間版の『幻の霧』である事


そのため何も知らないウチに悪しき輩に利用されないよう

ラオフーのような獣人を仙人達が作り出し、街の住人が『幻の霧』が生まれたらそこに

獣人も現れるように仙術をかけ、人々に言い伝えを行き渡らせたのだ


それを聞いてラオフーは先日の少年の話をする

師匠はその少年こそ異世界を渡る『幻の霧』を喰らう者、クァンという邪悪に落ちた仙道であるという


クァンのいた世界ではクァンだけが『幻の霧』の人間であった

彼はいろんな世界を渡り多次元の『幻の霧』や自分を喰らって成長を続けていた

この世界ではクァンがいない代わりにメイシェン達が存在し、

彼がその事に気付いた場合彼女に危険が及ぶ、気をつけろと師匠はラオフーに念を押す



急いでメイシェンに少年が危険人物であることを伝えようとするラオフー

でもメイシェンはどこにもいない、また転移仙術で街へ降りたのだ


彼女を追って急いで地上へ降りるラオフー


地上へ降りたメイシェンは再び出会った少年と共に街を歩いていた

浅瀬の川を渡り、森の奥深くへ入っていくとそこには宙に浮かぶ巨大な水晶があった


少年はそれに手を触れるとその地域の千年の記憶を読みとり

メイシェンを怪しい眼孔で凝視した

彼の術にかけられ動けなくなったメイシェン、

彼女の体が徐々に幻のように半透明な光の粒に変わっていく


恐怖で声も出せなくなっていくメイシェンの頬を舐めるクァン



「ラオフーーーー!!」

メイシェンが渾身の力を込めて相棒の名を呼ぶと

仙術の爪光弾がクァン目がけて炸裂する

「待たせたな」

よっと指を立てるラオフーを見て半べそになるメイシェン

「遅いよばかちんっ」


メイシェンの側に降りると彼女の背後で指を上下に構え呪文を唱え、

彼女にかけられた術を解除するラオフー

「今の一級解除法でしょそこまでのレベルの仙術だったの!?」

「アイツはジジイの100倍やべえ相手らしいぜ、気合い入れろメイシェン!」


むくりと蛇のような不気味な動きで起きあがるクァン、

ラオフーは全身を毛羽立て目を蛇目にしてクァンに奇襲をかける

状況が飲み込めないままメイシェンは札を取り出し仙術法を開始した



クァンは仙力全開のラオフーの攻撃をカンフーだけで受け流し、

その術を四方八方にそらしてしまう


「威力が強いだけだな君の攻撃は、とても実戦的ではないぞ」

「なっあ!?」

クァンの片手が蛇のようにラオフーの体に触れ一瞬にしてその巨体を回転させ地面に叩きつける

「本物の仙術を見せてやろう」

手刀を作ったクァンはそれを天まで届く光の槍にしてラオフーに振り下ろす


「させない!!」

メイシェンが完成させて放った仙術が彼女が想定していた何千倍もの威力で発動し、

クァンの光の槍を粉々に砕く光の盾になった



山奥からその様子に気付いた師匠はクァンがメイシェンの秘密に気付いた事に感づき

山から飛び降りると風に乗ってメイシェン達の元へ飛んでいく


メイシェンは自分の力を制御しきれずあふれださせたまま戸惑っていた

クァンは彼女を食おうと近づこうとするが、彼女から溢れた力が邪魔で近づけない


それならしかたないと結界の要であるクリスタルを取り込もうとする

そこへ師匠が割って入るが紙一重で間に合わずクリスタルは消滅、結界は消え

妖怪達がなだれ込んでくる

妖怪達はクァンの力の光に引き寄せられ彼を襲うが、

逆にその力にむしゃむしゃとむさぼり食われてしまう





クァンは自分は神様になりたいのだという

人間がいて妖怪がいて仙人がいて無駄だらけで不平等な世界を

一つにまとまった真っ白な世界にしたいのだと

師匠は『幻の霧』で作られた青龍刀でクァンと壮絶な戦いを繰り広げるが、

彼の力自体が質量を持つ何本もの腕や刀となり破れ青龍刀を取り込まれてしまう


メイシェンはラオフーから事の次第を全て聞いてそれならと力をとく

「なにやってるんだ!」

ラオフーの声に

「見てて、私がんばっちゃうから」

と彼に緊張した顔でウィンクをしクァンを受け入れるメイシェン


その様子を見て師匠は瞬時に他の仙道達を転送仙術で呼び集め、

メイシェンを取り囲んで仙術を開始する

中心でメイシェンもゆっくりと太極拳のような動きを見せる



メイシェンの動きにあわせクリスタルが再生され結界が甦る

彼女は自分の中に取り込んだクァンを

自分が取り込まれる前に『幻の霧』として消費しきってしまう手段に出たのだ


仙道達の力を借りているとはいえまだまだ未熟なメイシェンの顔が青ざめていく

ラオフーは震え始めた彼女の体を強く抱きしめる


師匠が巻き添えを食らうぞ離れろ!といってもラオフーはそれを聞かず

彼女の耳に何度も何度も

「がんばれメイシェン、俺にはこれくらいしかできないけど

 なにが起きたってお前を離したりしない、だからがんばってくれ」

と応援の声を叫び続けた

メイシェンの目に火がつきニイッと顔に力が戻る

大気が震えクァンの断末魔の声が周囲一体をふるいあがらせる中

メイシェンは最後の方を「ハァ!!」と決めてクァンを完全消滅させる



腰が抜けてへたりこむメイシェンとラオフー、二人は互いの顔を見てその表情がおかしくて笑い出す

仙道達の拍手の中師匠は「合格、じゃな」と満足げに呟く

二人は背中をあわせ青空を見上げて深呼吸する


「二人そろってなにかやり遂げるなんて初めてだね」

「ああ、わるかなかったぜ」

「ラオフー」

「なんだ?」

「ありがと」

「ん、気にすんな、それが俺の役目だ」

「かっこいー、惚れちゃうかも」

「ばっばかいえっ」


照れるラオフーの目の前に立つとメイシェンは彼の唇を奪う

本気だよ?そういうメイシェンにラオフーは馬鹿野郎俺はずっと前から本気だ、と彼女を抱きしめた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ