102回目 カインドマンブルース
獣化病 獣人として生まれてきてしまう病が流行している世界。
DNAは正常なためDNA正常化薬も役に立たない。
試験のため獣人の体から採取した細胞からクローンを作ったところ人間が出来てしまった、
すでに獣人は人類とは別種の生き物として差別を推奨してきた政府はその事実を隠蔽すべく
試験体を処分しようとするが、試験体はすでに姿をくらました後だった。
路地裏で自殺しようとしていた何でも屋の鷹獣人ナックの前に5才の少女リタが現れる。
管理ナンバーの刻印のない彼女を警察に連れて行けば問答無用で国外追放のため
警察に行くわけにもいかず、宿無しの彼は行きつけのバーのママにリタを頼もうとする。
ママはナックに自分の経営するアパートの一室を貸してあげるからお父さんやってみなさいという。
「あの人弱虫だから守ってあげてね」
とリタにウィンクしながら耳打ちするママ。
ママはナックが追いつめられていて、彼には引き留める何かが必要だと知っていた。
ママに当面の生活資金まで援助して貰ったナックは引くに引けず、
リタと一緒に生活をはじめる。
「一昔前まではハイウェイの帝王と呼ばれた俺とお前が幼稚園児の送り迎えか」
と相棒のバイクにひとりごちながら苦笑いするナックだったが、
後ろでぎゅっと自分を掴むリタに
「おとーさん」と呼ばれる生活もそんなに悪くないと感じ始めていた。
細々とした仕事はなんとか取れるようになって来ていたが、
いつまでもママのやっかいになるわけにもいかないし、
リタと人並みの生活をするにはもっと大きな仕事をしなきゃと動くナック。
「きゅきゅきゅ~んっばばばばーっ」
ばたばたとオモチャを片手に走り回るリタを見てふっと笑い、
一呼吸するだけで心臓が苦しくなったあの頃と今の生活の違いにしみじみひたるナック。
彼の視線に気付くとリタはぱたぱたっとナックの側に駆け寄り抱きつく。
「不思議な子だなお前は」
「リタは元気だけが取り柄だからねーへっへー」
そういいながら気持ちよさげに彼の毛皮に顔を埋めるリタ。
ナックはリタの頭を愛しげに撫でる。
穏やかな毎日がこのまま続けばいい、そう願う彼の前に再び現実が牙を剥いた。
空港問題で大量の死者がでた原因をナックに求める集団が
彼の居場所を突き止めてしまったのだ。
空港で爆弾テロが起きナックの恋人も死んだ事件、
恋人の両親すら彼を責め立てるその集団の一員となっていた。
その集団は主に獣人が集まって出来ていて、世間の誹謗中傷から獣人を守るために
一人のスケープゴートを作りつるし上げて潰すのを主に行動していた。
その集団に目をつけられたら最後、家族も友人も敵になる。
ナックは一人家をあとにして夜の街を逃げるようにバイクで走り出していた。
白が黒に変わる瞬間、人間の心が容易く塗り替えられる物だと知ってしまった時から
彼の心のバランスはすでに大きく壊れてしまっていた。
どこまで逃げても追いかけられる、どこへ言っても視線を感じ、
全ての人間の言葉が彼を責め立てているようだった。
恋人の幻影が彼に付きまとい、何度も何度も彼を罵りあざけり歪みきった顔で奇声を上げる。
「畜生・・・畜生、限界だ」
銃を取り出すと目を閉じ口の中にそれを押し込む。
「おとーさん」
その声がナックを狂気の世界から現実に引き戻した。
「なにしてるの?」
ナックは自己嫌悪とやり場のない悲しみから涙が堪えきれなくなって泣き出した。
「どうしたのおとーさん、どこかいたい?だいじょうぶ?」
「違う、違うんだ。俺は、あぁ・・・リタ、すまない、俺はなんてことを・・・」
「泣かないでおとーさん、リタも悲しくなっちゃうよ」
涙目になったリタをナックはただ抱きしめるしかできなかった、
それくらいしか今の彼に出来る父親らしい事は何一つ無かったから。
「リタはね、おとーさんとこうしていられるの幸せだよ」
もう置いていかないで、そういう彼女にナックはすまないと何度も何度も繰り返し呟いていた。
リタに支えられながら大きな仕事をついに手に入れたナック。
でもその仕事で与えられたのはリタを処分しろという任務だった。
殺し屋として雇われたのはナックだけではない、
彼は必死にリタを連れて殺し屋との争奪戦を開始する。
バイクを使った超絶バトルのナックは水を得た鮫のような超活躍!
なんとか殺し屋達を退けていくが、ママを人質に取られたり
獣人集団を利用した罠を仕掛けられたり状況は悪化する一方。
そんな中で次にどうするべきか、彼は街の中を練り歩くパレードを見て閃く。
たった一人で何人もの殺し屋を相手に最後の戦いを繰り広げるナック。
しかし敵の過半数を倒すためにバイクを犠牲にしてしまったり、
武器弾薬も底をつき、全身傷だらけの満身創痍、
そんな状況でついに港の波止場に追いつめられてしまう。
腕時計を見た後不敵に笑うナック
「実験体はどこだ」
そんな彼をいたぶりながら殺し屋達がリタの居場所を聞き出そうとする。
殺し屋の一人が車の中で聞いていたラジオのニュースにそいつが青ざめラジオの音量を上げ他の仲間を呼ぶ。
リタはパレードの最終地点の少年合唱の壇の上で、
実験体が抹殺される原因であるその天使のような翼を広げながら歌っていた。
周囲は彼女の姿と歌声に釘付けになり世界の時がまるで止まったようだった。
ナックはラジオから聞こえるリタの歌に耳を傾け、
鼻歌交じりにタバコをくわえると一服して満足げな顔で空を見上げた。
リタの登場により獣人の人権について見直す運動が高まり、
空港の事件も再調査が入ってナックも罪に問われる事もなくなって
彼女の墓参りも許可されて花束をリタと一緒に備えにいったり。
二人で心の病気にも立ち向かって快方に向かっていったり。
リタの歌の才能とその翼の見た目のインパクトから芸能方面からのスカウトも殺到、
何でも屋で経験があったマネージメント技能で二人で事務所を立ち上げたりなんかして
ママに借りてたお金を返して生活出来るくらいには順風満帆な生活になっていったんだ。
それから十年後くらいから急にリタが色気づいて
ナックに言い寄ってきたり、初体験はナックじゃなきゃやーよとか言い出したりして
男としては嬉しい反面、自分お父さんだしこれはどうなんだ?と理性と欲望のはざまで揺れ動いたり。
ママがリタに嫉妬したりそりゃもういろいろとどたばたあって
嬉しい悲鳴をあげながら今日も元気に明るくバイクを乗り回すナックさんだったりするんだ。




