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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
5歳の女の子と獣人さんのお話
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101回目 魔法鬼バウンドリフェア

この世界に呼び出された少女ロア(5さい)

少女を守るために作り出された獣人兵スティナー


戦闘機のような魔法兵器の核として利用されて

毎日続く戦争で生命力そのものである魔力を失いやつれていくロア

でも彼に心配をかけまいとつとめて明るく振る舞う


スティナーは彼女が乗せられた魔法兵器バウンドリフェアを奪取、

彼女が元の世界に戻れる最後の希望である

太陽の黒点が落とす影に現れるゲートを目指して飛ぶ


ゲートはその世界の聖域であり、

近づくほど王宮に近づくため警備が厳重になっていく。

情報が伝わりきる前に一気に行かなければならない。



他の魔法戦闘機の中にも異世界から呼び出された魔力を持つ生命体が核に使われていて、

それを倒す事であふれ出した魔力を吸収出来る。

その性質を利用して少女をできるだけ消耗させずにスティナーは進んでいく。


時折おりて狩りをして二人で食事をしながら、

スティナーも国を相手に戦争をしているようなもので

神経をすり減らして限界ではあったが、

「もうすぐ帰れるんだね」

と嬉しそうな彼女を見るたびに力が湧いてきた。


順調にいけそうだと思った矢先、敵が少し本気を出して中隊一つと決戦兵器を送り込んでくる。

大型魔法空中戦艦相手に絶望的な状況に追い込まれるが、

戦闘機の核になっている存在が自分の意志で魔法を使うという前例のない状況が発生、

未知なる大魔法の力によってその場を辛くも切り抜けるが。



ロアは巨大空中戦艦から魔力を吸い取りながら、

濃厚な魔力からある事実を読みとってしまう。


その夜、いつものようにキャンプで休むスティナーとロア。

ロアがスティナーを避けているような気がして少し落ち込むスティナー、

不器用な彼なりに考えて小さな花束を作って彼女に渡し

「俺不器用だから理由はわからないけど、許してくれないか」

照れながらそういう彼にロアはポロポロ泣き出す。


ロアが聞かされていた情報では魔法機の核には人道的な観点から人間以外の生物が使われている。

という事だったが実は全ての魔法機にロアと同じ5才の子供達が乗せられているのだと、

彼女は嗚咽を漏らしながら打ち明けた。


この間取り込んだ魔力にその子達の無数の叫び声が含まれていて、

ロアがいくら拒んでも魔力と共に体に染みこんで離れなくなったのだと。



「異世界の存在なら人間じゃないってのかよ・・・ッ!!」

スティナーはロアと相談して少し遠回りする事にした。

魔法機を作っている工場、そして軍自体を全て破壊するのだ。


工場を破壊するごとに敵も焦りプロトタイプの新型兵器を出してくる、

ほぼフレームだけの骸骨のようなそれを倒しながら

召喚された子供達が捕らわれている場所を目指す。


たどり着いたそこにいたのは子供達だけではなく召喚術師、

しかもその召喚術師はロアと同じ5才の、ロアと同じ地球の人間の少年トムだった。



実は軍も世界もなにもかもが彼の手のひらの上で踊らされていた事が明かされる。


トムは地球上で魔力を発現でき、秘密機関に実験体にされていたサンプル体の一人だった。

非人道的な実験で気が狂い死んでいく仲間と、日々続く恐怖の中で、

なぜ世界に子供は沢山いるのに自分たちだけがこんな目に遭うんだろうと考えていた時、

キリストの像を見て自分たちは、

子供達が平和に暮らす代わりに嫌な物を全て背負わされた身代わりなんだと悟る。


トムが心の底から世界中の子供達に復讐したいと願った時、

彼の魔力に同調した他のサンプル体達の魔力が集まり次元に穴を開けた。

他のサンプル体達はみんな死んだが魔力だけは彼の体に残り、

その怨念が次元を超えてこの世界に来た後も地球から子供達をさらってくるのだ。



ロアの体の中の魔力があふれ出してくる、

それに呼応するようにトムの体からも真っ黒で邪悪な空気を放つ魔力があふれ出してきた。


自分の魔力に親しげに話しかけるトムの姿はどう見ても常軌を逸していた。

「僕らの苦しみに決着をつけよう」

トムはロアを見るとそう呟き、彼専用の魔法機を呼び出す。


彼の魔法機はバウンドリフェアを攻撃しながら

敵味方関係なくそのフィールドの地上の全ての生命を狙ったホーミングビームを放ち続け

殺した生命から魔力を吸い上げどんどん強力になっていく。


ロアからあふれ出した魔力が機体を包み、

それらは強大な敵を倒すための力を蓄えるように

直撃せずに通り過ぎる魔力のレーザーやビームを捕縛して

単細胞生命が他の生命を取り込むように捕食していく。



力の受け皿にされるロアに負荷がどんどんかかり、

力を吸収するたびに悲鳴にも似た声を上げる彼女を気づかうスティナー。


「痛くて苦しいけど、ここで終わらせなきゃいけないの!」

ロアが放つ大魔法がトムの魔法機に直撃する。

半壊したトムの魔法機がいびつな化け物のような姿に変容していく。


地面に向けて核のような魔法を落として周囲を不毛地帯にするトム。

莫大な魔力がその機体に吸収される。

「僕らを殺すための魔力が欲しいのかい?ならァァアアくれてやるよォッ」


360度取り囲むビームと全てを閉ざすような強大なレーザーがバウンドリフェアを襲う。

レーザーをかわしきれず直撃する機体

ホワイトアウトしていく世界の中でロアとスティナーの断末魔の声が響き渡る。



トムの魔法機の他は全てが消え去った。

焼けこげた死の大地に降り立ったトムは

「ざまあみろみんな死んだ!殺してやったぞ!!」

と大笑いした後、無表情になる。


彼にはなにもなかった、側にいてくれる誰かもなにもかも。

呼び出しても魔力は答えない、

泣こうとしても涙も枯れ果てている。


物音に振り返るとそこには銃を構えた獣人兵達の姿があった。

「あはは、ははっ、ははははははは!!!」


それ以降トムの姿を見た者はいない。



時は流れ平和になったその世界のとある学校の中、

ロアに似た少女が空を見上げてぼーっとしている。

彼女は平和で穏やかな日々の中なにかが物足りない気がして、

何か大切な事を忘れてるという気持ちを抱えながら生活していた。


学校からの帰り道、

友達と別れ歩いていく彼女に一人の中年獣人が話しかける。

彼は半身を火傷を負い片足は義足、杖をついた痛々しい姿だったが

その顔は生気に満ちて真っ直ぐに少女の顔を見つめていた。


「約束、守りに来た」

彼のその言葉に少女の目から自然に涙がこぼれ落ちていく。

理由もわからず困惑する彼女を彼は優しく抱きしめる。

少女はなぜか心の底からわき上がってくる幸せを感じながら、

彼の胸に顔を埋め「大好きだよ、スティナー」と囁いた。

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