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海老怪談  作者: 海老
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ファミレスの怪

創作です

 大手ファミレスチェーンに勤める町田氏から昨年伺った話である。


 片田舎の国道沿いに店舗はあった。

 24時間営業を行っている。

 深夜は暇なものだったが、本部は深夜営業を継続する姿勢だった。

 その店に異動になったのは、昨年の秋ごろである。

 どの店もそうなのだが、深夜にはいつもの顔ぶれというものがあった。

 夜勤らしい作業服の男性や、水商売風の男女、サラリーマン、学生、様々にいる。

 顔ぶれの中に、男女混合の五人ほどのグループが加わった。

 年代は20代前半から半ばだろうか。

 最近の若者らしく、特にやんちゃな雰囲気も無ければオタク風でもない。ごく普通の大学生か専門学生といったグループだった。

 タブレットやノートを広げて何かイラストのようなものを描いているため、デザイナーか芸術系のグループだろうと思っていた。

 暇な店だ。

 ドリンクバーで粘ってもらっても構わない。


 町田がその店舗に勤めてしばらくしてのことだ。

 昼間のシフトで妙な噂が出た。

 店舗の一階は駐車場で、そこから階段を上がった二階に入り口があった。

 この階段を、赤い服の女が滑るようにして行ったり来たりしているという。

 バイトの女の子が見たとか、客からクレームが入ったとか、お化けだという噂が広まっていた。

 幸いなことにお客様の間にまでは広まっていないようだが、従業員たちは真剣な顔で囁き合っている。

 町田はどうしたものかな、と考えた。

 ゆくゆくは店長になるという立場のため、こういった噂の始末をつけて点数を稼ぎたかったのである。


 それにしても、出来すぎた話だ。


 宙を滑るようにして、階段の上り下りを繰り返す女。

 真っ赤なワンピースに長い髪。


 テレビの怪奇ドラマみたいな話だ。


 町田は元々からそんな話は信じない性質たちだ。

 見たという直後に徹底的に調べて何もないことをアピールしてみようか、などと考えていた。

 ある日、唐突に見た。

 昼過ぎの客もまばらな時間、階段のところに女はいた。

 宙を滑る。まさしくその通りで、地面から浮いていた。天井から吊り下げられて動く作り物のように、階段の上下を移動している。

 真っ赤なワンピース、長い黒髪。うつむいていて顔は見えない。


 町田自身、どうしてそんなことをしたのか分からない。

 無性に顔が見たくなり、近づこうと入り口のドアに手をかけた時に、女の姿はかき消えた。


 不思議と、怖いという気持ちはなかった。


 こういうそのままの幽霊を見た時、多くの人は忘れる。

 これは非常に不思議なことなのだが、筆者の知る限りそのままのお化けを見たという人の大半が、どれだけ驚いてもその記憶を忘れてしまう。

 恐怖のあまり忘れた、というものではない。ただ忘れる。


 町田は忘れなかった。これは非常に珍しいことだ。

 その後、お化けの姿を記憶の中で思い返すという日々が続いた。

 どこか見覚えのあるお化けだ。

 テレビで見たような造型か、とも思うが「見覚え」が引っかかっている。


 ある日の深夜勤務で、それが何か分かった。

 深夜にやってくる顔ぶれ、若者のグループだ。

 彼らの姿を窺っていたが、いつも通り三時間ほど粘って彼らは帰っていく。

 こいつらが原因だ、と何の根拠も無くそう確信した。


 ありがとうございました。


 彼らの席をかたずけながら、調べた。

 なんでそこにあると思ったのかは、自分でも分からない。だが、子供のやる悪戯の定番場所である。

 テーブルの裏面だ。子供たちがシールを張り付けたり、高校生くらいなら名前を掘ったりすることもある。

 覗き込むと、四つ折りにされた画用紙がテープで張り付けられていた。

 剥がして中を見てみると、女の絵である。


 子供の描いたらしき絵だった。

 赤いワンピースを着た女の子が中央に描かれていて、周囲に男女と犬と花。色鉛筆で彩色されていた。

 子供だとしたら小学校低学年だろうか。

 微笑ましい絵なのに、なんだかいやに荒れた雰囲気を感じる。

 画用紙のところどころが破れており、濡れて乾いた痕や、煤で薄汚れた痕跡があるからかもしれない。


 町田は忘れものとしてその絵を保管した。


 若者のグループはそれ以後店に来ない。

 階段で幽霊の姿を見ることもなかった。


 ある日、店に入ろうとすると和装の女性がドアの前にいた。立派などこかの婦人であろうか、昨今はファミレスにもこんな女性客はいる。

 先に入ってもらおうと待っていると、女性は町田にぺこりと頭を下げた。そして、あのお化けと同じように描き消えた。

 驚いたが、それだけである。

 恐怖はなく、首をかしげながら店に入ると、なぜか落とし物として管理しているあの絵がレジの後ろに飾られていた。

 子供の描いた絵は、ファミリーレストランには不自然なものではないように見えた。

 従業員の誰かが貼ったのだろうか。

 剥がそうとしてやめた。なぜか、そうしてはいけない気がしたからだ。


 それから、店の中で子供を見る。

 また噂になったが、町田は何の行動も起こさない。そういう話を聞いても、気のせいだとして取り合わない。

 食い下がられた時には、「ファミリーレストランだし、悪さしないなら子供の幽霊がいてもいいだろう」と答えている。


 店に何かが居ついてしまったが、触れてもろくなことがないように思えてそのままだ。


 最近、自宅に帰ると子供と女の気配がある。

 会社が借りてくれている部屋は、町田しか住んでいない。それなのに、家族がいるような気配がある。

 コンビニでケーキなど買って置いておくと、翌日には味がおかしくなっている。具体的には、味が無くなったに近いほど薄まってしまうとのことだ。

 店ではなく町田に居ついたようである。


「まあ、別に悪さしないからいいよ」


 町田はそう言って話を締めくくった。

 なぜか、自信満々というか自慢げな雰囲気がある。

 何か隠しているようだが、どうしても聞き出せない。しつこく尋ねている内に、最後には怒らせてしまった。

 いずれにせよ、お化けの親子か、それとも二体のお化けか、ファミレスにいたものは町田に憑いた。


 昨年の段階で話として公開することには許可をもらっている。


 怒らせてしまったためか、LINEは既読スルーだ。

 今も元気でいてくれたらいいなとは思う。

 最後に頂いた連絡は、件のテーブル下に隠された絵の画像だった。


 

 画像を見たことで筆者の元にも来るだろうかと期待したが、特に何も無い。筆者は子供が大嫌いだ。


 絵の画像について、店舗が特定されるとご迷惑をおかけしてしまうおそれもあり、公開は差し控えることにした。


創作です

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