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海老怪談  作者: 海老
38/45

断念

怪談ではありません。

 やめなはれ、と言われた。

 

 筆者はどうしてもお話が書けない時に怪談を書くようにしている。

 不思議なもので、怪談というのは息を吸うくらい自然に筆が滑るものだ。

 理由は分からないが、筆者にとってはそんなものだ。



針で刺されるような頭痛



 怪談ネタはまあまあストックはあるものの、ずっと書くことをためらっている内容がある。

 何度か活動報告などでも紹介しようとしているが、霊能力の開発方法である。

 開発といっても、高い教材などは必要ない。

 ごくごく簡単な内容を半年から一年続けるだけ。それも、墓場から何かを盗むとか無縁さんの墓石を削りとって食うとか、そういう猟奇的なことも必要ない。

 自宅でごく簡単にできる。

基本的には眠る前と空いた時間に行うといった程度だ。



針で刺されるような頭痛。急に左奥歯が痛む。



 筆者も半年ほどやってみたことがある。

 全く効果はなかった。


 

 効果が無いと書いた直後にいうのもなんだが、筆者には才能がなかったものと思われる

 この開発法は自称霊能者数人から聞き取って要点を抜き出して纏めたものだ。

彼らの能力には確かに不思議な結果が伴っていた。

 失せ物捜しにいたっては、実験と称してお願いしたところ本当に言い当てた。

 筆者が騙されているだけだという可能性もあるが、仕込みで行ったものとしては大げさすぎる。

 どこかにしまい込んで忘れてしまったルアーセット、会社で無くしたスペアキー、そういった生活に密着したものだ。

仕込みで騙していたとして、筆者のような金も何も無い人間にやるには手がかかりすぎている。

 ただ、偶然ということもあるため、彼らが本物の霊能力を持つとまでは信じていない。

 それとも何がしかのコールドリーディングのようなものを使ったのかもしれない。真相は闇の中だが、半分くらいは信じていいと思っている。

 彼らを本物だと信じたもう半分の理由は、彼らの多くが自死や行方不明といったよろしくないことになったためだ。


ゆるい頭痛


 彼らの修行方法はそれぞれに違いがあった。

 多くは似ている部分があるもの、皆、それらに使う言葉も違う。

 アストラル界、幽界、正のパワー、霊力、それぞれの世界観が異なっているため色々な言葉で表現される。

 ただ、修行の方法は少しずつ違えど行いの多くは共通していた。

 共通項目の中から意味がりそうなものを抽出し、できるだけ専門的な言葉を排除して『霊能力開発方』を筆者は編纂した。

 編纂といってもA4用紙三枚もあれば書ききれる内容だ。


 この方法を何人かの知人に見てもらった。


 もちろん、それはその世界に通じた人々だ。

 筆者は全く信じていない儀式魔術の先生もいれば、由緒ある宗教組織に属する人物、拝み屋。それぞれ専門家というべき人物である。


 皆さんが言うのは「やめなはれ」である。


 非常に悪い内容であるとのことだ。

 ネット上に拡散されているタルパや人工精霊などよりも格段に危険度が高いという。

 これを行うと、霊能力的なものは身につく可能性が高い。しかし、同時に悪い存在から仲間のように思われ連れていかれるそうだ。

 筆者は霊的なものが現実に影響を与えることに懐疑的だ。

 ただ、厭なものを見たという話はたくさん聞いている。

 そんなものは毎日見たくない。


頭痛



 ネタが無くて困っていたおり、これを使って一本書くか、という気になった。



 結局のところ偶然でしかないと思うのだが、コンビニですれ違った人に「やめや」と小声で言われた。

 振り返ったが、ビールを籠に入れている姿があるだけだった。


 気のせいだと思うが、やめておこうと思う。


 行方不明になった人物がいると前述した。

 最後に会った連絡を覚えている。


「そろそろあっちに行かなあかんって緑色のヤツに言われてん。ちょっと行ってくるわ。また今度」


 自らの裸の自撮り画像と共にそんなメールが来た。


 その後の行方はようとして知れない。

 女性のヌード写真であったが、もう削除している。

 見た瞬間に、目が潰れる気がしたからだ。



 表に出すことは無い。

 そう決めた。

 とりたてて恐怖とは無縁の話ではあるが、記録として遺す。



怪談ではありませんが、ある程度実話です。

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