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海老怪談  作者: 海老
34/45

くだん

創作です。


くだん


 実話怪談が好きな人にはもはや常識といっていいレベルの妖怪である。

 簡単に説明すると、人の頭のついた牛である。逆パターンもあるが、それが「くだん」なのかは不明だ。

 実話怪談の世界では、頭部が牛で身体が人というねものもくだんとして一纏めにされている。

 小松左京先生の「くだんのはは」という怪奇小説に登場し、新耳袋でも大きく取り上げられて一躍スターダムにのし上がった妖怪なのだが、それにまつわる話は実に厭なものである。

 「くだんのはは」も「新耳袋」も面白いので、未読の方には是非ご一読頂きたい。

 さて、このくだんには一つの能力がある。

 戦争や災害を予言する。予言のスケールが大きく、不吉なそれは予言なだけに必ず当たる。


 D氏という初老の男性から聞いた話である。


 くだんの世話を、かつてしていたという。

 バブル崩壊で何もかも失った折に、知人から紹介されたのがくだんの世話をする仕事だった。

 くだんを閉じ込めている場所の手入れをするというのが仕事だ。それも、一つではなく複数だ。近畿地方でも四か所を任されていたそうである。

 詳細な場所までは聞けなかったが、どのようなものかは詳しく教えてくれた。


 峠道や片田舎の国道を走っていると見かけるプレハブ小屋や、ベンチだけしかないような公園にある用途不明の平屋の建物、古い雑居ビルの一室、そういう所に「くだんの檻」がある。


 D氏の仕事は、餌やりと清掃が主である。


 牛に人の頭のついたものが「くだん」だと前述した。

D氏の世話したくだんは、毛の抜け落ちた痩せ犬の身体に、人っぽい頭のついたもの。である。

 人の頭というには、どうにも輪郭が歪で変な生き物だとは思うが妖怪には見えなかった。東南アジアから密輸された希少な動物だと言われても信じただろうとのことだ。

 このくだんは人の言葉などは喋らない。

 ゆったりとした動きの犬のようなものだ。

 餌はドッグフードや野菜を食べさせる。

 糞の匂いがきつく辟易した。


 四か所の「くだん」の内、二つが動物タイプであった。

 残り二つは人の身体に牛の頭のついた人間タイプである。



 D氏いわく、借金がなかったら絶対やらない仕事、とのことだ。


 くだんは例外なく雌であると、D氏は言う。

 少なくとも、四か所の全てが雌だった。


 D氏は五年ほど「くだんの世話」をした。

 動物タイプは見た目が不気味なだけで、それほど大変なものではなかった。

 問題は人間タイプである。

 体の大きさは小学生くらいで、頭は牛。

 くだんは大人しくしているか、部屋の中を歩き回っているかのいずれかの行動を取る。頭と体のバランスが悪いためか、歩き回って壁に身体をぶつけて擦り傷が絶えない。そして、排泄物は垂れ流しだ。

 部屋を掃除してから、服を脱がせてシャワーで清めてやる。

 生傷には市販の軟膏を塗ってから包帯を巻いてやるだけでいい。飼い主というべきか、雇用主にはそれだけでいいと言われていた。

 食事はごく普通のものでいいが、牛の口に入れるのはなかなか大変だった。

 厭な仕事だが、バブルと共に何もかも失いまともな職にもつけない事情のあったD氏は、辞めることもできずにずるずるとくだんの世話を続けたという。

 年に数回、本気で辞めようと思うことがあった。

 さかりがつく。

 動物タイプは犬と同じで足にしがみついてくるくらいだ。

 人間タイプも、同じことをする。

 小学生くらいだった「くだん」は、五年で女らしく育った。



D氏は借金を返済してくだんの世話を辞めた。



 この話はこれで終わりなのだが、D氏はさかりのついた「くだん」と性行していると思われる。

 バブル期の話を伺うに、借金は五年で返済できるような金額ではない。

 複数の「くだん」の血統は元々一つなのだろう。きっと、誰かが増やしたのだ。

 D氏は種牛として使われたのだろう。

 この部分は筆者の想像でしかないのだが、そういうことではないかな、と思うのだ。


 D氏からこのお話を伺ったのは、ミナミのタコ焼きが名物の居酒屋である。

 昼日中から大量に呑ませた。

 誰も隣の客の話などに気をかけていない。

 かなり酔わせて語ってもらったのだが、最後には酔いつぶれてしまった。

 どうしようかな、と考えていたところ、スーツ姿の紳士が声をかけてきた。

「Dの親類のAという者です。今日は夕方から用があったので迎えに来ました」

「あ、すいません。どうにも、酔い潰れてしもたみたいで」

「いいんですよ。××さん(筆者の本名)ですよね。いつもお世話になってます」

 それからタクシーを待つ間に少しだけ世間話をした。

 季節がどうとか、急に寒くなったとか。

 タクシーにD氏を運び込んだ紳士は、最後に会釈した。

 筆者も会釈を返す。



 D氏に本名は教えていただろうか。いつも酒を飲んでいるので、細かなところがはっきりしない。

 それに、ホームレスのような生活をしているD氏に、あんな立派な紳士の親類がいるというのも奇妙だ。

 あれはMIBだろうか。

 「くだん」とUFO系の怪異はリンクしているという説もある。

 それとも、「くだん」を増やしている者の係累か、それとも、何か妖怪のようなものか。

 陰謀論じみた、馬鹿げた妄想でしかない。



 その後、D氏とは会っていない。



創作です。

ヤバかったら消します。削除しないという意志は全くないので、問題ある場合にはすぐに削除します。

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