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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『ザクロアの死霊王』

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第一話    『王無き土地にて』    その一

第一話    『王無き土地にて』




 ―――自由なる騎士たちに守られた、北の雪舞う土地よ。


 そこにあるのは、血の序列が築いた支配などではない。


 我らの生き様は、我らが選ぶ。


 我らの名は、ザクロア……王無き偉大なる、ザクロアだ。




 昼食を済ませたオレたちは、ザクロアへの旅支度に取りかかる。


支度といっても、『パンジャール猟兵団』は旅慣れた傭兵団だ。メンバーを選抜すれば、それからの行動は速かったのさ。


 そう。選抜だ。


 全員で移動するわけじゃない。


 なにせ、ファリス帝国の邪悪な毒蛇……アサシン/暗殺騎士どもが、ルード王国へ侵入するのを防がなくてはならない。


 そういう特殊な戦士を退治するには、オレたちみたいな凄腕の傭兵……『猟兵』が一番だからな。コマンドにはコマンドってことさ。


 つまり、オレは団員の多くをルードに残しておかなくてはならなかった。我が団の猟兵たちが国境警備隊や女王陛下の宮殿を守護するのさ。悪くない考えだろ?


 で。選抜メンバーなんだが……もちろん、オレ。そして、エルフの弓姫リエル。我が妹であるミア・マルー・ストラウス。そして、クラリス陛下より、オレの二代目副官に選ばれたロロカ・シャーネルだ。


 ……え?女ばかりだって?


 ああ。違うよ?……別に、ザクロア地方が『温泉』の多い場所だから、女ばかり選んだわけじゃないんだぞ?ほんとだって?おいおい、オレをどんなスケベ野郎にしたいんだよ……。


 ギンドウのヤツも連れて行くつもりだったんだぜ。


 だが、ヤツは思いのほか頭部の出血が酷くてな。湯にでもつけたら、出血が激しくなるかもしれん。急性期のケガにはRICEの処置で対応だろ?


 安静、アイシング、圧迫、挙上……戦士ならば常識だな。


 つまり、しばらくは安静にしておくってことになったのさ。長距離移動に温泉につける?第一項、第二項に反しているな。うむ。ギンドウを静養させるのは、悪くない。


 そうだ。悪くないどころか、理想的と言えるだろう。


 なぜなら?ヤツには、この新アジトで、あの『チェイン・シューター』なるギミックの性能向上に取りかかってもらいたいからだ。


 ミアの戦力アップのためでもあるし……もちろん、いつかオレの体重でも問題なく運べる性能にまで、あの装置を仕上げて欲しいからでもある。


 ……オレだって、アレ、やってみたい。


 ゼファーに向かって、シュルシュルって飛んでみたいじゃないか?


 そもそも、竜にまつわるアクションで、竜騎士が遅れを取るわけにはいかないぞ。竜騎士の誇りにかけて、オレも『チェイン・シューター』を使えるようになりたいんだわ。


 そのためには、オレが『50キロ近く体重を削る』か―――ギンドウが『あのギミックの性能を向上させる』かの二択だよ。


 つまり、そこに選択の余地などない。


 過度なダイエットで戦士としてダメになるわけにはいかないからな。


 ギンドウには全身全霊をかけて、『チェイン。シューター』の性能向上につとめてもらいたいのだ。この休養は、頭部の裂傷の治癒に使うだけでなく、新アイテム開発のためにも使って欲しいものだぞ、『発明家』よ?


 さて。オレの名誉のために、ここでもう一度だけ宣言しておかなくてはなるまい。


 下心があるわけじゃないぞ?……オレ以外のメンバーが、女子オンリーってのは?


 これは、ある意味では当然の選択なんだよ。


 まず、ロロカについてはクラリス陛下が直接、オレの副官に任命したからな。外せるわけがないだろ?で、リエルとミアだが。コイツらの選考理由は、『ご褒美』だよ。先の戦では、かなり働いてもらったからな。温泉にでもつけて、労ってやりたいのさ。


 シャーロンとガンダラがいたら、もちろん連れて行ったぞ?あいつらも働いてくれたからな。


 ガンダラは巨人奴隷たちに混じって重労働するハメになってたし、シャーロンは影のMVPってカンジの活躍だった。


 あいつが作った『変装用マスク』のおかげで、オレはルノー将軍に化けることが出来たわけだしな。あの変装がなければ?……ルード王国は、とっくに滅ぼされていたかもしれない。


 今ではすっかりと女装にハマった変態野郎だが、ヤツは救国の英雄じゃあるんだよ。


 ふたりも、ザクロアの温泉につけてやりたかったが、ガンダラは士官学校に出張。シャーロンは『ラミア』に化けたまま、クラリス陛下の護衛だ。


 残念だが、彼らと同じ温泉につかってのんびりと羽根を伸ばす……ってのは、おあずけだな。


 ―――それに。ちょっと、ガチのハナシをするとね?


 リエルとミアが同行するのは、彼女たちが『暗殺』の上手な部下だからさ。


 オレがクラリス陛下の親書を運ぶ相手、反帝国の武闘派組織『西ザクロア鉄血同盟』のヴァシリ・ノーヴァ代表。彼はどうもストラウスの性格に合いそうな、血の気の多いオッサンらしい。


 まあ、『反帝国』を掲げているんだ、ルード王国と連携を取りたいのは向こうも同じだろう。


 問題は、そっちじゃないほうさ。


 『東ザクロア商業同盟』の代表、ジュリアン・ライチ氏だ。


 彼はルード王国との同盟を断る可能性が今のところ高い。『親帝国』……ってほどではないのだろうが、世界最強の大国に、反抗することはリスクが大きすぎると考えておられるようだ。


 それは合理的な判断かもしれない。ザクロアの軍事力は大したことはないだろう。自警主義的な騎士団と、せいぜい銭で雇われた傭兵の混成部隊。そんなもので、最強の侵略国家、ファリス帝国と戦う?……リスクは高すぎるな。


 強者に尻尾を振って媚びるのは、必ずしも間違いとは思わない。それで傷つかない程度のプライドしか持たないのなら、その処世術で人生を全うすればいいだろう。


 だが。クラリス陛下もおっしゃっていたとおり、オレたち『パンジャール猟兵団』とルード王国は、ファリス帝国との『戦い』を選んだ。


 ザクロアとの同盟は必ず作りあげたい。


 オレが皇帝ユアンダートの首を刎ねて、竜の聖地に眠るアーレスに捧げるためにもな。ザクロアには、ルード王国と同じ道を選んでもらう必要があるんだよ。もしも、ジュリアン・ライチ氏が、あまりにも強硬に同盟の結成を邪魔しようとしたなら?


 ……当然だが、消えてもらわなくてはな。


 そう。この旅は、女子たちへの慰安と、ライチおじさんの暗殺が目的の旅だ。暗殺上手なオレの恋人と妹を連れて行くってのは、戦略的にも当然ってこと。


 できれば、オレみたいな危険人物がニコニコしながらやって来た『その意味』を悟ってもらい、ジュリアン・ライチ氏には、賢明な判断をしていただきたいものだよ。オレだって、ムダな血は流したくないんだ。


 ニコニコ笑顔になって、みんなで握手して抱き合って、フレンドリーな状態でさ?気まずさゼロのままで、世界最大の帝国との戦に臨みたいものじゃないかね?


 そっちの方が、間違いなく勝率がいい。


 軍事力とは、集団の『強さ』とは、『結束』のことだ。血塗られた同盟?……そんなものに真の力は宿らない。我々のような少数がファリス帝国に勝るためには、後ろめたさのない正義に裏打ちされた同盟であった方がいいのだ。


 へへへ。


 ……ほんと、難しい任務だぞ、これは。


 ギリギリまでライチ氏への説得が必要だし、それでも説得が出来ない場合は?……妥協してでも、結束を作らなければならないだろう。ジュリアン・ライチ氏を排除することでな。


 だが、それは、やはり―――最強の力からは、一歩遠ざかるな。


 手腕の見せどころ?……蛮勇で鳴らしたストラウスさん家の四男坊には、ちょっと難しすぎる試練な気がしますぜ、クラリス陛下。


 それでも、残念なことに世界は動き始めてしまっている。最強の力ではなくなったとしても、力をかき集めなくてはならないのさ。


 そうでなければ?……オレたちもルード王国も滅ぼされてしまうからな。


 ああ。アーレスよ、ライチ氏の『夢』に出て、脅してくれないか?


 ……剣豪なんかと暴力で語らうのなら得意だがね、知的な商人さまの首領をトークでまるめこむってのは、オレには荷が重すぎる気がするんだよ。やるだけやる。ダメなら、殺す。そして、妥協した力でも、手に入れるのさ。


 まったく。こんなストレス満載のお仕事なんだから、可愛い女子たちに囲まれた疑似ハーレムでも無ければ、気が滅入って仕方がないところだよ。




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