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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『ザクロアの死霊王』

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序章    『新たな任務』    その三


「……びっくりしました。まさか、『あんなこと』を依頼されるなんて」


 伏せ字にしてくれて助かるね。『暗殺』。あまり聞こえのいい言葉じゃない。誤解を招くのは避けるべきだよね。ロロカ先生は、優秀な大人女子だこと。


「陛下も言っていただろ?……平和裏にすめば、それでいいってな」


「そ、それはそうですが……そうなるものですかね?」


 大人女子ロロカさんは、夢見がちな思考はしない。親ファリス帝国派のライチ氏が、オレたちの組もうとしている同盟に参加する可能性なんて、皆無だと分析してる。


 非常にシビアで現実的な考えだ。だから、彼女は信用できる。


「オレにも、そうなる方に導く自信はない。そうだとしても、全力を尽くすだけさ」


「……はあ。ソルジェ団長は、お強いですねえ」


「ストラウスさん家に産まれると、だいたいこんなカンジに育つんだよ」


 お袋の言葉を思い出す。『戦場で死んで、歌になりなさい』……へへへ。マイ・マザーよ、ムチャクチャ尖った教育方針してやがるぜ。


 オレもリエルにガキ産ませたら、そんな方に育てよう。ストラウスらしい男の子がいいよね?


「……ああ、一応、他の連中には『暗殺』については言うなよ」


「え?ああ、そうですよね、あくまでそれは最終手段ですし」


「そう。もしも、ミアに知られたら?……翌日にでも、ライチさんの頭部がオレのベッドの横に置かれていそうだからな」


 オレたちにはゼファーがいるからな。飛竜だ。


 夜中にミアをその背に乗せて、高速でザクロア地方に忍び込む。


 そして、ミアがライチさんを暗殺し、誰にも気付かれることなくその頭を持って帰る?


 我が妹、ミア・マルー・ストラウスと、我が翼ゼファーの前では、それは別に不可能なコトじゃない。ミアはヤンデレだからな。


 オレを喜ばせようとして、ライチさんだけじゃなく、下手すりゃ、ノーヴァさんの首まで持って帰ってくるかもしれん。猟兵は、そんなことだってやれるんだ。ゼファーがいればな。


「よそさまんトコの元首の頭部なんて。オレ、もう集めたくねえ……」


 バルモア連邦の首魁どもの首は集めて、セシルとお袋の墓に供えてきたけど。とりあえず、あの趣味はもうお終いだ―――皇帝ユアンダートの首は、別だけどね。


「で、ですよね。そんなの、こ、国際問題ですっ」


「……そう。まとまる交渉もまとまらなくなるかもしれない」


「わ、わかりました。お口にチャックしておきますね」


 ロロカ先生はその綺麗な指で、お口にチャックしてます。


 ほんと、この子が、角を触られそうになっただけで、何人もぶっ殺してしまう恐怖の田舎者だったとは、誰も思えないだろうなぁ。


 まあ、『成長』したのはいいことだよ。


 オレたちは城下町の外れにある、大きな屋敷に戻ってきた。


 そうさ。それがミアとの約束が、『形』となったものである。


 ―――みんなと暮らせる『家』が欲しい!


 その願いをお兄ちゃんが叶えたのさ。


 つまり、この屋敷こそオレたち『パンジャール猟兵団』のルード王国でのアジト/拠点であり、もっと可愛らしく言うのなら、『素敵な我が家/マイ・スイート・ホーム』さ!!


『……あー、『どーじぇ』ぇえええええ!!おかえりいい!!』


 遙かな空の高みから、竜の言葉が降ってくる。青く澄み切った春の空を、その黒い翼は切り裂くように飛んでいた。


 こないだの戦で翼に負った傷は、完璧に治癒したようだ。さすがだな、オレのゼファーよ!!


「おおおおお!!帰ったぞおおおおおおおおおおおッッ!!」


「おっかえりいいいいいいいいいいいいいいいいいッッ!!」


「ひゃああああああああああッッ!?み、ミアちゃあああああんッッ!?」


 ロロカが絶叫する。それは、そうだろうな。13才の女の子が、数十メートルの高さを飛んでいるゼファーの背から飛び降りてきたんだもん。ロロカは大パニックだ。


 でも、ここで経験の差が出るのさ。


 オレはミアの動きを観察する。空のなかで、ミアは踊る。


 魔術で風を呼び、その軽くて華奢な体に風をまとわせていく。


 落下速度が減速する。このまま、大地に着地してもダメージひとつ追わないだろう。すさまじい技術だからね。


 でも?


 お兄ちゃんとしては、空から飛び降りてくる妹を、受け止めてやる義務がある!!


「よっしゃ、こおおおおおおおいいいッッ!!」


 どがああああああんんんっ!!


 盛大な音と衝撃を浴びながら、オレの両腕は、ミアのことをキャッチしていた。ミアは、当然ノーダメージ。オレは?


 かなり、脚が痛い。でも、お兄ちゃんだから、ガマンしてるんだよ。


「あははははははは!!楽しかった!!」


「そーか。そりゃ、良かった。いい魔術だったぞ?」


「でしょー?」


「あれなら、何百メートルの高さから落ちてもケガひとつしやしないな」


「うん!!でも、キャッチしてくれて、ありがとー!!」


 ミアがオレのほほにキスしてくれる。いいねえ、ストラウスさん家の兄妹仲、アットホームで素敵だわ。そう。この黒髪の小さな美少女がオレの『妹』、ミア・マルー・ストラウス。


 見て分かる通り、『ケットシー』だ。その黒髪のあいだから、大きな『猫耳』が生えてるもんね?


 ケットシーは亜人のなかでも、いわゆる妖精族の一種に分類される。


 彼女の常識離れした『軽業』も、妖精ならではの体重の軽さと、風に愛された種族だからこその奥義だ。


 猟兵としての兵種は、『暗殺者』。無音で走れるし、小柄で異常に素早い。


 そして、ナイフやダガー、スリングショットに『毒爪』と、多彩なスキルを持ってる。オレの自慢の妹だ。


 ああ、血はつながっちゃいない。でも、オレと一緒に生きると誓ってくれたんで、彼女のことを『妹』として迎え入れたのさ。


 こうして、かつてセシルという妹を守れなかったオレにも、また守るべき『妹』が出来たんだ。


 ミアはセシルの代わりじゃないが。愛すべき妹であるということは一緒だよ。


「さて!!お兄ちゃん成分、補給完了!!」


「ん?」


 オレの腕のなかで、ミアはギミック満載の『手甲』を空へと向けた。次の瞬間、パシュンという音が響いて、『手甲』からは『楔』みたいなモノと、それと繋がる細い魔銀の鎖が撃ち出されていた。


「なんだ、それ?」


「新兵器!!見てて?ゼファー!!回収!!」


『りょーかいっ』


 空のなかにいる巨大な竜が、羽ばたき、空中で体勢をコントロールする。そして、その大きな口で、空中に発射されていた『楔』みたいなモノをキャッチする。


「おお、見事」


「これからが、本番!!巻き上げるうう!!」


「え?」


 しゅるるるるるるるるるうるうううう!!


 ミアが『手甲』に風の魔力を注ぎ込むと、何かが激しく回転するような音が聞こえるのと同時に、ミアの軽い肉体がオレの腕の中から空へと昇っていく。


「な、なんだ……それ?」


 唖然とするオレを尻目に、ミアはすっかりと上空に移動していた。


 そして、空中で身を回転させていた。ゼファーは首を下げて、その背にミアを乗せちまう。


「あはははは!!実験、成功!!」


『こんどは、からまなかったね!!』


「……なんだよ、あれ。オレの知らない、コンビネーションだ」


 竜騎士ストラウス一族、五百年の歴史にも、あんなアイテム無かった!!


 いや、理屈は分かるぞ?ミアの手甲から発射された『何か』は、風の魔力を用いることで『巻き取れる』。その動力を用いて、ミアは上空へと舞いあがった―――。


 でも、そんな技術、オレは知らない。歴代の竜騎士も使ったことがない技術だ。


「クソ、嫉妬するッ!!オレのも、作れ、『ギンドウ』ッ!!」


 この何とも言えないモヤモヤした気持ち……おそらく、劣等感だな。その劣等感に苛まれたオレは、そのギミックの制作者に違いない男に、八つ当たりするように叫んでいた。


「えええ?……そんなの、ムリですよ?ミアの軽い体重だから、出来たんですって?」


 『ギンドウ・アーヴィング』は双眼鏡で上空を観察しながら、オレのオーダーに色の無い返事をしてきた。ぬう。そうだろうな、オレとミアでは体重が倍以上違う。しかし。


「……一週間の断食ぐらいなら、出来るぞ?」


「……ミアの体重まで落としたら、戦士としての価値がなくなりますからやめとくべきっすねえ」


 ギンドウは技術屋らしく、冗談交じりの言葉にさえ、理論をつけて返してくる。オレだって、本当に断食などするつもりはない。自分の鍛えあげた肉体には、誇りを持っているしな。しかし……。




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