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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その九百二十八


―――ソルジェを理解できる者は、生粋の戦士だけだろう。

それは非合理的なまでの哲学だよ、自分を殺す可能性のある敵を喜ぶなんて?

ちょっとどころじゃなく、かなりおかしいかもしれない。

あるいは、とてつもなくおかしいというレベルかもね……。




―――それでも心の底から、飢えているんだよ。

生粋の戦士にとって、戦場での死さえ表現の一種だった。

芸術家みたいなものさ、何かを表現して示しながら生きて死にたい。

その対象が絵画でも演劇でもなく彫像でもなくて、ただの戦闘ってだけ……。




―――おかしいかもしれないが、しょうがないだろう。

戦争はやっぱりどこかおかしくて、狂っていると言われると反論しにくいから。

それでも、この過酷な表現環境のなかでさえ職業倫理が機能している。

邪悪と堕落を避けるために、強烈な倫理観でボクらは猟兵をやっていられるんだ……。




―――ガルフの出身一族かもしれない、『傭兵コルテス』に対して。

ソルジェの心は踊りに踊っている、詐欺師の少年が嘘だと今言えば。

ビックリするほどの怒りを込めて、ぶん殴るかもしれない。

幸か不幸か、我らの敵が『傭兵コルテス』なのは真実だった……。




「お兄ちゃんが、ワクワクで胸が張り裂けそうになっているね!」

「が、ガルフさんの一族なら、戦い甲斐がありそうです」

「イエス。しかし、それは仮定であります。ガルフとは無関係のコルテスかもしれない」

「そりゃ、分かっている。オレだって苗字が同じだけで、何でもかんでも親族認定するのは無理があるってことはな。だが、思っていた。期待していた。いつか、ガルフの影と戦える日がまた来るんじゃないかと。『ガレオーン猟兵団』みたいな、つまらんものじゃなく。もっとタフな哲学を持った傭兵たちと」




「ノヴァーク、猟兵団の方々は興奮しているから、冷静な言葉がつかえないかもしれない。私はガルフ・コルテス氏を知らない。客観的に、君の情報を聞いてやれる」

「メイウェイか。通訳してくれるって?この赤毛のお兄さんと」

「そういうことだ。私は『傭兵コルテス』の戦力を把握しておきたい。理由は語るまでもないだろう」

「……シドニア・ジャンパー少尉の、護衛だぜ。詳細を語るべきか?」




「少なくとも『今』は、直接の護衛についていないんだろう。だから、話そうとしている」

「ノーコメント。少尉のボディーガード情報は、誰も知らないようになっているんだ」

「それ自体が最良の護身術だね。マイク・クーガー少佐も著作のなかで語っておられた。自分の警備情報を流すなかれ」

「彼の腹心だった弟が、誰かに暗殺されたもんな。軍の拠点のど真ん中で。出世すると、怖いね。嫉妬から、殺されてしまうことがある」




「『傭兵コルテス』の全体は、シドニア・ジャンパーについていない。一部ぐらいはついている。超少数の精鋭が」

「ワクワクするな。ガルフの一族の精鋭か」

「果たして、そもそも『傭兵コルテス』はどんな集団かな?話してくれてもいいだろ。名のある傭兵団ならば、君に聞く必要もない。君は私たちに情報を提供する権利を、ただ失うことになるが。そんな損な真似はしないだろう」

「……『傭兵コルテス』は、二大巨頭が仕切ってるんだ」




「いいね。二大巨頭!!」

「ストラウス卿、興奮を抑えてくれたまえ」

「ああ、悪かった。こういう熱量、ちょっとウザいときあるよな。分かっちゃいるが、止まらねえんだ」

「……二大巨頭とやらの、内訳を話すであります」




「『傭兵コルテス』は過激派の兄貴と、もっと過激派の妹が仕切っている」

「最高だな。ああ、すまん。話を続けてくれ」

「過激派兄妹が過激派の理由は、厄介な政治信条を抱いているからだ」

「政治信条、傭兵らしくないね」

「どちらも『西』の諸都市国家に、革命をさせたがっていた」




「革命、でありますか?つまり、政府の転覆」

「そう。あくまでドライな傭兵集団だったコルテスどもだが、この二人はとにかく異常なんだ。何を考えているのか、正直、分からないところもある。動機なんて、とくに不明だ。だが、やりたがっていそうなことが、革命なんだ」

「具体的に、伝えてくれるかな?それを指し示すに足る行為を、その二大巨頭たちは成し遂げてしまったのだろう?」

「帝国軍が侵略している際に、諸都市国家の政府が瓦解していった。そのとき、あいつらは訴えていた。『抑圧された市民たちが一斉に蜂起し、自分たちをこれまで支配していた金持ちや商人、事実上の貴族めいた存在……社会も上澄みにいる連中を、皆殺しにしろと』




「まさに、革命ではある。しかし、おぞましいほどの血のニオイが伴う。政府だけじゃなく、富裕層の全員、社会構造そのものを破壊しようと考えた」

「その通り。過激すぎて、さすがにね。ほとんどの連中の耳に、こんな声は届かない。届いちゃ、いけないしな。殺りくが始まりかねない」

「君の属している地位も、標的になる」

「ハーフ・エルフはいちばん下だ。だが、そうだな。実家は、そうじゃない。コルテスの革命家気取りの二人が、人々を扇動できていたら……両親は、八つ裂き。オレも追いかけられる存在になっていた。そのあとで……焼け野原みたいになる。商人のネットワークや、資本家が消え去る?何も残らない」




「どうして、そんな真似をふたりは望んだのだね?」

「知らん。危険な思想だ。『貧乏人に金持ちを根絶やしにしろ』なんて言えば、そしてまさかそれが実行されれば、どんな社会だった崩壊しちまう」

「でも、それは。再分配の効果はありそうだね」

「ええ。金持ちが搾取しかしないなら、庶民は苦しむばかりだわ」




「こういうインテリちゃんたちの一部には、ウケがいいんだよ」

「褒める言葉でも、けなせるなんてね」

「さすがは詐欺師。信用すべき価値観がなくて、善悪もあべこべになる」

「ほめてもないし、けなしてもない。ただの事実。コルテスの過激な思想は、常人じゃなくてインテリに響いたのは事実だ」




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