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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その九百二十七


―――現実はいつでも非対称的でね、常に序列の力学が状況ってものを支配する。

ソルジェと戦って生き残る、二度目の戦いを期待できる。

そんなことはね、まったくもってあり得ない。

シアンやガンダラなら別だけれど、その二人レベルじゃないと無理なことさ……。




―――ノヴァークは自分のちっぽけさを、思い知らされている。

心臓は小物らしくドキドキかつバクバクと揺れて、口から吐き出してしまいそうだ。

ソルジェはいつでもノヴァークを殺せる、殺していないのは情報が欲しいからさ。

あるいは、ちょっとだけ気に入ってもらえているからかもしれないね……。




―――『狭間』であり、弱っちい能力しかない少年だ。

それなのに、史上最大の詐欺の片棒を担いで見せたのだから。

帝国軍に与えた損害だけを考えれば、トップクラスの人材かもしれない。

その点と愛情のために暴走できる性格ってことだけは、気に入っているのさ……。




「お前には、倫理観ってものがないんだ。普通は、良くも悪くもそいつに縛られる。縛られなくちゃ、偉大な者にもなれないし、世の中に迷惑をかける悪者になるからだ。お前は、そうなることを恐れない」

「……最初っから、いちばん下に生まれてみろよ、貴族の赤毛野郎。最初からだ。オレに、まともな人生なんて用意されちゃいなかった。ずるいだろ?何も悪くねえ。親父のせいでもない、母さんのせいでもない。ただ、理不尽だ。ハーフ・エルフだからって、本当の自分を隠しながら生きなくちゃならない」

「ライザ・ソナーズなら、それを変えてくれると?」

「変えてくれなくてもいい。そもそも、オレは……」




「シドニア・ジャンパーのために、だな。いいぜ。そういう点は、身勝手じゃあるが。社会から切り離されている者の強みでもあるだろう。お前は落伍することを、恐怖しない」

「いちばん下だからね。アンタは、堕ちるのが怖いんだろ。悪党に」

「悪人呼ばわりされるのは嫌いじゃないんだがな。敵からの悪評限定で、喜んでやれる。お前たちは裏切り者だ。オレは、そうなるぐらいならば自ら死ぬ」

「縛られてやんの。悪党にさえ、なれないか」




「職業倫理を持てない者が、大人物になれた気がしない。オレはな、死後もかがやくほどの英雄譚が欲しいのさ」

「貴族さまは、ちょっと違ってるね」

「そうだ。だから、提供してくれ。応えてやれるぞ」

「……コルテスのなかで、アンタがワクワクしそうなヤツは分かってる」




「それを、教えろ。嘘はつくなよ。癖は見抜いているんだ」

「その対処ぐらい、やれるさ。だが、まあ。嘘をつく気はないよ。人間族のコルテスのなかで、いちばん血生臭いのは、『傭兵コルテス』」

「……おお。おお、おお!!まさに、そいつだな!!」

「アンタ、もしかして、苗字が同じだからって理由だけで、興奮しているのか?」




「ガルフはどこの生まれか教えてくれなかったんだよ。大陸のあちこち旅して回っていたのは分かるんだがね。変なところに、知り合いもいる」

「団長。そのガキは、詐欺師ということを忘れないようにするであります」

「そうだよ、お兄ちゃん。ガルフおじいちゃんと関係な人たちかもしれないし」

「おう。分かっているよ。でも、なあ」




「うん!!めちゃめちゃワクワクしちゃうよね!!ガルフおじいちゃんの一族が、いるかもしれないんだもの!!」

「だよなあ、ガルフの一族!!ワクワクする!!」

「ソルジェ兄さんのお師匠さんの、一族か」

「すごく強そうというか、傭兵稼業というのが、また」




「詐欺師のノヴァーク。教えてくれよ。『傭兵コルテス』はどんな集団なのだ?」

「金のためなら、何でもする。端的に表現すべき連中だよ」

「じつにいいね。傭兵としての気風にあふれている。猟兵の伝統の源流かもしれん。ガルフも、若い頃は拝金主義者で残酷な、至極傭兵的な存在だったと語っていた」

「猟兵は、傭兵じゃないって?」




「戦場の霊長だ。すべての戦士の頂点。ガルフ・コルテスは戦場狂いの果てに、そんな力を創り出そうとした。それが、最終的に夢だったのさ」

「その力で、何をするつもりだったんだよ」

「ないさ。ガルフのゴールは、最強の猟兵団を完成させること。失敗作をいくつか作り、オレたちで完成した。その夢が何を成し遂げるかまでは、ガルフは責任を背負うつもりさえなかったんだ」

「無責任なヤツだな、そいつ」




「自由なのさ。お前にも分かるだろう。ガルフはいちばん大切なこと以外は、割りとどうでもいい男だった。ピンとくるだろ」

「そいつは、狭間か何かか?」

「人間族のジジイさ。まあ、『血狩り』で判別したわけじゃないが、魔力も大して多くはなかった。戦い方の巧みさと、経験値で何もかも凌駕するタイプの傭兵だ。オレたち猟兵の祖である」

「その一族が、傭兵コルテス?」




「かもしれん。ワクワクするな。そして、運命も感じている」

「……ああ、勘がいいな」

「傭兵コルテスは、シドニア・ジャンパーに雇われているんだな」

「……正解だよ、アンタは師匠の一族を敵に―――」




「―――その点についての葛藤は、ない。というか、ワクワクしているんだ」

「それ、正常なヤツの考え方?」

「戦士なだけだ。戦士が正常かどうかなど、たいして意味のテーマだろう」

「そういう野蛮なところ、あまり好きになれねえや」




「好かれようと思っているわけではない。職業倫理を背負い、正しく在りたいだけだ。戦士ならば、強敵の存在にどうすればいいと思う?心の底から喜ぶだけだ」




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