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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その九百二十五

「……何を、話せと言うんだ」

「最も話して欲しいものは、シドニア・ジャンパーの行方だ。今、彼女はどこにいる?」

「言うと、思うか?」

「いいや。守るだろうと、思っている」




「そうだよ。オレはな、ノヴァークだ。ガキの頃からの名前を捨てて、名づけてくれた少尉のために、生きると誓っている」

「ククク!そういう意志の強さは、知っている」

「呪術で、のぞき見したってか。クソ」

「無礼だったのは、分かっているとも。しかし、それをすべき脅威ではある。お前は、理解しているのか?祭祀呪術が、どれほどに危険なものなのか」




「……見たさ。モローでな。とてつもない力だ。だが、制御不能ってわけじゃない」

「それはお前が信じたがっているだけだぞ。祭祀呪術に関わった者たちは、どいつもこいつも不完全だった。欠けた何かを作り出したところで、ヒトは満足することもない。その何かが、大切であればあるほどに」

「それでも、ゼロよりはマシだとは思わないのか?」

「いい意見だ。たしかに、その視点も大切ではある。だが、ライザ・ソナーズを神にして蘇生したところで、どうすると言うのだ?その蘇生した、彼女に似ているが、彼女ではない存在に、忠義を尽くすと?」




「姫様は、優秀な女性だった。殺されるまでは。アンタに」

「オレじゃないのは、知っているだろう。レヴェータがやった。嘘をつく必要はない」

「つくさ。政治ってのは、嘘も必要だろ。建前が真実よりも、重要なものなんだ」

「病的な発想に思えるが、完全否定は難しいな。だが、お前はどうだ?」




「オレが、どうだって言うんだ?」

「復活したライザ・ソナーズに、忠誠心を抱けるのか?」

「オレをのぞき見していたのに、分かっちゃいないね。オレは、別に、ライザ・ソナーズ姫様に仕えているわけじゃない。姫様に仕えている、シドニア・ジャンパーに仕えている。少尉が、どんなものに忠義を尽くそうとも、オレのすべきことは変わらない」

「変わって来るぞ。『王なき土地』に生まれたお前には、想像しにくいかもしれん。だが、王というものは必ず組織の末端にまで影響を及ぼすものだ。無視することなど、不可能になる。お前は、変わってしまったライザ・ソナーズに苦しむことになる。当然、お前のシドニア・ジャンパーもだ」




「今でも、少尉は苦しんでいる。どん底だ。姫様のために、どれだけ汚れ仕事をしたと思っている?オレをのぞき見したなら、分かっているはずだ。オレが知っている少尉の苦しみなんて、一部しかない」

「苦しそうな顔だ。切なくて、弱々しい。ガキの恋愛らしく、無力感にあふれていやがる」

「……バカにすんなよ。ソルジェ・ストラウス。お前だって、負け犬だ。帝国に、祖国を奪われたんだろう」

「そうだ。オレも特大の負け犬の一匹だ。復讐し、再建の道にはあるが」

「復活したその王国も、きっと、かつてのそれと異なるものだ。アンタは苦悩するんじゃないかね」




「苦悩はないな。再建されたガルーナには、一貫性があるからだ。亜人種びいきの魔王さまから受け継いだ、オレの王国には。かつてのガルーナの歌が継がれる」

「ライザ・ソナーズ姫様だって、そうなるかもしれない」

「なれない。死は厳格だ。克服することなど、不可能だからこそ、魂も哲学も代を超えてつながろうとする。お前の少尉の間違いは、新たな女王に自らがなろうとしなかったことだ。死者を継ぐ者に、なるべきだった」

「……貴族の血筋にあるんだろ?竜騎士だ。騎士ってのは、つまり、王侯貴族の一員だ」




「その通り。ガルーナ貴族の四男坊だ。ガルーナ貴族である以上、さかのぼれば、ガルーナ王家にたどり着く」

「シドニア・ジャンパー少尉は、貴族じゃない。オレと同じ、ただの一般人だ。アンタみたいに、血筋に頼れないんだよ」

「ソルジェ兄さんに、ケンカ売っているの?」

「だとすれば、私たちの出番だけど」




「ククリ、ククル。大丈夫だ。こいつは詐欺師だが、正しくはある。オレは貴族の一員という事実は、変えられんからな」

「そうかもだけど、ソルジェ兄さんは血筋に頼っているわけじゃないと思う」

「血筋を背負っているだけです。それは、頼るのとは逆の行いだわ」

「……家族愛でいっぱいかよ、ソルジェ・ストラウス」




「うらやましいだろう。お前はガキらしく、家族と衝突しがちらしいからな」

「忌々しい、呪術だ。他人のくせに、オレの人生を盗み見しやがって」

「盗み見されるのが嫌なら、素直にシドニア・ジャンパーの居場所を言え。説得の時間のうちに、言ったほうがいいぞ。オレはお前を面白がってやれるが、周りはそうでもない」

「言えないものは、言えない。代わりに」




「代わりに、だと?」

「交渉ってのは、そういうもんだろ。お互いに妥協可能な点を探して、条件を出し合うもんだ。最初から、分かっていただろう。少尉の行方は教えられない。殺されたとしてもな。だが、別のことなら……話せるかもしれない」

「どんなことだ?興味を持てる話題ならば、いいのだが」

「誰もが興味のあるハナシさ。つまり、金だよ。金。アンタだって、好きなはずだ。部下を抱えているのなら、しかも、戦争中だって言うのなら、いくらでも金が必要になる。オレを、逃がしてくれるのなら、何回か戦争がやれる金を差し出せるぜ」





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