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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その九百二十四


―――表情を作ろうとしたようだ、必死になってね。

ノヴァークにとっては、ソルジェ・ストラウスという存在はあまりにも。

強大だし、圧倒的で邪悪にも思えている。

赤い髪は血のようだったし、背も高くて筋肉質でもあった……。




「そんなにオレを恐れることはないぞ、ノヴァーク。オレは、お前が思っている以上に、やさしいんだぜ」




―――ソルジェらしくニヤリと笑ったが、友好的な意志は伝えられない。

ノヴァークは心理的な防御を用意していたはずだが、それも瞬時に崩れ去る。

狂暴な獣と、食われるだけの哀れな獲物のような立場さ。

膝が震えて、後ずさりしたくなる……。




―――瞳を閉じたくなったが、怖くて閉じられない。

闇はまるでソルジェの眷属だと、理解しているみたいだった。

ソルジェの妻の一人が、『吸血鬼』だなんてことは知らないけれどね。

後ずさりしたかった、でも背後にキュレネイ・ザトーがいるんだ……。




「ノー。逃げるなであります。指を、切り落とされたいのか?」

「……くっ。くそ、脅すなよ」

「ノー。お前は、早く立場を分かるといい。団長はやさしい。それは真実でありますが、私は彼のためにあらゆる汚れ仕事を成し遂げる立場であります。その意味が、分かるか?賢い商人の息子よ。分からないなら、勉強料として親指をひとつ―――」




「―――ハハハハ!!ああ、どうだ。メイウェイ、プレイガスト。オレの猟兵は、カッコイイだろう!!」

「クールだね。そして、君に忠実そうだ」

「忠実なのであります。メイウェイ、私はあなたが想像する以上に、忠誠心がある」

「疑うつもりはないさ。君は彼のためなら、どんなことでもするだろう」




「ノヴァーク少年。私はプレイガスト。君に知られているかは分からないが、呪術師である」

「……知っている。幽閉されているヤツだ。ソルジェ・ストラウスに、解放されたのか?」

「なるほど。呪術師にまつわる情報に、ずい分と詳しくなったようだ。シドニア・ジャンパーは、いい弟子を作ろうとしたのようですな」

「有能な女だ。大がつくほど詐欺師だが、優秀ではある」




「……少尉を、し、知っているのかよ」

「お前よりは、知っちゃいない。やったことのいくつかを、お前を通じて知っただけだ。この、魔眼の力を使ってな」




―――魔銀の眼帯をずらして、金色にかがやく魔眼を見せつける。

ノヴァークはその魔眼のかがやきを見ると、肩を大きく揺らしてその場にへたり込む。

心臓が暴走する、恐怖感も暴走していた。

怖くて怖くてしょうがないのさ、ヒトの目ではなかったからね……。




「言ったろ。怖がるなと」

「イエス。立ち上がるであります。でなければ」

「わ、分かった。た、立つ。脅すな……っ」

「さっさと立つであります。私を、怒らせたいか?」




―――歯ぎしりする、今にも泣きだしそうなほど歪んでしまった顔でね。

悔しいやら怖いやら、そして情けなくもある。

反骨心のある詐欺師のつもりだった、ついさっきだって兵士にケンカを売れた。

だが、魔王ソルジェ・ストラウスは別格だったんだよ……。




―――竜を操り、猟兵たちを従える。

『自由同盟』の幹部の一人であり、『プレイレス奪還軍』の総大将を務めた男。

帝国兵の死体で、山を作ったような怪物だった。

心臓が口から出るような仕組みの動物だったなら、ここにそれを吐いていたさ……。




―――ふらつきながらも立ち上がる、膝に両手を突きながらね。

弱々しい表情をしたくないのに、今にも失禁してしまいそうだった。

魔王ソルジェ・ストラウス、そのとなりにメイウェイと。

皇帝の恨みを買い幽閉された、凶悪な呪術師プレイガストまでいる……。




「な、何の悪だくみをしているんだよ」

「聖なる計画だ。オレたちはファリス帝国を打倒するために、全力を尽くす。その一環として、お前に聞きたいことがある」

「な、なにも…………」

「無理はするもんじゃない。シドニア・ジャンパーを売れと言っているわけじゃない。お前には、一種の仲介役になってもらいたいだけだ」




「ちゅ、仲介役だと……?」

「そうだ。オレは欲しいものがある。ひとつは、お前らが集めに集めた……というよりも、帝国兵どもから巻き上げた金だ」

「オレたちが、勝ち取った金だぞ」

「そういう認識をしていいのは、帝国軍の敵だった立場の者だけだろう。オレたちならば、そうなる。しかし、お前やシドニア・ジャンパーがやるのなら、完全な裏切り行為だ」




「……お、オレたちは…………」

「ああ。黙らなくてもいい。ノヴァーク、お前たちの忠誠心がライザ・ソナーズに向いているのは理解している」

「ど、どうして……いや。そ、そのおかしな目玉のせいかよ」

「ククク!おかしな目玉か。おびえずにケンカ売ってくれるとは、気に入ってやれそうだ」




「お、お前なんかに、き、気に入られたいわけじゃな―――」

「―――口には気をつけるであります。お前は、本当に。イライラさせる」

「う、うぐ!?」

「詐欺師ごときが、私の団長の前で威張る権利はない」




―――右肩の関節を極められながら、ノヴァークをソルジェの前に突き出される。

キュレネイはいつでも、その関節を破壊してやれたものの。

痛みを与えるだけで、実際には行わなかった。

ソルジェの命令を待っていたからだし、力は示すだけでいい……。




「ルールは、すでに伝えているであります。得るものが欲しければ、饒舌になれと。追加で、ルールを。私を、怒らせるな。以上だ」

「わ、分かった……ッ。くそ、質問が……あるなら、言え。話せるかどうかは、内容次第だってことぐらい、分かるだろ」

「拷問されたがっているのか、うちの美しい猟兵に?」

「そ、そんなわけないだろ。オレは……っ」




「ああ。冗談だ。分かっているとも、お前はシドニア・ジャンパーが大切なんだな」

「……うる、さい」

「照れるなよ。乱世では、信じられるものが少ない。そんな時代で、信じたいと思える女に出会えたのは、実に幸運なことだ」

「オレを、オレたちを知っているような態度は、やめろよ」




「確かに。呪術でお前たちの関係性を探るなど、褒められた態度ではないな。しかし、これも戦争なのだ。ガルーナ人は、戦争において手段を問わないが、勇猛果敢である戦士には、敬意を捧げる。基本的に、お前のように帝国になびいたガキは嫌いだが、反骨心そのものは好ましく思ってやれる。褒めてやっているんだぞ、ノヴァーク。だから、可能であれば素直に口を割って欲しいところだ」




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