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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その九百二十一


「……信じねえぞ。そんな言葉は」

「信じることを望んでいるわけではないであります。望んでいるのは、ルールの把握」

「つまり、オレが……非協力的な場合」

「手足は、いくつあるのか。そして、切り落としても死には直結しない便利な指は、果たしていくつあるのか。数えてみるといいであります」




「ゲリラや盗賊が、言いそうな脅しだぜ。一応、あんたら、正規軍じゃ?」

「傭兵ではあります。しかし、そう。事実上、我々はガルーナ王国軍の兵力になる予定の立場であります」

「なら、後々のためにもそんな行いをするべきじゃないよ」

「ノー。国際的な立場を確立するためにも、恐怖の対象は何人かいた方がいいであります」




「君みたいな、若い女の子が?」

「お前よりは年上であります。人生経験は豊富。そして、知性の上でも」

「オレより賢いだって?誰かに依存しないと、戦えないタイプだろ?」

「忠誠と依存の違いを知っているでありますか、詐欺師よ」




「知らねえよ。どっちも、似たようなものに見える」

「た、たしかにっ」

「ジャンさん、敵の言葉に同調しないでよ」

「見損ないました。軽率です」




「す、すみませんっ。で、でも似ていたように思えてしまったので……」

「そーかも。でも、けっこう違うよね」

「ジャン、立場を考えるであります」

「た、立場……」




「猟兵は、命令を受けるものであります。しかし、我らが忠誠は自発的なもの。猟兵と騎士は、ほぼ同じ存在であります。我らは職業倫理に基づいて、恐怖や痛苦の道を選んだ。受け取るべき対価を、心から信じながら」

「依存は、違うってのかよ?」

「イエス。お前は、その典型的な男。邪悪な行いなしでは、生きられない。シドニア・ジャンパーへの依存を捨てたとき、お前は大義を失うであります。我らは、どんな状況でも成すべきことを成し遂げる。お前は、つまり、命じられて動くだけの道具に過ぎない」

「……オレを、こけにしてやがるな」




「シドニア・ジャンパーや詐欺行為に、お前は依存しているだけでありますよ、家出少年。家出するときは、もう少し可愛らしい行為をするといい」

「キュレネイもね、家出したんだよね。軍隊目掛けて、単騎駆けしてた!!」

「イエス。実に可愛らしい家出でありました」

「価値観が、ついていけねえよ。お前ら、ほんと……どんなバケモノなんだ」




「バケモノではあります。我らだけで、数百人どころか、もう一桁上の敵を混乱に陥れた」




―――黙りたくなかったと、ノヴァークは考えていたのだけれど。

ついその上下の唇は強く結ばれて、唇の下にしわが浮かんでいた。

忠誠心よりも依存心が大きな少年には、この空間があまりにも怖かったのさ。

自分が十人いても勝てない相手に、包囲されている……。




―――依存心だけの少年だとすれば、きっと押し黙ったままだろうね。

でも、ノヴァークにはいくらかの忠誠心があったのは確かだ。

他動的な依存心とは異なる、自主的な忠誠心が。

彼はかつて誓ったのさ、シドニア・ジャンパーの忠誠心に忠誠を誓うと……。




「い、言わねえぞ。オレは、絶対にだ。どんなに強い連中に、八つ裂きにされたってな。シドニア・ジャンパー少尉を、どんな女だと思っている?お前らは、魔王の部下かもしれないが、オレはな……彼女の部下なんだ。彼女が、どれだけのことをしたか?しようとしているのか?わからねえだろ」




「す、すごく。シドニア・ジャンパーのことを、す、好きなんだね」

「悪いかよ、犬野郎」

「う、ううん。すごく、それは、きっと……す、素晴らしいことなんだって思うよ。自分よりも大切なものがあれば、ひ、ヒトって、生きていきやすくなるから。君は、きっと……多くのものを、た、大切には思えないけれど。ひとりの女性のことは、じ、自分より大切だって思えているんだね」

「うるせえ。知ったことか。お前なんかに、答えてやらねえよ」




「素直じゃないんだ。そういうセリフを使う男の子、こないだ読んだ小説でもいた」

「意地っ張りになるのよね。自分に自信がないから、虚勢を張る」

「分析するんじゃねえ。オレは、そんな童貞臭いヤツと一緒にするな」

「いずれにせよ、ノヴァーク。あるいは、マリウス」




「ノヴァークだ。マリウスは、とっくの昔にオレが殺した。あの日だ、ああ、あの日から、お前が言う忠誠心とやらが、きっと芽生えた。依存も含んでいるだろうがな!!」

「立派なものであります。どちらも、ヒトにはおそらく必要。強く生きるために、柔軟に生きるために。お前は、その大切な心の機能をどちらとも、たった一人の女に捧げている」

「うるさい、それがどうした」

「そいつを殺されたくないなら、いくらでも情報を吐くだろうという法則を、私に教えてしまったということでありますよ、ノヴァーク」




―――ノヴァークは、とても怯えたんだ。

全身が鞭打たれたみたいに、強く震えてしまう。

首に力を入れて、何かに備えるような姿勢を作った。

耐える姿勢、何かに耐えるために……。




「忠誠心のある者には、選択肢が許されるであります。誰かのために、喜んで死ねる。誰かのために、何もかも捧げられる。誰かのために、どんな罪でも背負える獣になれるのだ。ノヴァーク。お前は、きっと、この私の無表情に、何かを見つけられるであります」





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