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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その九百十九


―――ノヴァークは実にこざかしいところがあり、口とは裏腹に冷静だった。

あちこち視線を慌ただしく動かして、状況把握に努めている。

地上を見つめ、期待してもいたよ。

自分を奪還するために帝国兵どもが、動いてくれるのではないかと……。




―――地上は彼が思うよりもはるかに破壊が進んでいて、士気は壊滅していた。

指揮系統はすでにストレガの双子たちが、仕留めていたよ。

ノヴァークは分析する、この拠点を指揮する者たちの弱点。

それは出世欲と、多様性というものだった……。




―――メイウェイ軍の襲来に備えて、無理やり寄せ集められた組織だ。

士官らは主導権と指揮権争いに、情熱を注ぎ過ぎている。

だからそれぞれが手駒の兵に命じていたんだ、『ライバルを守るな』と。

露骨に言えば、見捨てろと言ってしまっている……。




―――士官という指揮系統の要を、守る力が薄かったんだよね。

『西』の辺境軍において、士官に出世している者には特徴がある。

それなりに強く、槍働きで功績を稼いだ者たちばかりということさ。

彼らは戦闘が起これば、十大師団の者たちとは別に前線に出たがる……。




―――それは名誉ある現場主義者であって、悪いことではないのだけれど。

ライバルが多すぎて、統率に各集団においては。

孤立無援の状況を招き、我々の襲撃時にも各個撃破をしやすくさせた。

悲惨な地上の状況を見つめながら、ノヴァークは舌打ちする……。




「やれ過ぎだろ、まったく……ッ」

「バラバラに、行動し過ぎなんだよね」

「……ガキに、バカにされてやがる」

「あなたも、仲間をバカにしているね」




「仲間なんかじゃ、ねえよ。役立たずどもだ。あいつら、あれだけいて。ろくに抵抗も出来なかった」

「ノー。私たちの攻撃が、圧倒的であっただけであります」

「一瞬で、あそこまで破壊されて……今だって、お前らが空中にいるせいで、消火活動をやれちゃいない。消極的に弓を空に向けて構えているだけでは……何もやれはしないのに」

「ふーん。ちゃんと、私たちが消火活動を妨害しているって、分かっているんだね」




―――そうだ、ターゲットを拉致したのに上空を離れていない最大の理由。

それは帝国兵どもに、食糧庫や宿舎につけた火を消させないためだ。

上空を警戒させ、備えさせる。

あるいはムダに矢を撃たせることで、消火活動がやれなくなるわけだ……。




―――バラバラな指揮系統を、さらに切断してやるように攻撃したことで。

統率力は崩壊しつつあり、消火をするか防戦をするかに迷いが生まれている。

ゼファーは上空を飛び回るだけで、敵の状況を悪化させているわけだよ。

我らがキュレネイ・ザトーの、賢明な戦術というわけさ……。




「こんなに、空を飛ぶということを、利用できるのかよ」

「竜騎士って、そうなんだよ。すごく有能なの!」

「……偉そうに。魔物に頼った、邪道な戦術だろ」

「竜は竜だから、魔物じゃないよ」




『そーだよ、りゅうは、りゅうなんだぞー』

「……どう考えても、魔物だろうが」

『りゅうは、りゅう!』

「魔物に頼ろうとしているのは、そっちのはずなんだよね」




―――ノヴァークはノーリアクションを貫く、いや貫こうとした。

だが、その内心には動揺がある。

ミアはともかく、キュレネイはしっかりとそれを見抜いてしまう。

不自然に押し黙り、ミアの言葉から逃げるように身を逸らしたから……。




―――オペラ座で女優を護衛して、見守って来たおかげだ。

演劇術の基礎を、キュレネイは習得してしまっている。

わずかな動きに、いやわずかだからこそ誤魔化しの利かない動きを。

ルビー色の瞳は、つぶさに観察して感情に翻訳していくのさ……。




「図星を突かれると、態度に出るものであります」

「詐欺師らしく、嘘をつこうとしているってこと?」

「クズ野郎らしいですね。人道を外れた者は、正しい道を進めない」

「……うるせえよ。情報を口にしないのは、正しいだろう。お前ら、敵なんだから」




「それはそれで正しいであります。しかし、小僧」

「誰が、小僧だ」

「本名は、マリウスだった。それでいいでありますか?……ああ、黙らないように。ナイフでチクっと刺すことになる」

「ふざけんな。くそ、くそ。どうなってる……」




「お兄ちゃんがね、教えてくれたんだよ。すごい呪術師でもあるの」

「……呪いで、オレを……探った……」

「ホッとしているであります。つまりお前は上司を庇えると感じ取った。こちらの捜査は特殊なものであり、人間関係を攻略したものではないと。そこは、評価してやろう」

「……頑張りがいが、あるってことだ」




「賢いであります。そう、努力は許される。拷問に耐えて、肉を潰し、骨を切られる音と痛苦に耐えながら、シドニア・ジャンパーのために無言を貫くのも、愛情であります」

「え、えぐいですけど。せ、戦争なので。覚悟してて、く、くださいね」

「……うるせえ。オレは脅しには屈しない」

「必要なら、いくらでもやってしまうであります。私は、とくに。情緒的な葛藤が少ない、『危険な子』でありますので」




―――我らが『番犬』、キュレネイ・ザトー。

ソルジェに、『貴方のための残酷だ』と主張した乙女だ。

ノヴァークが犯罪と戦乱の現場で、主に愛を見つけたように。

キュレネイもまた似た部分が、確実に存在していた……。




「忠誠心は大切であります。私は、ソルジェ・ストラウスのための残酷であります」




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