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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その九百十七


―――『パンジャール猟兵団』の基本的なチーム哲学は、役割分担である。

攻撃の際に重視される方針を述べるとすれば、一番目の鉄則は連携あるのみ。

ゼファーが強襲を仕掛けたと同時に、ジャンも動いていたわけだ。

ジャンの狙いは輸送能力であり、馬車を狙って攻めていく……。




―――帝国兵が食料を運ぶために用意した馬車に、『噛みついて持ち上げた』。

何トンもあっただろうけれど、『巨狼』の姿に化けているジャンからすれば。

大した重さのないものだったよ、宙にリフトしながら『巨狼』は後ろ足で立つ。

夏の汗ばむ空気のなかで、馬車が屹立する光景というものは……。




―――竜の襲撃にも等しい衝撃を、帝国兵どもに与えてくれる。

本能的な恐怖を『演出』したとき、ヒトの半分は動けなくなるものだった。

猟兵のなかでも芸術的素養を持つキュレネイは、この戦術の大いなる使い手だよ。

ゼファーで敵の士気を破壊し、『巨狼』の存在で恐怖を倍増していく……。




―――空へとぶん投げられて、馬車は馬車へと向かって落ちていった。

破壊の音は心を挫き、恐怖に凍てついた脚はガクガクとしか動いてくれなくなる。

『パンジャール猟兵団』は勇気ある敵を敬愛し、喜び歓迎するものだ。

もちろん、臆病な敵よりも早く殺す対象に選ぶがね……。




―――達人のすべてに共通する、基礎の考え方がある。

動きには意志が反映されており、それを読み解くことで行動の指針とした。

キュレネイは若いが、心理分析の達人でもある。

猟兵的なミアは戦場の心理を把握するが、キュレネイはより広範なヒトの本質を狙う……。




―――強者から殺せ、抵抗する者から殺せ。

それに加えて付け加えていた方針が、『音を使え』とのことだ。

音には形があり、リズムがすべての動きを強調するもの。

それもまた野性味あふれる、北方系の芸術哲学のひとつだった……。




―――馬車と馬車の衝突する音の次に、我らが『巨狼』が狙ったのは。

帝国兵どもが組み立てたばかりの、即席感にあふれた『やぐら』である。

強烈な体当たりの一撃で、それは傾いてしまうからね。

時間をかけつつ、やぐらの上にいた弓兵たちの悲鳴を帯びて横倒しさ……。




―――ヒトはヒトの悲鳴が、心の奥に届きやすく作られている。

おかげで悲劇を演じられるし、肝試しと幽霊話は夏の花でいられるわけだね。

壊れるやぐらと、悲鳴を背景に。

メルカに生まれた双子たちは、攻撃の意志を持つ者から射殺していく……。




―――恐怖の拘束に打ち勝つ兵士が、あまり多くないという事実。

それをククリ・ストレガと、ククル・ストレガは学びつつあった。

メルカの『外』では、人々は利己的であって。

自分の命を存続させることを、多くの場合で所属集団の維持よりも優先する……。




―――『ホムンクルス』たちの、ちょっと悲しい哲学とは大きく異なっていた。

自分たちよりもメルカのために生きて死ぬのが、メルカ・コルン。

帝国兵どもは彼女たちの純粋さからすれば、人間味あふれた濁りを持つ。

戦場においての人間味なんて、もちろん弱さに直結するけれどね……。




「弓兵と、強者から。殺してあげる」

「逃げるならば、見逃すという意味ですから」

「逃げるヤツは、二度と戦場で役に立たない」

「そういう敵は、弱さを伝染させてくれるらしいので」




―――理解できない帝国兵どもの弱さであるものの、利用の仕方は熟知しつつある。

メルカ・コルンならば、となりで仲間が殺されても感情を捨てて戦えるのに。

そう在るべきだと学び、それが強さだと信じているというのに。

帝国兵どもはとなりで仲間がしんだぐらいで、恐怖で固まっていく……。




「『外』のヒトたちって、ほんとうに」

「よく分かりません。だけど、効率的に」

「狩り殺していくよ。ああ、そこのあなた」

「戦う気がないなら、さっさと逃げてくださいね」




―――無視して、歩いた。

震えて固まる帝国兵のとなり、左側と右側を。

ククリとククル、そっくりな双子が弓を構えて歩きながら進む。

『無力』と判断した敵のとなりで、弓を放ち悲鳴を作った……。




「お、オレを、む、む、無視して……『くれた』」

「うん。そうだよ」

「そういうことなので、鋼を捨てて逃げればいい」

「…………で、でき、でき…………」




「出来ちゃうよ。そういうヤツは、あなただけじゃない」

「敵前逃亡を、戦場の支配者である私たちが許してあげます」

「だからね、さっさと」

「全力で叫びながら、西へと逃げていきなさい」




―――また二人ずつ殺しながら、ストレガの双子は敵の逃亡を許した。

兵士の誇りよりも生存権を優先した男は、無様に叫びながら戦場から離脱する。

逃げていくのは、この男だけじゃなかったよ。

十大師団よりも質で劣り、竜と『巨竜』に怯える者ども……。




―――勇気ある猛者と、指揮系統が殺されていく。

有能さを極めていなくても、戦場のベテランではあるからね。

『逃げるチャンス』を見抜くことには、非常に長けている。

まして、シドニア・ジャンパーの悪い噂を聞いたばかりならば……。




「こ、こんな腐った帝国軍のために……ッ」

「オレたちの、か、金を奪った士官どもの命令なんて……」

「聞いて、いられるかよ!!」

「し、死にたくないいいいいいいいいい!!!」




―――理論武装と、感情的な弱さ。

そして合理的な生存戦力に基づいて、帝国兵どもの一割近くが逃亡していく。

おかげで、この作戦も上手く行ったよ。

戦闘時間はわずかに三分ちょっとだが、破壊工作と敵兵の殺りくに成功し……。




「こいつを、拉致って戻るであります」

「オッケー。さあ、乗るんだ」

「りゅ、竜に……」

「イエス。生きて、情報を吐くのが、お前の役目になるであります」





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