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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その九百十五


「『いい犬たちだ!ヴァルガロフにも闘犬の文化があったが、『西』の猟犬たちは素晴らしいパートナーらしいなぁ!』」

「具体的に、どのように貢献したんだろう?」

「敵の追跡や、早期発見。そして、時には攻撃にさえも使われるものです。呪術によって改造された猟犬は、主に対して誰よりも忠実な道具になる」

「道具、か。ドライな言い回しではあるが、その評価に相応しい行動なのだね」




―――メイウェイにも動物愛がある、とくに馬に対してのものが。

騎兵として長く生きて来たから、馬という戦争の消耗品に対しての哲学がある。

馬がどれだけ忠実なことか、それは普通の猟犬にだって劣らない。

しかし、呪術でまで強化すれば『何』になるというのか……。




―――メイウェイは理解しているよ、『ユニコーン』になるのさ。

呪術錬金術で兵器化された存在、それがディアロスの『ユニコーン』。

猟犬もまたそれに近しい様式の果てに、強化されるというわけだよ。

メイウェイはその猟犬たちを、魔犬のように考えている……。




―――その認識は、実に的確なものだと言えたね。

『トゥ・リオーネの猟犬』たちは、魔犬のように優秀であったし。

魔物を見つけ出してくれる、強力な猟犬だ。

それを使いこなし、シドニア・ジャンパーは……。




「『魔物を呪術で縛り、竜対策として使う気らしいぜ』」

「……ストラウス卿、嬉しそうだね」

「『もちろんだ。戦ってみたい。戦士としての本能だ。強い魔物と、殺し合う。最高に楽しい時間じゃないか』」

「気持ちは、分かる」




「『そうだろうな。メイウェイ、お前は名誉や武勇に飢えている』」

「すでに、それなりの名誉はあると思っているんだが」

「『それ以上が、欲しいのさ。戦士というものは、そういう生き物じゃないか』」

「戦場にいれば、たしかに。その願望からは逃げられない」




―――英雄たちは、非常識なところがあるものだった。

呪術で強化された魔物と、戦いたがっている。

自分の英雄譚の一部に、コレクションしておきたいのさ。

プレイガストは目の前の血に飢えた英雄たちを、ありがたく思っていた……。




―――『トゥ・リオーネの猟犬』にも、呪術に操られた魔物にも。

恐怖を抱かないなんて、とんでもない精神力であり自信だった。

レビン大尉と比較してしまうのは、レビン大尉にはかわいそうなことだね。

だが、プレイガストはそれをしてしまう……。




―――レビン大尉が英雄になれないのは、究極の勇気と自信を持たないから。

そして、明確な実力不足でもある。

だが、実際のところ力よりも自信の方が深刻かもしれない。

体格だけならばソルジェにだって、彼も負けちゃいないけれど……。




「『楽しみだ!!シドニア・ジャンパーの呪術で、操られた魔物とやら!!』」




―――天地がひっくり返っても、レビン大尉には無理な発言だっただろう。

ソルジェは本心で、待ち望んでいるのだ。

困ったことではあるけれど、それがストラウス家に生まれた者の宿命なのさ。

『戦場で死に、歌になれ』なんていう一族は異常ではある……。




「つまり、シドニア・ジャンパーは……少尉は、竜対策のための魔物を?」

「ああ。オレたちのシドニア・ジャンパー少尉が、竜を倒す魔物を手に入れる」

「……魔物に、魔物を狩らせるのか……だが。その猟犬たちは……お前が?」

「手配したのは、オレだ。『西』の生まれだから、金を使えば、猟犬をそろえられる」




「裏切り者だな、お前は」

「裏切りが、悪いことか?オレはな、人生をぶっ壊されながら、理解したんだ。自分が本当に、選ぶべきものが何であるのかを」

「……シドニア・ジャンパーは、どこに?」

「言えない。特別な軍事作戦の最中だからな。言えるわけ、ないだろ?それに……」




「知っちゃいない、わけか?」

「……そうだ。悪いか?」




「『嘘が下手だな。オレには分かるぜ、ノヴァークよ。お前の拗ね方には、特徴がある。詐欺師らしく、普段から被害者面だが。自分の評価を下げるような演技に、苦痛を伴うのだ。お前にとって、シドニア・ジャンパーはとても大切な女か。ああ、分かるぜ。愛しい女のためなら、名誉が傷つくことも厭わないと、本気で信じたがるものだ。実際は、難しいことだがな。とくに、お前みたいなガキには』」




「とにかく。シドニア・ジャンパー少尉と、レヴェータ殿下を信じろ。竜だろうが、メイウェイだろうが、倒すさ」

「……選ぶぞ。オレは、レヴェータ殿下を信じる」

「それでもいい。構わないさ。オレたちの旗印は、殿下になるんだから」

「……裏切るなよ。オレたちを」




―――シドニア・ジャンパーは、名誉を失いつつある。

戦場でウワサが広まるのは早く、とくに悪評の場合は確実なものだ。

誰もが犬死にしたくないから、良い情報にも悪い情報にも敏感になる。

情報工作は『西』の帝国軍全体を蝕み、ボクらに有利な状況を作りつつあった……。




「『さて。そろそろ、こちらも動くとしよう。ノヴァーク。ノヴァーク、お前と、直接会うのが楽しみになった。ゼファー、キュレネイに伝えろ』」




『おっけー!『どーじぇ』からの、めいれいを、つーたえるねー!!』




―――キュレネイ・チームは、とても忙しかった。

帝国兵への攻撃を繰り返し、戦力を削ぎ落す。

そして、追加されたオーダーにも応えてくれたわけだよ。

ノヴァークと帝国兵どもには、地獄の時間の始まりだった……。




―――帝国兵どもの詰め所であった酒場、その近くにあった食糧庫が爆発する。

ゼファーの『火球』がそこを直撃したのさ、威力は控え目であったけれど。

十分だ、引火すれば小麦粉の袋も倉庫だってあっという間に火の海だ。

その爆撃の音に酒場が揺さぶられた直後、ゼファーが酒場に着陸する……。




『ちゃーくち!!あははははは!!』




―――天井を貫き、壁をなぎ倒しながら。

愛らしく笑う我らが黒き仔竜は、ターゲットを捕捉する。

『ドージェ』から魔眼を伝って見えていた通り、ノヴァークがいた。

恐怖で腰を抜かす彼と、酒のおかげで恐怖を克服した帝国兵が……。




「りゅ、竜が……ッ」

「蛮族連合め、仕留めてやるぞ!!」

「ば、バカ。やめとけ―――」

「―――逃げられる相手なら、逃げる!!逃げられないなら、戦うのが兵士だ!!」




―――ああ、我らがミア・マルー・ストラウスは喜んでいたよ。

勇敢な戦士と戦い、その手に掴む鋼で殺すことは何よりの名誉だ。

ストラウス家に生まれなかったとしても、運命がストラウス家に導いた少女。

ソルジェの妹らしく、ゼファーの背から飛び降りる……。




「勝負だよ、オッサン!!私の名は、ミア・マルー・ストラウス!!ストラウス家の竜騎士だ!!」

「小娘であろうとも、容赦はしない―――」



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