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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その九百九


「『エルトジャネハ』ほどの力があるか、という点においては、ないと言うしかありません」

「あれほどの力は、持てあますかもしれん。復活させられるなら、多少、弱くても構わないよ。力よりも、魂を再現したいっていうのが、少尉の願いのはずだ」

「『エルトジャネハ』の破壊力がなくていいのであれば、むしろ、条件としては好ましいでしょう。復讐神としての力は、あまり高くなれば……」

「身を滅ぼす、ということか?」




「左様です。復讐神はもとより狂暴であり、持てる力のすべてを対象に向けてぶつける。復讐相手に対して襲い掛かり、生贄の与えてくれる力を爆発的に消耗して、すぐに……」

「消える。永続的な効果がいいんだ。少なくとも、少尉が満足しそうなほどには長く。永遠なんて、都合がいい目標は立てるつもりはないが。数日だとか、数週間では、無意味だぞ」

「生贄の数次第で、いくらでも、その期間は長く出来ます。計算式のようなもの。注ぐ数字が多ければ多いほど、巨大なものになっていく。人数が少なくとも、高貴で古い血筋や、多数の方々に影響をお持ちの方を生贄にするのも有効です。『エルトジャネハ』の最大の生贄は、他でもない……」

「ライザ・ソナーズ姫さまかよ。影響力は、抜群だったもんな」




「帝国内にも、そして敵対者にも政治的知名度の高い人物は大きな影響力と、無数の人脈的なつながりを持つ。いわゆる、『絆』というものです」

「詐欺師にとっても、そいつは大切なものだぜ。『絆』を……社会的信用の逆説的利用者が、詐欺師なんだから。つまり、まあ、政治家もってことだ」

「ええ。王侯貴族に、政治家。賢者に……英雄。その種の生贄は、実に魅力的なものです。ライザ・ソナーズ姫さまは、最大の生贄にでしたし、その次の生贄として機能しておられたのは……」

「そいつも分かる。レヴェータ殿下だな。彼自身も、死んだ。死ぬことで、『エルトジャネハ』と融合したのか……自分を生贄にしたのか、あるいは」




「私どもの予測のひとつに、『寄生』というものがありますよ」

「『古王朝』を滅ぼしたような悪神に、『寄生』ってか。どんなバケモノなんだ」

「最高の呪術師のひとりではありましたよ、殿下は。素晴らしい方を、亡くしてしまった」

「素晴らしい方か?邪悪で、危険で……婚約者殺しと来ている」




「社会的な評価とは、往々にして揺らぎがあるものです。私たちからすれば、純粋に呪術の才能としての評価を、してしまう。レヴェータ殿下は、じつに、祭祀呪術の陰惨な欲求と一致した性質の持ち主でしたよ」

「とても、褒めているようには聞こえないね」

「褒めていますとも。祭祀呪術は危険なものです。このエルフのように、生贄を強いる。彼女は、生きたまま呪印を刻まれた。呪印は肉を裂き、骨を蝕みながら、魂にまで苦痛を強いた。そうなると分かっていてなお、やれる。その残酷さと、容赦のなさは、備わっている時点で天賦の才能でしょう」

「常人には、それだけクズで邪悪でおぞましい行為は、やれないと」




―――呪術師が社会的に嫌われがちな理由のひとつは、共感性に乏しい点だ。

実際に乏しいかはともかく、少なくともそう見えてしまうのは事実だよ。

生贄に対して同情的な人物では、呪術を極めるのは困難かもしれない。

理論だけでなく実践的な呪術ならば、生贄が大なり小なり必要になるし……。




―――生贄が派手なほど、呪術は力を得てしまうものだから。

呪術師はやはり、世間一般からは愛されやすい存在とは呼び難いものだった。

それだけに、レヴェータという邪悪な皇太子には向いてもいる。

傲慢で容赦ない、愛を求めるのに愛から求められていないような孤独な男だ……。




「他人を平気で踏みにじられる。それは、ある意味ではうらやましいものです。研究のために、何もかも犠牲にしてしまえるのならば、私だってやってみたくもありますが。とてもとても、人格の時点で、成し遂げられるような気がしません」

「マトモなヤツぶりたいんだな。分かったよ、認めてやるって。アンタらはマトモで人徳のある呪術師だ。レヴェータの提示した邪悪な実験や、危険な呪術にのめり込んでいたとしてもね」

「のめり込む。なるほど、なるほど。たしかに、我々を上手に表現しておられる」

「違っていたら良かったんだけど。アンタらは自覚まである。レヴェータほどじゃない、なんていう言い方をし出したらね、とっくの昔に、手遅れなことも多いもんだ」




「はははは。毒を食らわば皿まで。生き延びて、知的好奇心の追求を続ける。研究者というものは、そういう生き方なのですよ」

「好きにはなれんね。もっと刹那的な価値観で生きていきたいところだ」

「若いと、そういうものでしょう。うらやましいですよ。失われて、二度と戻らないものを持たれている方はね」

「……若返りの呪術を、目指すっていう気持ちにはならないんだな」




「そこまでの欲望は、さすがにありません。野心というもののサイズ感は、人それぞれ。私らのような、一研究者には、そのような力は重すぎて背負いきれません。永遠の命や、無敵の力。不老の祝福。その種のものは、やはり……高貴な方々に向くのでしょう。我々、一般人を本心から食い物にしてやろうと誓えなければ、成し遂げられない」

「異常者に、大きな野心は宿りがちか」

「そのようです。とにかく。復活は、やれるかもしれません。完璧でも完全無欠でもないでしょう。『およそ余計な神がついてくる』ような状態で……『神憑き』と言う状態が正しいかもしれませんがね。生きて、話し、考えて、触れ合える」

「十分そうだ。具体的に、どうすればいい?」




「祭祀呪術の基礎設計に、変更を加えればいいだけです。ライザ・ソナーズ中佐の復活のためだけに、リソースをすべて削げばいい」

「ご遺体は、回収済みだけど……死体に、『神憑き』をさせればいいのか?」

「死体がなくても、再現はできますが。死体でも構いませんとも」

「レヴェータ殿下の場合は、死体もクソもなかったか。まったく。祭祀呪術ってのは、どうなってんだかな」




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