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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その九百五


―――ソルジェは勧誘したがっている、ノヴァークのことも。

そして、シドニア・ジャンパーのこともだった。

強力な詐欺師を味方に引き込めれば、帝国との戦いだった楽になるかもしれない。

犯罪者であろうとも、強力なカードだ……。




「『オレは、戦場で死ぬ若者たちを減らしたいと思い始めている。戦場で死に、歌となるのはガルーナ人にとっては名誉。ストラウス家の男としては、もはや義務ですらある。我が一族に生まれ落ちたなら、戦場で死なずして、何処で死ぬのだと。だが、分かっている。こいつは、ちょっとだけ過激な思想だ……いや、ちょっとではないんだよな』」

「私に同意を求めているのなら、その通り、としてしか答えられないよ、ストラウス卿。ストラウス一族の戦闘意欲は、第六師団のそれよりもいくつかの面で狂暴だ」

「一般論ではありますが、若者を戦死に導くのは、いささか問題がある行いです。戦後復興のための人員が、大きく減ってしまいますから」

「『というわけだ。やっぱり、その種の考えは、過激らしい。ノヴァーク。お前だって、別に戦場での死者が増えない方がいいだろう?呪いの生贄になるなんて真似は、幸せなことじゃないんだ』」




―――三日前のことだ、ノヴァークはシドニア・ジャンパーからの命令に従っていた。

幾人かの呪術師、『プレイレス』の第九師団から流れて来た呪術師たち。

彼らをとある都市国家に導いていたんだ、険しい山道を馬で進みながらね。

汗まみれの馬は鼻息も荒い、標高の高さと山の地形をソルジェは考察に入れる……。




―――地図でどの場所なのか、見当をつけていくのさ。

国境線から遠くはないが、ここよりはずっと西になる。

その都市国家は帝国軍と長い戦いをしたのだろう、城壁があちこち崩されていた。

補修を始めているが上手く行っていない、それはつまり……。




「『野に下った都市国家の戦士たちが、ゲリラを組んで攻撃を繰り返しているらしい。山深いから、隠れ場所には事欠かない。定期的に襲撃して、城壁の復旧を妨げているようだ。エルフの機動力を活かしたゲリラか、ケットシーかもしれんな』」

「それは『クイント』でしょう。ケットシーの商人たちが作った、都市国家です。地図で言えば……ああ、ストラウス卿。まさに、そこですとも」

「指で示せるのか。さすがだな、ストラウス卿。『逆流』で読み取った他者の記憶から、地形まで探り当てる……驚異的な力だ」

「『目玉が疲れるという代償がなければ、完璧じゃあるんだがね』」




「瞳術の類は、長時間使用すれば視力を損ねるリスクもあります。その点は、ご注意を」

「『ああ。オットーにも注意を受けている。ああ、猟兵の一人だ。『サージャー』なんだよ』」

「三つ目の種族ですか。それは、とても珍しい。すでに滅亡したものかと……」

「『滅亡しちゃいないさ。彼らは離散しつつ、人間族の社会に紛れ込んだ。額の瞳さえ閉じていれば、人間族と区別はつかんからな』」




「未知の種族とも言える。彼らの瞳術も、とてつもなく優れているものだと」

「『感覚や洞察力に関しては、オレの魔眼よりも秀でている点がいくつかあるな。空間把握については、完璧だ。飛んでくる矢をつかむことに関しちゃ、オレよりも上なのはオットーか、レイチェルだけ。シアンは、オレと互角だ』」

「そんな芸当を、鍛錬で行っているのかい?『パンジャール猟兵団』では?」

「『たまにはな。その種の芸当に、あまり意味はないんだが……楽しくはあるだろ。鍛錬も楽しくやってこそだ』」




―――達人ぞろいの『パンジャール猟兵団』の、『水準』。

それをメイウェイは羨ましいと、率直に思ってしまった。

『最強の部下』が欲しいのさ、野心が芽吹き始めている今このときはね。

アーベル・レイオーンを鍛えて、育てたくなっている……。




―――メイウェイは軍人であり、『白獅子』ガルフ・コルテスではないんだ。

『戦場で絶対的な強さ』までは求めていない、その育成が厳しいのは目に見えている。

最強のカードがないのなら、『十分に機能するカード』を用意すればいい。

戦場での勝者はただひとりの英雄ではない、有能なチームだ……。




―――アーベルならば、十分な副官にだってなれるだろう。

シドニア・ジャンパーが十七才のノヴァークを使うのと、似たような感覚だ。

『部下として訓練するには適した年齢』であると、メイウェイは理解している。

反抗期ではあるものの、心酔させれば大人よりはるかに素直だからね……。




―――学習意欲も長けている、メイウェイは詐欺師女との一致に苦笑する。

自分は追い詰められた獣のように、戦力に飢えているのだと分かったからかも。

焦燥感が尽きない、もっと『上』を目指したくてしょうがない。

王にならないかとソルジェに言われたからだろう、しょうがないことだ……。




―――さて、ノヴァークは『クイント』に近づいていく。

ケットシーの子供たちが、城砦の上を走っているのを見かけた。

十大師団ほど規律があれば、あの子供たちは外で遊べなかったかもね。

少なくとも軍事的な構造物の上で、走り回るなんて……。




「『規律が低いようだ。あるいは、疲れているのか。それとも、ケットシーのゲリラ部隊の対策として、ケットシーの子供たちを走り回らせているのかもしれん。人質が手近にいれば、戦闘が始まったとき、すぐに使える。誤射を警戒して、矢を放つことだって控えるかもしれん。いずれにせよ、雑な士気と、堕落を感じるぜ』」





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