表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4948/4977

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その九百一


―――ボクたちに正義があるように、敵にも正義があった。

それを知る機会は、素晴らしいものだろう。

ソルジェはライザ・ソナーズの世界観を、気に入りつつある。

誰もが複雑な乱世を生き抜きながら、それぞれの夢があったのだと……。




―――ライザ・ソナーズの夢は、ボクたちの目指す『未来』と似ていた。

誰もが生きていてもいい世界を、心の底から願いながらも。

現実的な道を模索していたんだよ、奴隷貿易の女王と罵られつつ。

この乱世で一番かもしれないロビイストだ、彼女の目論見は進んでいく……。




―――ソルジェたちの介入の結果、レヴェータに殺されなければ。

彼女はレヴェータを新たな皇帝にするために、ユアンダート暗殺に動いたのかも。

レヴェータもユアンダートへの劣等感を求め、父親殺しを成し遂げたかも。

我々の戦いの軸は、大きく変わっていたのかもしれない……。




―――レヴェータに政治的な意志は、それほど強いモノじゃなかったから。

ライザ・ソナーズが『女帝』として、帝国の方針を変える日があれば。

たとえば『自由同盟』との和解だって、起きた可能性があったのさ。

歴史にもしもはありえない、その切なく儚い妄想を懐かしむだけ……。




「お優しく、大陸よりも大きな夢を抱く姫様に。私の忠誠を。詐欺師として生きてきましたが。今後は、貴方のための悪となりますので。信じてください、我が主よ」

「ええ。もちろんよ。何度も確認しなくてもいい。きっと、貴方は私たちの作る世界において、何か偉大な役割を果たすでしょう。正しい存在へと、いつか帰還させます。その日まで、罪に耐えてください」

「はい。その言葉をいただけるだけで。私はいくらでも罪の道を進めるでしょう」

「いつか、夢は叶うわ。世界は野蛮さや無知から解放されて……能力のある者が、祝福される世の中がやってくるの」




―――『死貴族』として立ちはだかった、ファリスの騎士たち。

バハルとセリーヌ、アンクタンとコペンバーグ。

死後もライザ・ソナーズに忠誠を尽くした者たちの主は、偉大な女性ではあった。

乱世には多くいる究極の女傑のひとりであり、何か大きな希望と可能性の化身……。




―――ソルジェは再び、怒りに心を満たすのさ。

「こんないい女を、殺しちまうなんて何事だ」。

ライザ・ソナーズの暗殺のために、襲撃をした張本人ではある。

だが、殺したのはレヴェータだ……。




「怖い恋愛をしているのよ。愛人を囲うのは、貴族のたしなみだけれど。私は、レヴェータさまを、本心からは愛せない。傷つけないために、愛人がいるの。おかしなことでしょうか」




―――男が浮気性なように、女性だって浮気性なこともあるというだけだった。

いつかバレるかもしれない偽りの愛が、ついにバレてしまったとき。

レヴェータが用いた祭祀呪術の生贄にされたのは、姫君とその家臣たち。

不実な愛の罰は、さまざまな大きさで降りかかるものだけれど……。




―――ライザ・ソナーズと、彼女のための騎士団が滅びてしまったのは。

いささか被害が、大きすぎるというものさ。

もったいなかったよ、共闘する『未来』もあったのかもしれないのに。

本心を伝え合えない、凶暴な政治力学に軋む時代というのは不自由なものさ……。




「おかしなことではありません。貴族の愛は、そういうものです」

「でもね、シドニア。レヴェータさまは、お母さまを亡くされているの」

「たしか、幼少期に」

「彼女はファリスの旧い勢力の一員として、急進的な改革を進めるユアンダート陛下を暗殺するために、送り込まれた暗殺者でもあった」

「それは、つまり……皇帝陛下が」




「ユアンダート陛下は、剣の達人です。若かりし頃は、戦場で名を馳せた豪傑。寝込みを愛する妻に襲われたとしても、生き延びて、殺してしまわれた。幼いレヴェータさまは、それを目の当たりにしてしまったの。なんて、悲しい人なのでしょう」

「乱世です。あり得るハナシに、過ぎません」

「そうかしら。そうなのかも。でもね、シドニア。どこか、運命を感じるの。私の本性が、レヴェータさまにバレたとき。きっと、同じような結末が起きてしまうのではないかと」

「そんなことには、なりません。姫様。姫様のような知的な女性は、最後まで男を騙し切るものです。真実の愛では、ないかもしれませんが。同情心はある。それは、一種の愛情ではあるのです。大丈夫。姫様は、正しい結末への道を歩みます。私が、対策を練るからです。祭祀呪術の脅威は、必ず、無効化します」




―――詐欺師の約束ではあったものの、それは本心からの約束だった。

儚い予想を最愛の姫君が口にしたときから、研究はより熱心なものになる。

レヴェータに政治的な価値がなければ、暗殺計画を放っていただろうね。

シドニア・ジャンパーは、レヴェータを警戒するようになった……。




―――祭祀呪術の使い手である以上に、壊れた人格の持ち主として。

母親を父親に殺された男の心境を、想像するなんて機会は人生に一度もなくていい。

しかし、実際にそんな目に遭わされ男と対峙する日が来る。

暗殺したいのに、皇太子という立場はどうしても手放せなかった……。




―――祭祀呪術の研究は進む、レヴェータの怪しげな呪術の集いの裏側で。

シドニア・ジャンパーはレヴェータから指導も受けたし、生贄も用意した。

あまり楽しい行為ではなかったが、『必要経費』と割り切ったんだ。

正義ではなに、実用的だったのかもしれない……。




―――耐えがたい嫌悪を覚えつつも、姫君は皇太子のそばに。

偽りの愛に気づかれたせいで、殺される運命を予見しつつも。

逃げなかったのは夢の大きさのせいか、それともレヴェータへの愛情か。

偽りでも愛してはいたのさ、完全ではなかったとしても……。




―――そこはライザ・ソナーズのヒトとしての弱点であり、限界ではあった。

シドニアが祭祀呪術の始動と、レヴェータによる暴走と。

ライザ・ソナーズが生贄として、殺されてしまったことを知ったとき。

瀕死のケガを負わされた獣のように、シドニア・ジャンパーは夜空に叫んだ……。




―――偽りだって、愛なら美しかったのさ。

困ったことに、それもまた。

ゆるぎない真実であり、悲しさの根源だ。

だが、呪いの資料は遺産としてシドニア・ジャンパーの手のなかに転がり込む……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ