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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その八百九十七


―――高圧的な態度ではあったものの、シドニア・ジャンパーはマシだった。

『プレイレス』の大学半島の存在価値を知らない、大半の帝国兵と違ってね。

彼女は学問そのものを大切に考えているし、愚かなことが嫌いなようだ。

呪術師は性格の良し悪しはさておき、基本的に知的な人物が多い……。




「『プレイガストよ。シドニア・ジャンパーの行動を、『見れて』いるんだが。これは、どう解釈すべきだろうか?』」

「竜の呪術は強さがあるようで。対象人物が、シドニア・ジャンパーにまで及んだ可能性もありますが。ターゲットとなっている少年の深層心理が、見せているものかもしれません」

「『なるほど。後々、聞きかじった事実を、ノヴァークは見ている……腹に、呪術を抱えているのだからな』」

「ええ。祭祀呪術かもしれないもの。強力な古王朝の呪術に似たものが、その少年の腹には宿った。呪術の干渉性は、かなり広いものですから。共鳴しているのかも」




「呪術とは、そこまでの可能性があるのか?」

「もちろん。ストラウス卿のものは、特別でしょうが。また、祭祀呪術の研究者が使った術も、例外には漏れない。魔術に比べて、極めて小さな単位での魔力の動きになるものですが、それゆえに繊細かつ……共鳴性がある」

「小さすぎて、共鳴するのに必要な魔力も小さいから……共鳴しやすい、のか」

「さすがはメイウェイ殿。まったくもって、その通り。呪術は伝染性を有しているものも多い。まるで、病気のように」




「その言い方は、警戒したくなるのだが?」

「至極、正しい反応です。伝染性の呪術は、危険なものが多い」

「ストラウス卿は、無事なのか?」

「『オレは大丈夫だ。アーレスがおよそ守ってくれているよ』」




「呪術は『魂』を模造して、他者に宿らせもする。通常は短期間ではありますが、竜のそれはまた異なるでしょうな」

「『とにかく、オレのことは心配しなくていい。マズそうだったら、距離を取るぐらいの判断はするさ』」

「分かった。私には分からない分野なのだ。任せるしかないが、重々、祭祀呪術に襲われないようにしてくれ」

「『ああ。あれには、いい思い出はない。とくに、クロウ・ガートと、そのクソ弟子、レヴェータのものにはな』」




―――このシドニア・ジャンパーは、もしかしたら少年の願望なのかもしれない。

毅然に働き、亜人種にも人間族に対してもどちらの別もなく厳格だった。

それを望んでいるのかも、少年は運命の悪女に支配されたがったりしている?

ソルジェもボクもそれについては同じ予測だ、『おそらくそうだろう』……。




―――理想が重ねられたせいで、もしかしたら真実ではないシドニア・ジャンパー。

彼女は学問を愛し、ライザ・ソナーズとレヴェータが天下を取ったら。

この大学半島の学問を『新たな帝国』の知的な基礎にしたいと、考えていたらしい。

それはなかなか合理的な判断というか、やれるならどこの王も選んだろうね。

文化や科学や知性の傾向ってものは、『移植』するのが手っ取り早いものだ……。




―――世の中を安定させるための力は、基本的に三つあるとされている。

『ルードの狐』の哲学では少なくともそうで、それらの三つとはこうだ。

『治安を司る軍隊』と、『おかしな金の流れを許さない税制』。

そして『啓蒙可能な知性』であり、これらを兼ねそろえた街だけが平和である……。




―――シドニア・ジャンパーは、大詐欺師なので治安の破壊者ではあるけれど。

いつか体制側の重役にでも、なりたいと願っているのかもしれない。

実際、彼女が掠め取った莫大な帝国軍への給金。

それを献上されたなら、小国のひとつだって任せたくもなるだろう……。




―――『税制』の破壊者は、グラム・シェアの依頼をこなしていく。

学生自警団が食料を過度にため込もうとしていないか、武器と鋼の量に変動は?

薪やランプ用の油、船の修理あるいは『密造』に使えそうな木材量のチェック。

グラム・シェアは大学半島を侮ってはいなかった、なかなかの将軍だよ……。




―――間接的にソルジェにも、生きた勉強となっていたね。

グラム・シェアは将軍であるだけでなく、一時的に『プレイレス』の統治者だった。

軍事面かつ政治面で、どういった点に着眼すれば管理が可能となるものか。

それを学ぶには、この追体験は得難い経験となるものだろう……。




―――しょせんはソルジェ・ストラウスだからね、アタマが悪い。

学問として教えるよりも、実際にその場に放り込んだ方が修得は早いのさ。

形として捉え、それを瞬時に模倣することに関しては大陸トップだからね。

グラム・シェアの統治と管理のコツを、ソルジェに教えるのに向いた状況だ……。




―――グラム・シェアは経済、物資面の動きだけでなく。

大学半島内の人材の動きにも、大きな関心を示していたことが分かった。

半島内にある各大学内の生徒および教員の交換、留学について調べさせている。

シドニア・ジャンパーの調査力から、大学側はそれらの動きを隠せなかった……。




―――まあ、大学側も普段から重要視しているからだよ。

『人材交流』が自分たちの研究や知識を、大きく加速させると知っているのさ。

ソルジェはそのあたりを、26才になってようやく理解しつつある。

北方野蛮人に対しての我々の努力は、それなりに形になって来つつあるようだ……。




「『スゲーな、レフォード大学ってのは。学問に対して、そこまで追及しているとは。『人材交流』。なるほど、当然だな。新しい知人から、得られる見識はおよそ新鮮なもんだ』」




―――いつかガルーナ王国に大学を建てるのだ、大学半島から教師を招いて。

そんな決意をさせるには、十分だったようだ。

ルクレツィア・クライス率いる天才錬金術師たちだけでなく、大学教授まで。

ソルジェは知的人材に対して、なかなか貪欲な考えを持っているらしい……。




「『学生たちが都市を運営しているとは聞いていたが、面白いな。銀行みたいな真似しているぞ。『大学が金貸しと投資もしてる』のか』」

「そうですとも。大学半島は自治性を高めるために、自ら資金獲得能力を有した大学が多い。錬金薬や、建築工学……古くは、冶金の技術まで。多くの知識を開発し、それを販売・運用する商人たちのギルドを作り、そこに資金を貸し出して、増やしたのです」

「見事なものだね。学生たちが、それを運営していたとは。まあ、学者たちや大学そのものも関わっていたのだろうけれど」

「『戦ばかりでは、鍛えられん脳みそだな。研究し、新たな発明を作り。それを売ってくれるギルドまで主催し、そこで金を増やして……増やして金で、大学半島の自治を『買った』のか。むろん、研究を続けることで、自分たちの価値を高めながら。ああ、ちくしょう。スゲー地域だな、『プレイレス』。ロロカやガンダラが、この土地で書かれた本をオレに読めというわけだぜ』」




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