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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その八百九十二


―――シドニア・ジャンパーの動きが、さらに効率化していく。

守りながら敵の動きを読み切っていたし、呪術に対しての解析もしたようだ。

狙うべきは、書類本体などではなく。

先ほど燃やし尽くしたはずの、黒い焦げ切れだった……。




―――そいつが動いているのだから、怪しむべきだよね。

戦術の基本、戦場では動くべからず。

クロウ・ガートは素晴らしい呪術師ではあるが、戦闘の専門家ではない。

ここもまた、須弥山系の呪術師には攻略しやすい相手と言えただろう……。




―――須弥山の呪術は、武術の補助としての側面も大いにあるから。

シドニア・ジャンパーは敵の動きから、戦術を察することが可能なほどには。

なかなかのものさ、ソルジェは実に楽しそうだったし。

満足もしている、須弥山にゆかりを持つ者が弱ければ失望が大きすぎたから……。




―――強さを愛する、戦士らしい傾向だろう。

ソルジェは二本足、二本の腕で生まれ落ちたすべての生き物が。

鋼を振り回して戦場に行くべきだと、考えているようなタイプの男ではある。

戦場でヒトを殺してこそ、一人前のヒトになれるのだと……。




―――あくまで北方野蛮人のなかでも、極端な存在であるストラウス家の思想だ。

気にしてはいけないし、おそらくあまり正しくはない。

しかし、シドニア・ジャンパーはそんな人物のお眼鏡に適ったのは事実。

かなりの呪術、なかなかの武術と最強の悪知恵だ……。




「そこが、呪術の『中心』だ!!」




―――槍を回避した、責めるように突かれた一撃を盾代わりのナイフで弾きつつ。

流すような動き、回転のフットワーク。

衝突し合う鍛錬を繰り返さなければ、ここまでの動きは肉体に宿らない。

彼女はなかなか、『マジメな須弥山』の修行者という側面もあったようだ……。




―――武術の万能性というものは、疑問視していいものだろうね。

ここまでの動きをするほど、マジメに鍛錬を積んだとしても。

『虎』たちがマフィア『白虎』になったり、詐欺師になったりしてしまう。

力に溺れるべきではないが、力は何とも深い底にいざなう悪癖があったのだ……。




―――黒い切れ端の一部を、シドニア・ジャンパーのブーツの底が踏んだ。

踏みつけて、踏みにじるように潰していく。

いかにも様式的、つまりは儀式的な意味合いが込められていた。

呪術師として成長しているソルジェは、そこに『呪術っぽさ』を感じ取る……。




「『呪術はどうしてなのか、儀式というものに弱い。あるいは、儀式そのものに依存してしまうというか。つまりは、文化や価値観に根差す何かでもある。使用する魔力の単位そのものが、弱くて、小さいからだろう。何か、デカい概念みたいなもの……『デカい型』に動かされたがるところがある』」

「まさに、その通り。呪術とは、語彙ではなく、文脈なのですよ。連ねて、動き、ようやく意味を成す。哲学の記述にも、近しいものだ」

「学びが多いよ。呪術に対しての見識を、深めてくれている。だが」

「『ああ。分かっているよ。シドニア・ジャンパーと、クロウ・ガートの争いだな。結果こそは見えているが、なかなかに大きな代償もあった』」




―――呪術の『中心』、それを踏みつぶしたシドニア・ジャンパーだったが。

呪術は『中心』からの供給を立たれてなお、活動している。

『中心』がフェイクだったわけじゃない、たんに独立しても動けるだけだ。

呪術の遠隔性についての研究を、ソルジェがつい初めてしまうほどには……。




―――クロウ・ガートという男の呪術は、とても繊細かつ高度ではある。

『魔眼』の秘術の多くに、威力でこそ大きく劣りはするものの。

使い方次第では、つまり道具として出来では負けてもいない。

戦闘で使いこなせれば、かなり有効ではあるだろう……。




―――つまり、逆に言えば。

『あまりに繊細かつ精密すぎるもの』だから、戦闘の最中に使用するのは困難。

『ターゲッティング』のように、そこそこ使用が限られるほど強い魔力。

それを注いで、素早く立ち上がり威力のある呪術の方が戦闘向きではある……。




―――常人なら、そこらで考えを放棄してしまうところだったが。

ソルジェほどの戦闘狂になってしまうと、そうもいかない。

限界を見つけた瞬間、それを超える方法を探し始めるタイプでもある。

大いなる探求者ではあり、時間の無駄と革新的な発明をしでかすタイプだった……。




「『ああいう、呪術の『中心』から切り離されても、しばらく動いてくれる呪術。あれは、どういう作りなんだろうな』」

「精密さと、内向きの構造です。時計の中身のように、精緻かつ多重の構造でデザインしておくことで。起動のタイミングを大きく遅く出来る。クロウ・ガートとやらの術は、歯車の変速機構をつけた呪術を好むのでしょう。長期間保存する呪術に、短期間爆速的に消耗する一方で、強さを得るデザインにしているわけです」

「『お前が、爆速とか言うと、面白いなあ。さすがは、教師か。ガキに通じやすそうな言葉を使ってくれる』」

「ストラウス卿に対して、使うべき言葉では、ありませんでしたな」




「『いいや。その逆だよ。オレは見ての通りアタマが悪い。そこらの山猿のなかに、デキのいい個体がいれば、負けるかもしれんからな。だからこそ、そういう言葉は非常にありがたい。言葉ってのは、ピンとくればさ。すぐに使いこなせるようになるからな』」




―――我らが戦闘狂は、何かしら呪術の極意を探し出そうとしている。

しかし、その好奇心よりも。

シドニア・ジャンパーの危機は、上回ったかもしれない。

黒い影が、いきなり巨大なサボテンのような形に化けたのさ……。




―――『形』というものは、多くを伝えてくれるものだった。

その刺々しいすがたは、何のためにあるものか。

攻撃である、防御としても使えはするが。

クロウ・ガートという人物の性格上、それだけで終わるはずがない……。




「これは、恨みの……復讐の呪術だからな。逃げろ、ノヴァーク。離れるんだ」




―――ソルジェは、見直してやることにした。

シドニア・ジャンパーが部下を気遣ったこともだけど、それ以上に。

この場では何の役にも立たないはずの、ノヴァーク少年。

彼は戦いの場にむしろ飛び出して、彼女の前に飛び出していたからさ……。




―――男の子らしく、無茶をするものだね。

ああ、イスを持ち上げて盾にしようとしていた点については悪くない。

無防備で出てしまうよりは、ずっといいよ。

それがクロウ・ガートの呪術を、防ぎ切るわけもないけれどね……。





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