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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その八百九十一


―――恋愛が持つ非対称性を、なんとも気まずく思いながらも。

ソルジェの好奇心の大半が、この戦いに対して注がれていく。

戦闘狂の一員として、あらゆる戦闘行為を基本的に愛してやまないからだし。

『虎』の系譜の技巧を使うとなれば、探る機会になるからでもあった……。




「『思い出せよ、マリウスあるいはノヴァーク。この戦闘はかなり大事なところだ。お前がしっかりと記憶力の隅々まで思い出してくれれば、オレがとても助かるんだよ。シドニア・ジャンパー対策になるから。ああ、それはきっと。お前にとっても有意義なことだ。オレはケチってわけじゃない。情報をくれたなら、優しくしてやれるぞ。お前にはもちろん、状況次第ではシドニア・ジャンパーに対してさえもだ』」




―――ソルジェは嘘をついてはいない、協力無比な女詐欺師を。

自分たちの目的のために利用できれば、邪悪さに対しても目をつぶる気でいた。

この女狐が集めてしまった『莫大な資金』で、経済攻撃をかけられるより。

仲間にしてやった方が、ずっとマシなのだから……。




―――影が放つ槍の触手の連続攻撃を、シドニア・ジャンパーはナイフで受ける。

シアンの動きが100ならば、彼女の動きは15ぐらいか。

十分な強さではあるよ、クロウ・ガートの呪いに対して負けはしないだろう。

特筆すべきは、彼女の動きが徐々に改善されていくところだった……。




「『戦闘訓練そのものは、怠ってはいなかったわけだ。いつでも抜けば、使える程度には保っていた。幼少時から、それなり以上の鍛錬をしていたわけだが……ここ数年は詐欺師仕事に必死だったのかもしれんな。部下を雇い、率いることに徹してきた。あるいは、教育に対して集中していたのか。どうあれ、キャリアが分かって来たぞ。須弥山暮らしは、かなりの長さというわけだ』」




―――須弥山なんかで武術を学べば、魂の深いところにまで刻まれるものだよ。

武術から離れ過ぎることを、望めない。

マフィアに堕ちていた『虎』たちも、そこらの兵士の数倍の強さは保っていた。

シドニア・ジャンパーも同じ、彼女はフーレン族ではないけれどね……。




―――ああ、大丈夫だよ。

シドニア・ジャンパーがフーレン族の『尻尾』を切って、人間族に化けている。

なんていうトリックについては、ありえないからね。

ノヴァークの記憶にも腰回りに尻尾の痕跡がないことは、確認済みだった……。




―――そもそも動き方と筋肉の付き方が、フーレン族のそれではない。

『虎』に対しての模造的な動きに終わっているのは、技巧の足りなさと種族特性だ。

解剖学的に言えば、フーレン族の広背筋と尻尾とつながる背骨の動き。

あれがなければ『虎』の動きの完全再現はなく、女狐にはそれはなかったんだ……。




―――筋肉は『履歴』を教えてくれるものさ、高度な達人の領域に達するとね。

どんな鍛え方をして、どんな武術を叩き込んでしまったのか。

必死になるほど思い出してしまう、記憶の底から今この瞬間を支配してくる。

暗殺系トラップである呪いの影と戦うこの時、彼女の過去は露出していた……。




「『呪法大虎たちの集団鍛錬と、似たものがある。須弥山に潜り込み、あちらの呪術体系と触れ合ったらしいな。ハイランドは帝国と、事実上の中立関係をかつては保っていた。クソみたいな宰相が、あの気高い武術王国を支配したまま。須弥山も動かなかった。そういう経験をしてしまうと、ヒトは忠誠心というものが揺らいでしまうのかもしれん。『虎姫』や義賊ヴァティの一族の一員にはなれず、お前は、ハイランドを離れたのか』」




―――それでも十分な武術が、シドニア・ジャンパーには宿っている。

どんどん技巧の切れと、幅が強化されていくのが手に取るように分かった。

どんな攻めも、すべてナイフとステップワークでどうにかしのいでいく。

本人はその過程で、安心を得ようとしているようだったし……。




―――もちろん、ソルジェと同様に呪術を分析しようともしていた。

あるいは、ソルジェ以上にかもしれない。

この呪術は暗殺をするための力は十分にある恐ろしいものだが、同時に限界もある。

クロウ・ガートは『暴発』を恐れてはいて、学長を殺したくはないからだ……。




―――不測の事態が起きて、学長以外にこの書類が渡ったとしても。

例えば学長の秘書あたりが、読んでしまう可能性だってありはする。

クロウ・ガートの危険性を、学長は正しく認識していない可能性はあるからだ。

人体実験で殺人までいとわないと知れば、もっと早く拒絶していただろうから……。




―――誤解に基づく事故のリスクを、クロウ・ガートは除去し切れなかった。

あまりにもクロウ・ガートらしくない、脇の甘さと言えるだろう。

もっと強い呪術をいくらでも仕込めたはずなのに、このありさまなのだから。

影の放つ槍に、刃を砕くほどの殺意が込められてはいないなんてね……。




「『友情かな。あるいは、友情不足なのか。もっと相手を知っていれば、調整が叶ったのだろう。クロウ・ガート、お前の弱点ではあるが、おかげで彼女らは死なずに済んだ』」




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