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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その八百八十九


―――『歴史が動き、時代が軋もうとしているこのときに』。

『我らの秘かな結託も、必然ではあるだろう』。

『私は自分の立場を分かってもいる、君の立場も想像に難くない』。

『決裂する可能性を、重々承知で問いかけているのだ』……。




―――『力を求めてくれないだろうか、君が畏れ嫌うであろう強力な力を』。

『我々が愛する過去が、この世界の現状を破壊しようとしている今に』。

『祭祀呪術の共有と、お互いの補完こそが必要なのだ』……。




―――『君の納得ではなく、大学半島と学問のために』。

『身を守る力だと、考えて欲しいのだ』。

『ああ、私は間違いなく正しいのではあるものの』。

『君の懸念もまた正しいのだろう、お互い立脚する正義が異なるのだから』……。




―――『乞いながら願いながらも、私は決裂を予期してもいるのだ』。

『誇り高き学長殿は、邪な祭祀呪術などに頼らない道を探すのだろう』。

『それでいてなお、義務と思えたがゆえにこの手紙を知人に預けた』。

『頼む、それだけだ』……。




「ずいぶん、必死そうなヤツだね」

「それはそうさ。クロウ・ガート殿にとっては、下手すれば自分の命よりも大きな願いだ。それなのに、彼も分かってはいるのだ。拒まれるだろう、と」

「そんなラブレターは、出す価値がないね。ビジネスライクの要求なら、さらに」

「これは哲学なんだよ。呪術師クロウ・ガートの、学者としての一面が叫んでいるだけさ。私の姫様に潜在的な敵対行為を取ったとしても、秘密のうちに祭祀呪術の情報を提供しようとしている。学問という存在が、軽んじられ、道具の立場に墜落するのを妨げようと必死なのだ」




「無理だったね。その手紙は、あんたに見つかっちゃったんだから」

「私がどうすると言うのかな、ノヴァーク」

「もちろん。その手紙を、自分の懐にしまうのさ。祭祀呪術とやらが、いかにも大げさに評価されているような気がするけれど。あんたが、ここまでするんだから」

「有益な『兵器』だよ。可能ならば、独占したい力だ。もちろん、大学半島に渡すような真似は、許しはしない。私が見つけてしまった以上、絶対に、大学半島の教授の誰一人として、この強大な軍事力を手にする者はいない。未来永劫に」




―――シドニア・ジャンパーの本気を感じ取るだけで、少年の背筋に冷たいものが走る。

彼女は詐欺師であり、主要な手口は金融方面だけれど。

けっして殺しが嫌いなわけじゃない、現に上等な傭兵戦力を組織しているんだ。

傭兵の主な仕事は単純である、略奪か殺害か誘拐もしくは善良じみた言葉で警備……。




―――『西』での運用は、反帝国ゲリラを見つけ出して狩り尽くすことだよ。

連中がどれだけの残酷を行っていたのか、ノヴァークも目撃している。

容赦も慈悲もなく、シドニア・ジャンパーの提供する金に従う殺りくの装置さ。

状況次第では大学半島の呪術研究者や、歴史学者を虐殺したかもしれない……。




―――過去が不変であることは、幸いだったよ。

そのおかげで、ボクもソルジェも最悪な不安を抱え込まなくて済んだ。

シドニア・ジャンパーは歴史的で冒涜的な、学者の大虐殺はしなかった。

しかし、それをするだけの力と動機はそろっていたのが怖いことだね……。




「釘を刺すわけにもいかない。ただ、拒まれただけのようにクロウ・ガート殿には伝わるように手配しよう」

「変に動けば、皇太子殿下と彼の師匠の関係性が悪化しちゃうかな」

「それは避けたい。力と知識を、殿下がつければつけるほど。将来の妻となる姫様の権力も強くなるのだから。時代は、ついに、女が支配する」

「別に女王が歴史上いなかったわけじゃないだろうに。大げさに思うけれど、少尉の感動に水を差すほど、オレも野暮じゃないさ」




「なかなか可愛げがある発言だよ。しっかりと、躾けた甲斐があるというものさ」

「もっと躾けてくれて構わない。オレはね、おそらく、まだ伝わり切っていないほど。あんたの役に立ちたいって思っているんだよ」

「いい言葉だ。背伸びを、感じてしまうけれど」

「背伸びはするさ。年上の女性を、口説こうってしているんだぜ」




―――青春は自由だが、相手は選んでくれたありがたいとは思う。

運命の悪女にそそのかされて、どこまでも深みに堕ちていく。

それがこの少年の青春時代とは、すでに決まっているのだけれど。

こうしてリアルタイムじみた疑似追体験をしていると、嘆きたくなるね……。




―――帝国兵にケンカ売るような、アンチ帝国の心を持っていたのに。

べつに祖国が嫌いなわけでもなく、帝国を好んでいるわけもない。

そうだというのに、この才ある若者は迷い道に入ったのさ。

恋愛で身を持ち崩す男は、乱世であっても珍しくはなかった……。




「このせまっ苦しくて、呪いや政治や、戦争がありふれた世の中だ。そういうものの道具になって、そういうものに支配されるだけの人生なんて、まっぴらごめんだよ。あんたは、その点で、最高なんだ。オレに、ありえないほどの刺激と、学びをくれる。祭祀呪術、なるほど。あんたがそれを望むなら、オレもそれを望むべきだな、シドニア・ジャンパー少尉」




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